佐久間の姉(捏造)視点
佐久間がお姉さん大好きな上に泣き虫です
お姉さんも佐久間を溺愛しています
一応不佐久です




私が産まれたとき、あなたはまだこの世にはいなかった。

私が幼稚園に入園したとき、あなたは次郎という名を付けられて、多くの人に愛された。

私が年長さんになったとき、あなたは同じ幼稚園に入園してきた。ところ構わず"お姉ちゃん"と甘えてくるあなたはとっても可愛らしかった。

私が小学生になったとき、あなたは年中さんになった。幼稚園に私がいないと泣きわめいて、先生やお母さんをいっぱい困らせた。

私が三年生になったとき、あなたは小学校に入学した。私とお揃いがいいと、赤いランドセルをしつこくねだり、黒いのは嫌だと入学式の前日まで泣いていた。

私が中学生になったとき、あなたは四年生になっていた。
相変わらず幼いあなたは、私が女子校に入ったと知り、またまた泣いた。
そして、男の子でも女子校に行ける方法を自分なりに調べてはお母さんに怒られた。

私が中学三年生になったとき、あなたは帝国学園の中等部に入学した。
私の学校も進学校だったけれど、帝国学園には敵わない。無敗と呼ばれるサッカー部に入り、毎日くたくたになるまでボールを追いかけて、一年生のうちにレギュラー入りを果たした。勉強もサッカーもできる、そんなあなたは突然大人になったような気がして、あなたを遠くに感じた私は少し寂しくもなった。

私が高校生になったとき、あなたは中学二年生になっていた。年相応の反抗期がきていたのかもしれない。あなたはあまり、私と話さなくなった。それに人前で泣くことももうしなかった。

私がGWを満喫していたとき、あなたは多くの練習試合をこなしていた。観に来ないで、と言われていたけど私はあなたが試合をしている姿が見たくて、一度だけこっそり観に行ってしまった。まさかあなたが自分よりも大きな相手を吹っ飛ばし、校舎を壊され泣いている他校の子を見ながら笑っているなんて思いもしなかった。

私が夏期講習を受けていたとき、あなたは全国大会の一回戦で負け、入院するほどの怪我をした。すごーく心配だったのに、病室に入ろうとした瞬間出て行けと怒鳴られた。私は初めてあなたから"拒絶"をされた。

私が友だちと映画を観に行っているとき、あなたは入院していた病院から突然姿を消した。
次の日だったか、お母さんの携帯に"真帝国学園にいるので心配しないでください"というメールが届いた。真帝国学園ってどこにあるの?そんな学校聞いたことがない。それに怪我は大丈夫なの?無理してもいいことないわよ。言いたいことは沢山あったけど、あなたは私が送ったメールに返事をしなかった。

私が箏曲部の演奏会に出ていたとき、あなたは愛媛で見つかった。大怪我をして。
二度とサッカーができないかもしれない。お医者さんにそう言われ、私はお願いですから助けてください、と周りの目も気にせず泣いた。

私が学校を休んだとき、あなたは意識を取り戻した。
やつれてしまった私を見て、ごめんなさいとあなたは泣いた。やっぱりあなたは泣き虫なんだと、そんなことでホッとして、私も泣いてしまった。
そんなところに大人の女の人が来たものだから、私もあなたも顔から火が出そうたった。

私が再び学校へ行けるようになったとき、あなたはリハビリを始めた。これでサッカーができるなら、と辛いリハビリにも必死に耐えていた。

私が文化祭の準備に追われていたとき、あなたは世界大会の日本代表候補に選ばれた。
残念ながら、代表に落ちてしまったけれど、あなたは決して諦めなかった。絶対にイナズマジャパンに入るんだと、毎日遅くまで練習していた。

私が文化祭で演劇をしていたとき、あなたはイナズマジャパンに選ばれた。
嬉し泣きしたあなたを見たのは初めてかもしれない。
頼りないあなたが一人で外国へ行くのは非常に心配だったけど、"大丈夫だから"と笑う、あなたを信じてみたいと思った。

私が自宅でテレビを観ていたとき、あなたのいるイナズマジャパンは世界一になった。
お家でお父さんやお母さんと手を取り合って喜んだ。
サッカーの大会に行ってきたはずなのに、ペンギンのストラップを沢山持って帰ってきたのはびっくりしたけれど、ただいま、と言ったあなたはとても成長したように感じた。

私がテスト勉強をしていたとき、あなたは中学になって初めてお友だちを連れてきた。制服を着崩したモヒカン頭の男の子は、どうしても不良にしか見えなくて、あなたがこんな人と仲良くしているなんてと私は不安だったけれど、あなたの選んだ友だちだから、きっと素敵な子だろうとも思った。
後で同じイナズマジャパンのメンバーだと気付いて、ホッとした。

