<不動side>

もしかしたら先程の口論で誰か起きたかもしれない。そんなどうでもいいことを考えながら俺はベッドに横になった。
誰かが聞いていたところで関係ないしどうでもいい。ただ、適当になにか考えていないと佐久間の事ばかり考えてしまいそうで嫌だった。だがどれだけ思考を切り替えても無駄であることは自分自身が一番理解している。

「馬鹿な事をするな!」

泣きそうな表情のまま佐久間は怒鳴った。襲われかけた女みてぇな顔して。

拒絶された事は勿論悲しかった。受け入れてもらえるなんて到底思っていないが、やはりあれだけ目の前ではっきりと拒絶されると堪えるものがある。
そして、悲しみと同時に背筋がぞくぞくするような快感が体に走った。もっと乱れる佐久間が見たかった、もっと泣かせてやりたかった、フラれてショックなくせにこんなことを考えている俺は末期的な変態なんだろう。

なぁ佐久間、お前は俺を買い被り過ぎなんだ。俺の本性を見ただろ?俺はまともじゃない。お前が好きで好きで壊したくなるくらい好きなんだ。嫌がって泣き叫ぶお前をめちゃくちゃに抱いてやりたい。

だけど

俺を……好きになって欲しい。


俺はどうしようもないエゴイスト。最早どうしたいのか俺も分からない。ひたすらに欲望だけが膨れ上がっていく。俺にはこの反比例していく思いをどうすることもできなかった。


「不動、一緒に練習行こうぜ」

和解後、すっかり敵意をなくし、俺には眩しいくらいの笑顔を見せてくれるようになった佐久間。
アイツは、俺を良い友達として慕ってくれていた。
そんな気持ちを裏切ったようで、とてつもなく申し訳ない気分だ。
だがそれを態度で示せない。いざ佐久間の前に立つと泣かせたくなる。

最早どうしたら良いのかどころか、自分がどうしたいのかも分からない。



そして、何も解決しないまま、夜は深深と更けていく





次の日の朝、いつものようにメンバーは食堂でわいわいと騒いでいた。今日は何をしようだとか、必殺技を今日こそ完成させるだとか、皆やる気が美袋っている。
そんな中、佐久間だけは静かに席に座っていて、その様子に俺は思わず口角を上げた。

朝食が終わり、ミーティングが終わり、練習が始まる。皆が我先にと出ていくのをぼんやりと見つめ、最後に佐久間が出ていくの見計らって佐久間の腕を掴んだ。


「不動……」

まだ目を合わせられない佐久間。相変わらず純情である。そして何よりそう感じるのは―――

「お前、目赤いな。昨日寝てないだろ」

「ちがっ!!」

「一晩中俺の事考えてたのか?」

「そんな訳、ない……だろ」

声が徐々にしぼんでいき、勘弁してくれと言わんばかりに腕を振りほどこうとしていた。

そんな姿は、俺の加虐心を煽る材料でしかないのを佐久間は知らない。
もっと困らせてやりたい、恥ずかしがらせて泣きそうな顔がみたい。
佐久間は俺の腕を思いきり振りほどいて逃げようとしたが、俺が逃がす訳もなく後ろから肩を抱き締めると、驚くくらい大人しくなってしまった。
それに気をよくした俺は佐久間の耳元で静かに囁く。

「昨日思ったんたけどさ、お前ってさ結構感じやすい体してるよなー」

耳に息を吹き掛けるように言うと、ひきつったような小さな悲鳴が上がる。

「そうそう、耳も弱ぇよな。けど一番弱いのは」

そう言いながら俺は佐久間の首の、丁度髪を分けてむき出しになっている部分を軽くなめてやった。

「ひゃあっ!……」

ぴくんと身体が跳ねて甘い声を出した後、我に返ったように顔を真っ赤にしながら俺と距離をとった。
俺はそんな佐久間を見て笑う。

「そこ、本当に感じやすいんだな。わざわざ髪分けて出してるって事は誰かしら誘ってんのか?」

「なんで……」

「は?」

「なんでこんな事するんだ」

「………昨日言ったよな、好きだからって」

「好きならこんな事――」

俺が距離を縮めて壁に追い詰めると佐久間は恐怖からか言葉を失った。


「昨日は悪かった」

「え?」

「もう、無理矢理あんなことはしない」

「不動……」

「俺はお前が好きだから、ああいう事はしてぇし止められない。だから本気でお前が嫌なら、今後一切お前には近付かない、練習以外に関わりを持たない。これ以上一緒にいて、お前に何もしない保証なんかないんだ」

