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「あちさんー」
「笑っちゃうぐらい暑いねえー」
「笑ってらんね、わん溶けて死ぬ……」
「また裕次郎が馬鹿なこと言ってる」
「そんくらいあちさんてくとぅー!」

 たとえ話ってのが分からんのかよ、と怒る裕次郎を横目に棒つきのアイスキャンディを一口かじる。フルーツの甘みと冷たさが舌と歯を刺激して、いますごく夏してるなあ、とぼやいた。
 男子テニス部は夏休みだって休まない。休まないというか、むしろ休みに入る前よりもハードな日々を過ごしているように見える。制服を着て自転車を漕いでいる裕次郎を初めて見かけた時は始業式の日程を勘違いしてるんだと思って指をさして笑ってしまったけど、全国大会に向けてほぼ毎日早朝から学校で特訓なんだと肩を落として語られ、そこは面倒くさがらずに頑張ってよ、と背中を強く叩いてやった。


「なまえー、なあ、わんにもアイスー」
「食べたいなら自分で買ってくればいいじゃん」
「暑いー、動けんー」
「ていうかさ、そろそろ部活行きなよ裕次郎」

 海からの風が滲む汗を乾かして、代わりにべたつく潮気を残していく。水平線を見ながらだらだらと会話しはじめて何時間経つだろう。裕次郎とばったり遭遇したのは朝だったはずだけど、お日さまはすっかり一番高いところまで昇っていた。私が朝の散歩になんて出かけなければ、裕次郎はちゃんと練習に出ていたんだろうか。いや、これはうぬぼれなのかな。私と会わなくたって、サボり魔で寄り道魔のこいつはどこかでこうやってだらけていたかもしれない。
 浜を見下ろせる場所の石塀に並んで座っていたけれど、裕次郎はすっかり寝転んでしまっていた。少し寝返りをうてば二メートルほど下の砂浜に真っ逆さまだ。よくやるよなー。硬くて痛いと文句を言って私の腿に頭を乗せてきた裕次郎を振り落とさなかったのは、危ないから。それだけ。

「ちゅーやサボっちまおうかねー」
「永四郎くんに超怒られるよ、私知らないからね?」
「……あー、……あと五分だけ……」
「絶対うそ! そんなことばっか言ってたらロクな大人になれないよ」
「大人、ねえー」

 裕次郎は体を起こし、あろうことか残り二口ぶんぐらいしかなかった私のアイスを一気に食べてしまった。ふざけんなー! とそのふわふわ頭を殴ってやると、ぽかっと良い音が鳴る。あがっと声を上げて恨めしそうにこちらを見てくる裕次郎の表情が悪戯のバレた子犬みたいで可愛かったから、まあ今日のところは許してあげることにしよう。

「アイス食みたかったんばーよ」
「だからって勝手に食べないでよ、最後だったのにー! そういうトコだよ、裕次郎がロクな大人になれないポイント」
「……大人になるって自覚、ないんだよなあ」
「いつかはみんな大人になるんだよー。アホの裕次郎でも」
「んー、わかってんだけどなー」

 大人みたいな横顔しちゃって。
 調子に乗りそうだから、これは言わないでおく。


「いつかわったーも歳取ってボケて、今んくとぅも全部忘れちまうんかね」
「まー、大人になったあとは、そうなるのかもしれないねー」


(しわしわになってこの味が思い出せなくなって
それでもお前のことは忘れない気がする)
title 「彼女の為に泣いた」さまより



 自転車に跨がって、少しずつ小さくなる背中に叫ぶ。

「じゃあねー、がんばりなよー、裕次郎ー!」
「おー、ありがとなあ」
「叱られといでー!」
「……やっぱ行きたくねえー!」
「ちょっと! 馬鹿、戻ってこないで!」