06.(滞在)


交渉が終わり、お城に滞在することになったので必要なものを聞かれ、具体的な計画に入っていく。

「材料は集めでも多々お願いすることがあると思います。私だけで行動すると5年はかかるので……。特に、ファウードに搭載されていた転送装置を用意できますか? 構造の参考になりますし、分解して改造すれば使える部品もあるはずなので」
「うぬ」
「転送装置自体も作らなくてはいけないのですが、転送するときの乗り物も必要です。人間界へ無理やり移動するときには大きな負荷が掛かります。そうとう丈夫な魔物でも生身では厳しいので、並外れて強固な乗り物が必要なのです。前のものはファウードがそうでした」

ファウードはエネルギー補給にも乗り物としても優れて、まさに転送装置を積むのに最適だった。
あんなに大きくなくても、連れていく人数が乗られるだけの強固な乗り物を作らなくていけない。
中に耐衝撃の魔具などを仕込むにしても、大きなものなら基礎は大工仕事に詳しい魔物や土木の魔法を使える魔物の協力があったほうがいいかもしれない。

「乗り物……コルルの"シン・ライフォジオ"が使えるのではないか?」
「"シン・ライフォジオ"?」

知らない呪文だ。『シン』がつくということはとても強力な魔法だということがわかる。
コルルちゃんは攻撃の呪文を嫌っていたはずだし、私が一種類しか魔法を使えないからあまりそういう話をしなかった。

どんな術なのか聞けば、自分を含む任意の対象を柔らかい光で包み込み、その光の中にいれば水の中であろうと宇宙空間であろうと「生命」が守られるものだという。

「私と清麿はその術で宇宙に行っても平気だったのだ。
人間界に行くのも平気ではないか?」
「コルルちゃん、どう?」
「なる、かもしれない。そういう術だから」

さすが、コルルちゃんはすごい!
元々王の戦いに参加したのは1000年在位できる魔力の素質のある者だ。
それが過酷な戦いの中で術に磨きがかけられる。
だからってそんなに凄い術を使えるとは思わなかった。

「それができたら乗り物を作る手間が省けて完成が早くなるよ!」
「同時に何人にかけられる?」
「わからないけど、10人は大丈夫だと思う」

性質上、日常で多用する術ではないからよくわからないらしい。
コルルちゃんはこれから装置が完成するまでの間に実験と訓練をしてみると言った。

「それから一度家に帰って必要なものを取ってくるのに10日ほどいただきたいのですが、いいですか?」

広い作業場とお城の書物は魅力だが、家に帰ってお母さんの遺品や今まで作ってきた転送装置の部品を取って来なくてはいけない。
必要なものを選ぶだけで数日かかりそうだ。どうせ一朝一夕でできるものでもないから準備は入念に。
それでも今後も何度か家に戻ったり行き来を繰り返すことになるだろう。
特に疑問もなく了承してもらえた。王様のための行動ということになっているせいか、お二方はとても協力的だ。

「手伝いはいるか?」
「いいえ。どうか私たちの住処を明らかにすることがありませんように」

私の家を王様にもコルルちゃんにも知られてはいけないので、運ぶのも一人でいかなくてはいけない。
念のため姿隠しと尾行禁止の工夫を使おう。
お母さんの書は私にしか読めないから問題ないと思うが、お城でどれだけ私が秘密主義でいられる環境を用意していただけるのかもわからない。触っちゃだめ、入っちゃだめな領域には結界を張らせてもらうことになるだろう。
呪術師の端くれらしく、自害用の刃は常備している。

「わかった。それまでにこちらも部屋と資金を用意しておく。他に必要な材料はあるか?」
「作ってみないとわからないことも多いのですが……思いつく分はあとで紙に書き出しておきますね」

少しずつ地道に工夫を積み重ねながら作っていくつもりだったのに、計画を前倒しされて、いろいろと変更点もあるのですぐに設計図や計画書は書けない。

「あとは動かすためにたくさん魔力がいるので、協力してくれる魔物を……これはお任せしていいですか?」

私には知り合いが少ないし、一族の知り合いに頼るわけにはいかない。というか、隠さなくてはいけない。
王宮にかかわる魔物、王様たちと一緒に学校に通っていた魔物、王を決める戦いに参加した魔物。
話す相手は選ばなければいけないと思うが、つてはたくさんあるはずだ。

「うぬ。……"王を決める戦い"に参加した魔物には人間界に行きたい者も多いだろうしな」
「ガッシュの件を話すのは信頼できる者だけでも、人間界に行ける機会として平等に声をかけよう。互いに互いを見張らせる。
ただし俺とガッシュ、コルルとティアが連れていっていけないと判断した魔物は連れていかないことにする。それでいいか?」
「十分です」

さて、私はこれから知識と技術をフル活用しなくてはいけない。忙しくなりそうだ。



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