私が高校二年生になったとき、あなたは中学三年生になっていた。
転入生を迎えたチームは随分強くなったと、あなたは嬉しそうに話していた。

私が部活に明け暮れていたとき、あなたも同じように部活漬けの生活を送っていた。
そんなとき、あなたは言った。"試合を観に来て欲しい"と。

私が部活を休んだとき、あなたはFF地区大会の決勝戦に出場していた。
キャプテンになったあなたは、例のモヒカン頭の司令塔君をフォローしながらチームのみんなを支えていた。
元々人を引っ張ることが苦手なあなたが、キャプテンなんてできるとは到底思えなかったし、やっぱりあなたはリーダーらしくなかった。だけどチームのみんながあなたを必要とし、あなたを信じていることは試合を観ていて痛いほど伝わってきた。そして、キャプテンといっても鬼道君みたいなカリスマ性があってリーダーシップのとれる子もいれば、あなたみたいに、いつもみんなの横にいて、みんなが安心してプレーができるような存在になれる子もいるんだということが分かった。
久し振りに生で観たあなたの試合をしているときの顔は、キラキラと輝いていて思わず沢山写真を撮ってしまった。


私が高校三年生になったとき、あなたは帝国学園の高等部に進級した。
私は予備校に通いつめていたから、あまりあなたと話す時間が取れなかった。
それでもあなたは、勉強机にかじりついている私に時々ココアを淹れてくれた。

私が大学生になったとき、あなたは高校二年生になった。
勉強に部活に学校行事。やること盛り沢山な毎日はとても大変そうだったけど、いつも楽しそうだった。
彼女はできた?と聞くと、顔を真っ赤にして"そんなのいない!"なんて答えるものだから、私は少し嫉妬してしまった。でも、絶対可愛い彼女だから、是非会ってみたいなとも思った。

私が大学生二年生になったとき、あなたは高校三年生になっていた。
あなたは自分の進路ですごく悩んでいた。サッカーに関わる仕事がしたいと、自分の会社を継いで欲しいお父さんを懸命に説得していた。お父さんは悩んだ末、あなたの意志を尊重した。結局私もお父さんも、勿論お母さんも、あなたが可愛くて仕方ないのだ。
会社は私たちの従兄弟が継ぐことになり、佐久間家は今も安泰である。

私が婚約をしたとき、あなたはお見合いを断っていた。私は、彼の仕事の都合でシアトルに行くことになった。その報告をしようとしたのに、あなたが見合い相手に会うことさえ拒んだから、私の話題はそっちのけになってしまった。
24歳でお見合いなんて早いかもしれないが、学生時代も含め、あなたの浮わついた話を一度も聞いたことのない両親からしたら、どこかのんびり屋のあなたが婚期を逃すのではないかと心配なのだ。
だけどどうしてもあなたが嫌がるものだから、お見合いはおじゃんになった。
私たちは、きっと彼女はいるがあなたが恥ずかしがって教えないだけだという結論に至った。

私の話をしたとき、あなたはやっぱりショックを受けた。実家を出て国外に行けば当分会うことはできない。それでもあなたは泣かなかった。それはあなたが強くなったのではなく、恐らく私以外に、あなたの涙を受け止めてくれる人ができたからだ。
泣くことは悪いことじゃない、それに強いから泣かないとか弱いから泣くなんてことはないのよ、と私はいつもあなたに言ってきた。


そして、私がお嫁に行くとき、あなたは会わせたい人がいると言ってきた。

「あ、あのぉ……」

出発前日に"会わせたい人がいる"なんて呼び出されたら、私は行くしかない。どうして私だけなんだろうと思いながら、色白の可愛い彼女を連れたあなたを想像しては複雑な気持ちになりつつ、待ち合わせ場所に急いだ。
色白を想像したのはあなたの肌が浅黒いから、白い子の方が好みなのではないかという私の推測。


「お友だち……ではないのよね」

あなたの隣に立っている人を見て驚いた。可愛らしいどころか目付きの悪いその人を見て、思わず私は萎縮した。

友だちだよ、と言われたらこんな忙しい中友だち紹介なんかで呼びつけないでよ、と笑えた。

「うん。姉ちゃんも一度会ったことあるよ、昔のことだけど」

「ふどう、あきおくんだよね?」

「はい」

不動明王。今ヨーロッパで活躍中のサッカー選手。私もあなたの影響で、サッカーのことなら少しは詳しい。それに私の友人に彼のファンがいて、"雑誌のインタビューで彼女いないって言ってたー"と嬉しそうに話していたのはまだ記憶に新しい。

