04.(三日後)


「顔を上げろ」

玉座の隣から声がしたので、手と額を床につけて畏まっていたのを、恐る恐る頭だけ上げた。
玉座には金色の髪の瞳の男の子。年は私たちと同じくらいで、コルルちゃんから聞いていた話と矛盾しない。これが王様……。
その隣には王様とそっくりな容姿で銀色の髪と紫色の瞳の男の子が控えている。こちらは王様の双子の兄君である雷帝ゼオン様だろう。強い雷の術を使う魔物だから畏敬を込めてそう呼ばれているとナタから聞いたことがある。ナタは職業柄政治勢力図に詳しい。今はきっと王様の護衛を兼ねているのだろう。

「その容姿、お前は"呪いを扱う一族"の者だな」

私たちが表舞台に姿を現すことは無いのだが、さすがに前王の子息であり現王の兄であるゼオン様は存在を知っているらしい。
いつかこの方も私たちの依頼人になるのだろうか。凛々しい瞳を見るかぎりそんな邪道には頼らなそうだけど。

「はい……けれど今日は一族とは関係なく、私個人としてまいりましたことをご了承ください」
「うぬ。おぬしはコルルの友達として来てくれたのだな」
「……コルルちゃんに、王様の危機ときいて馳せ参じました」

王様は寛大な対応だしその通りなのだが、私がコルルちゃんのために行動した――つまりコルルちゃんが私の弱みだと悟られるのはよくないので少し誤摩化した言い方をした。
呪いの一族は利用価値がありすぎるので利用され方には気をつけなければいけないのだ。

「ガッシュの術を使えなくしたのはお前たちの一族ではないのか」
「……わかりません。私が調べた限りでは違うようです」

もちろん嘘なのだが、仮に"違う"場合に"違う"という確信を持つことは難しいのは本当だ。
秘密主義の一族なので近しくない依頼は知らないことが多い。

「ガッシュ、お前に"飴"を渡したのはどんな魔物だった?」
「に、2メートルくらいの大きな魔物だったのだ。毛がもじゃもじゃで、頭に角が生えていて、……」

なにそれ。ナタじゃないの?
訝しく思って王様を見つめると、王様は目を逸らしながら喋っていて、嘘をついているように見えた。どうして?

「私たちの一族はみな小さくて力も魔力もとても弱いです。だからそれは私の一族の者ではありません」

王様に呪いをかけたのは私たちではない という偽りの言い訳ができるのは王様のおかげだ。
けれどどういうことだろう。ナタが余所者を雇って仕事をさせたというのは考えにくい。

「そうか。……犯人を見つけ次第、王に危害を加えたことを後悔させてやる」

ふつふつと湧く怒りを抑えるようなゼオン様に、王様は言い募る。

「ゼオン!あの者にも何か事情があったかもしれないのだ!そんなふうには見えなかったのだ!」

ナタはさすが有能だからうまく近づいて仕事を遂行したのだ。
たしかに食べるために仕事をしなければいけないし立場上断れなかったのだろうという程度の事情はあるが、故意で騙したことは間違いない。
王様はナタを信じて、庇っているらしいので申し訳なさを感じた。
と同時に希望も抱く。もしかしたら、ナタが見つかっても見逃してくれるかもしれない。同情を引く言い方をすれば恩赦があるかもしれない。取引の上で有利な条件を付けられるかもしれない。

「ガッシュ、お前は甘い。今は術が使えなくなったことをごく親しい者にしか知らせておらず 念のため護衛を強化しているが、いつかは怪しまれる。襲われたとき肉弾戦だけで勝てる人数には限りがあるだろう」

王杖(ワンド)を持っていれば周囲の魔物は術を使えないが、"持っている本人だけが術を使える"という特権が潰れては王杖の身を守る効果半減だ。
そしてそれだけじゃない。この呪いは寿命を縮めるのだ。



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