05.(交渉中)



私はコルルちゃんにしたのと同じ説明を王様とゼオン様にした。

・心臓のところに手を当ててみて、しばらく経って自分の魔力が減ったような感じがするなら、私の知る呪いで確定である。

ゼオン様がすぐにこれを試し、その通りになったのでお二方は私の進言に注意深くなった。

・この封印は"術"だけでなく"魔力"を封じ、寿命を縮める。
・珠は心臓に近接して留まり、半永久的にすべての魔力を吸収し続けるため、術者にも治すことができない。
・コルルちゃんの意見では人間界になら治す方法があるかもしれない。
・困難ではあるが私は人間界に行ける転送装置を作ることができると思う。

簡単にまとめると要点は以上のことだ。
人間界のくだりでは壁際に立っているコルルちゃんも口添えしてくれた。
転送装置の話にはお二方とも驚嘆していた。

「ファウードの転送装置は"王を決める戦い"が終わってから動かなくなったが、まだ人間界に行くことは可能なのか?」
「正確な調査をしたわけではありませんが、ファウードに備え付けられた転送装置が動かないのは故障かエネルギー不足です。あれは莫大なエネルギーを必要とします。母はファウードの血液をエネルギーに使うような仕組みに作ったのだと思いますが……"王を決める戦い"が終わって魔界と人間界の隔たりが強くなった今はますます多く必要です。それさえ集められれば、おそらくできます」

以前のファウードがいないので血液を使うことはできない。魔力を一カ所に蓄える方法を考えなくてはいけない。
人間界へ渡るのは神の真似をする能力だ。
王を決める戦いで使われた本や王杖や、王宮にかかわる不思議な道具は"神力"で動いている。"神力"は魔力よりも密度の高い不思議な力で、母の研究によると莫大な魔力を1カ所に集められれば疑似的に"神力"に変換できる。

「清麿に会えるのだな!?」

王様は嬉しそうに言った。
清麿とは"王を決める戦い"で王様のパートナーだった人間のことらしい。
その人に相談すれば絶対に解決できる と 絶対的な信頼を置いているみたいだ。

私はまだ自分がどうすべきか決めかねている。
コルルちゃんのことが大切だし王様に申し訳なく思うがナタのことも大切で気がかりだ。

封印をそのままにしておけば依頼人に対してナタの安全は保証されるが、解いてしまえばそうじゃなくなる。
――私たちの一族は呪いの依頼を受けるとき、まず術者と依頼人が契約の呪いを交わす。
契約違反ができないようにする呪いで、口封じなどをなくすためにある。
術者は依頼を遂行すること・守秘義務などを誓い、依頼人は術者を守ることなどを誓って、特殊な道具で身体に一行呪文の刻印を書く。
一つの刻印は小さく目立たないが、ナタなどは服を脱ぐと体中刻印で覆い尽くされている。たくさん仕事をこなしてきて有能な呪術師の証だ。
王様に珠を飲ませて封印を完了した時点で義務は果たしており、あとは部外者に依頼人を明かしたりしない限りナタが刻印に蝕まれることはない(元々術者を守るためのものなので術者に有利なしくみだ)が、
私たちが王様の封印を解いてしまったら、契約に想定外の事態となって依頼人の義務も消える。
だから私が勝手なことをしたいなら、まずナタの安全を確保しなくてはいけない。

「私が転送装置を作るにあたって、三つお願いがあります」
「なんだ?」
「一つ目は、資金の用意と最大限の報酬をいただきたいということです」

要するにお金くださいってことだ。
本気で作り始めたらかかりきりになるだろうし、唯一無二の知識と技術を提供するのだから不当な請求ではないと思う。
お城からお金取らなきゃどこから取るのって感じだから、ボランティアはしない。
何より、前金とナタが受け取ったであろう成功報酬を依頼人に突っ返すことが見逃してもらうためのお詫びの一歩だと思う。

「うぬ。わかったのだ」
「いいだろう、できるかぎりの褒美を取らせる」
「ありがとうございます。二つ目は王宮の書物を見せていただきたいということです。"神力"……私たちがそう呼んでいる、王杖などにも宿っている不思議な力は、王族様とかかわりが深いので、王宮の資料があれば研究も速く進むと思うのです」

正直これはついでというか他の研究や自分の好奇心のためというところがある。
なくても不可能ではないが、このような機会は二度とない。魔具師として最重要なことだ。

「それならしばらく城に住んで好きなだけ読めばいいのだ!」
「寝室と作業場を提供しよう。他にも必要なものがあれば言え」
「ありがたいことです」
「こちらこそ、協力してくれてありがとうなのだ」

王様は呪いを受けているにもかかわらず見た目は健康的で、はつらつとしている。
熟達した印象のあるゼオン様に比べてどこかあどけなさが残っているが、勇者のような真っ直ぐの眼差しだ。
眩しい。目が離せないような、目を逸らしたいような、引力と恐ろしさがある。

「三つ目は、出来上がった転送装置の扱いについてです。
できれば動かすのは一往復きりにして、その後破壊していただきたい……そしてその一往復で人間界に行く魔物は慎重に選んでいただきたいのです」
「なぜなのだ」

私はそっとコルルちゃんを見やる。
自分で話さなければいけないと思う部分では見守ってもらっていたが、これはコルルちゃんの望みの部分から、コルルちゃんが説明したほうが正確かもしれないと思った。

「悪用されるのが怖いの。もう魔界の争いに人間界を巻き込んではだめ。今度は本を燃やせば自動的に魔物が帰るわけじゃないのよ。ガッシュを治すためだけに行くの」

コルルちゃんが言う。
"王を決める戦い"で使用された本はもうない。

「コルルちゃんには3年前すでに転送装置の話をしていますが、同じ理由で作ってはだめだと……けれど王様のために決断してくれたので、私がこうして参じたのです」
「うぬぅ……わかったのだ。一度しか使わないことにするのだ」
「ありがとうございます。それでは協力させていただきます」

完成させるかどうかはまだ決めていないのだけど、ね。


 main 
- ナノ -