「っ……」

「ただ、もし俺を好きになってくれるなら、俺とキスしたいとか、そう思ってくれるなら」

俺は佐久間の唇を優しくなぞった。

「お前から来て欲しい」

佐久間は驚きを隠せないように目を見張る。

もう待てない、それが本音だけれど、やっぱり佐久間の心も欲しい訳で、自分から行けば佐久間が傷付くという理由も勿論あったがそれ以上に、佐久間から求めて欲しいと願う自分がいた。

結局、俺は佐久間の身体も心も欲しかった





<佐久間side>

今――――
したいって……言いそうだった。
触れたいって思ってしまった。

不動の背中を見送る。
俺に追いかける勇気なんかなかった。



昨日の夜、ずっと不動の事を考えていた。
もしキスが嫌だったら、あんなに意識なんかしない。心が揺れてしまったからこそ頭から離れないんだ。
壁に押し付けられた昨夜、想像以上に強い腕の力に驚いた。体格は華奢な方である不動も男なんだなと思い知らされる。とは言っても俺も男であるが、あの腕に抱かれたいと思ってしまったのは本心であった。

確かに不動は意地悪だ。
でも、今までだって一緒にいて楽しかったし良い奴だと思う。
あんな事された今も、不動を心から拒絶するなんてできない。

それは元々、俺に不動を恋慕う気持ちがどこかにあったからなのだろうか

不動に好きだと言われてキスされて、俺の中で眠っていた感情が目覚めてしまったのかもしれない。





*



「いっけー!」

「ほら、そこ!ノーマーク!!」

「頑張れぇぇ!!」

今日の午前のメイン練習は5対5で行うミニゲーム式の試合。
外野で観ている俺達も選手の弱点や、どんな時にどのような行動を取るのが良いかなど客観的に観ることができる大切な練習だ。

今回は司令塔強化ということで、鬼道と不動のチームに分かれて試合を行っている。

「鬼道!頑張れ!」

俺はいつものように鬼道を応援する。
今日は中々決着が着かず、残り僅かだがまだどちらのチームも一点も入っていない。

鬼道がボールを奪い、攻めていくと鬼道と不動が一対一になった。
二人で激しい攻防が続く。外野も騒がしい。

やがて、不動が抜かれてしまいそうになった。
その時

(不動、頑張れ……)



「おっ、不動がボールを奪ったぞ!」

「不動やるな〜」

不動はなんとか鬼道からボールを奪ったようで、そこからパスを回し、豪炎寺に渡る。
そして豪炎寺のシュートで点が入ったのだった。

「今日は不動のチームの勝ちだ」

「よっしゃぁ!」

「豪炎寺ナイス」

「不動、さっきのカット良かったぜ」

ミニゲームとはいえ勝てば嬉しい。不動のチームは皆、興奮が覚めないのか盛り上がっている。外野も、今日は割りと良い試合だったのでいつも以上に意見をぶつけ合っていた。

俺は、咄嗟に不動を応援してしまった自分に驚愕し、「かもしれない」という推測が確信に変わる。

俺は、不動の事―――



「皆さーん、お疲れ様。もうお昼なんで沢山食べて午後の練習までしっかり休んでくださいね」

「よっしゃぁぁぁ」

「腹減ったー」

午前の練習が終わって、昼食を待ちわびているメンバーは宿舎を目指して走って向かっていた。

不動は皆とは少し距離を取って最後の方でゆっくり歩いている。

言わなくちゃ

そう思った



もうみんな宿舎に入ってしまった。俺は不動の腕を掴む。驚いて振り返る不動。俺は逃げたくなるような気持ちを抑えて、震える唇を開いた。

「好き」

キスはできなかった。
言い終わった時には唇が塞がれていたから。
唇を離した後、俺は苦しいくらい強く不動に抱き締められていた。







「…ふどー」

「あ?」

「お腹すいた」

「ば、馬鹿!色気ねぇのかお前は」

「んなこと言ってもしょうがないじゃん」

「ったく、じゃあいくぞ」

「うん」


繋がれた手を見て思う
俺は幸せなんだな、と





2012 8 16 不佐久の日

遅刻ってレベルじゃない
不佐久ちゃん末永く爆発してくださいm(__)m




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