「次郎と、お付き合いをしているっていうこと?」

不動君は静かに頷いた。ああ、私は寂しいと思いながらも次郎に可愛い彼女ができたことをお祝いしようとしていたのに。あなたの恋人は可愛いどころか怖い(肌の色は白かったけど)。私の彼は顔も中身も平和そうな人だし職場も女性が多かった。おまけに女子校暮らしの長い私は、こういう男の人を前にするとどうしても怯えてしまう。

「不動、姉ちゃんが怖がってるから笑って」

「これが精一杯」

ぶっきらぼうに答える不動君。まさか、それで笑ってるなんて言わないよね?
でも、

「こっちだって緊張してんだよ」

ってあなたに言ったのを聞いたら、不器用な子なんだなって思えた。

帝国学園高等部にある屋上庭園は手入れがしっかりされていて、とても綺麗だ。
恋人紹介なんだからカフェでもいいじゃない、と先に言えば良かったかな。
今日は創立記念日で学校が休み、学園内にはあなたの権限で入れるし、庭園には高校生のときに不動君が持っていた(いや、作ったの方が正しい)合鍵で足を踏み入れることができた。まったく、鍵なんて作っちゃいけないんだから。
私が怖がったせいでずれてしまった話をもとに戻す。

「お父さんとお母さんは?」

「知らない。言ったらショックで寝込みそうだし」

それはそうでしょう。あなたを猫可愛がりしていた両親だって、あなたが素敵な女の子と恋愛していることを望んでいる。

聞きたいことは山ほどあった。いつから付き合っているの?遊びではないの?将来のことは考えてる?本当に好きなの?

でもあなたが何も言わなくなったから、私も話しにくくて黙ってしまった。
長い沈黙が続くと、不動君はあなたの頭を軽くはたいた。
私ですら手を上げたことがないのに――

「お前が姉ちゃんには全部言うっつーから一緒に来てやったのに黙ってたら意味ねぇだろくそアホ」

アホ!?可愛い弟に向かってなんてこと言うのこの子!
黙って俯いてしまったあなたの代わりに、不動君は話し始めた。私の目をしっかり見て。

「こいつとは高校生の時から付き合っています。それまでは友人だと思っていたけど同じチームでサッカーやっていくうちに、仲間以上の感情を抱くようになりました。俺も佐久間も、男同士だということで悩むことは山ほどあります。でもこいつが、俺が女なら良かったって泣く度に、女だったら出会うことすらなかったと思いました。だから俺は佐久間が男で良かったと思っています。今も男として見ているし、それを踏まえた上で誰よりも愛しています」

きっぱり言い切った不動君を、あなたは驚いた顔をして見ていた。
きっとここで何を話すのか、あなたと不動君は頑張って色々考えたんだろうな。
怖いと思った不動君は、あなたが選んだだけのことあって、とても素敵な人だった。

本当に、苦しいほど一杯悩んで、沢山後悔もしながら、それでも二人でいたいという道をあなたと不動君は選んだ。この場所は、きっと二人が唯一世間の目から解放される大切な場所だったのかもしれない。
でも鍵を勝手に作るのは犯罪なんだけどなぁ。

私に言えることはなんだろう。姉の私が反対したところでこの子達は離れない。確かにあなたが同性と付き合っていることは、まだ少し抵抗がある。だけど、あなたの隣にいる不動君は、あなたの涙を受け止められる子だと思う。
だから、私は

「私がいう立場じゃないんだけどね」

再び流れた長い沈黙を破ったのは私だった。

「あなたたちのお付き合いを認める上で一つだけ、条件があります」

姉である私が望むことはこれだけだ。

「絶対、幸せになりなさい」






私がお嫁に行ったとき、あなたはとても幸せそうだった。あなたから送られてくる写真を見て、私も負けていられないなぁと、おかしな対抗意識ができた。
姪か甥ができたら、あなたにも不動君にも、いっぱい可愛がってもらおう。でもあなたがおじさんって呼ばれるのは少し可哀想かな。まだ早いよね。

お正月には実家に帰るから、そのとき色んな話を聞かせてほしい。お父さんやお母さんから結婚だ恋愛だって話が出たら助けてあげよう。だけどいつかは二人にも打ち明けた方がいい。もしかしたら、一生受け入れてもらえないかもしれないけれど、二人だってあなたの幸せを一番に願っているんだから。

メールを送ると今度はちゃんと返ってくる。多すぎない?って思っちゃうくらい。だけど、ちょっと鬱陶しいくらいのあなたが一番可愛いから、許してあげよう。きっとこのことを知っているのは私と両親と、そして不動君だけだ。
10年前に書いたものよりも、ずっと楽しい文章を作って、私は送信ボタンを押した。









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