トワイライトワールド6

「カズー、ちょっと金槌かしてくれよ!槌んとこからすっぽ抜けちまってさー」

「あー、悪ぃね、キャプテン。ちょっと手ぇ離せねえんだ。武器庫んとこの工具から持ってってくんねーかい?」

「まじかよー、わかった。どこらへん?」

「たっしか、ガスバーナーの近くにある木箱ん中―」



でさー、ここんとこをもうちょっと!頼むよ、兄貴!ああん?無茶言うんじゃねーよ、この前ここはこうやって調整したばっかだろーが。だーかーらー、お願い!わかってねーなあ、おめえは・・・・ぱたん、と扉を閉めれば会話はすっかり聞こえなくなる。仕方ねえなあ、とウソップは遠回りになってしまった道を引き返し、武器庫へと向かう。フランキーのおかげで念願の城を築けたのはウソップ、チョッパーばかりでなく、カズもその一人である。武器庫はカズの私物も持ち込んだオレハウスと化しており、どこから持ち込んだのか、小さな冷蔵庫やソファ、でんでんむしなど快適な空間が隅っこにはあったりする。人ひとり生活できそうな状況で、雑用やルフィたちとつるんでいない時にはもっぱらカズはこもっている。男部屋は会合用らしく、今のようにフランキーと新武器の開発にいそしむ時には周囲は重火器特有の重々しい器具と火薬のにおいが広がる。そこにウソップは向かうわけである。あり得ねえよな、なんで振り下ろした瞬間に鉄の塊がすっぽ抜けんだ、あぶねえな、とへこんでしまったかべをあわてて隠した棚に誰も気づいていないことを願いつつ、早急に向かう。

木箱木箱、っと顔を上げれば、ようやくお目当てが見つかる。

がさごそ、とさぐったのち、使い古しのハンマーが現れた、これでカブトにダイヤルを!と脳内設計図を思い描き、にひひ、と笑う。その一瞬がいけなかったのだろうか。足もとが不注意だったウソップは、スプレー缶に気づかず。おわ、おわ、おわーーーーっ!!。がしゃーん、と前の棚に突っ込んでしまう。そして、もともとの配置が悪かったのだろう、ハンマーが金属にこすれて火花が舞い、それが破損したスプレー缶に直撃。いてて、と鈍い痛みのする頭をか会えたウソップは、へ、と顔をひきつらせた。いぎゃあああああああっ!!どかーーーーーん、という豪快な爆音が響いた、


「ん、んん?ここは・・・」

「あ、よかった、大丈夫か?ウソップ」


ああだめだ、頭がぐわんぐわんする。ついでになんか耳鳴りとなんか全身いてえぞ?のき込んでくるチョッパーに大丈夫じゃねー、とウソップはぼやいた。どっか痛いのか?と心配そうな声色に、おう、といったはいいものの、鈍い痛みに漏れるのは呻き。


「なんか爆発して、本棚に突っ込んだんだ。打撲に軽い脳震盪、幸いどこも折れてはないけど、捻挫してるかもしれないから、寝てるんだぞ」


ひらひら、と了解の意を示すと、ん、と満足げに笑ってチョッパーは台車から消える。ひょこひょこと足音が遠ざかる。こういうときチョッパーは頼れる医者の顔になる。見る限りきっちりけがの手当ては済んでいるようで、頭は包帯が巻かれていて、シップやらが張られていた。今何時だ、と思ったがうまいこと首が動かない。おとなしく寝とくか、とウソップは眠りに落ちた。こういうときはおとなしく寝るに限る。しっかしなんつー運の悪さだ、ついてねえ、ああそういや武器庫えらいことになっちまってるかもな、カズに謝んねえと、と思った。


数時間寝ていたらしい。ルフィあたりがちょっかい掛けてくるかと思ったが、どうやら扉の向こうでチョッパーの静止が聞こえるので気遣って阻止してくれてるらしい。ああ、とあくびをしたウソップは、ようやくましになった体を起こす。昔から超人的な身体能力はないものの、耐久力とウたれ強さ、根性だけは折り紙つきだ。



「あ、ウソップ、起きたのか?よかった、さっきよりずっと顔色良くなってる。大丈夫か?」

「おう、ありがとうな」

「おれは医者だからな。みんなげんきだでめったに仕事できないから、うれしいぞ」

「あはは。っておいおい、チョッパー何言ってんだ!」

「え、あ、おれなんか変なこと言ったか?ご、ごめん」



まだまだ人間でいえば15で、子供っぽい無邪気さは時々恐ろしさを帯びる。まあ知らないだけだしな、とウソップは笑いながら教えてやった。そういえばサンジがこういうときはうまいもん食うのが一番だってキノコスープ作ってたぞ?・・・あんにゃろ善意と悪意をナチュラルに混ぜ込んやがる!ウソップはから笑いを浮かべた。一人暮らしで遺産も少なかった故郷では森のきのこや木の実は大切な贈り物だったものの、本だより老人の知恵便りではどうしても限界があったために当たってしまったあの日を一生ウソップは忘れないだろう。一時は死にかけたせいか、未だにキノコの形状、そして味を見るたびに体が拒否反応を起こしてしまう。サンジの料理が一級品なのは知っているが、どうしようもないものはある。克服させてやるのもコックの腕の見せ所だと意気込んでいるのは承知の上だが、ウソップに言わせればそれこそ余計なお世話だった。



「一応包帯取りかえるからすわってて」

「血は止まってるけど」

「だめだ、化膿した傷がふさがってる証拠だけど、しっかり病原菌が入らないようにガードしてやらないと。いいからすわってて」

「りょーかい」



治療を任せながら、ふとウソップは武器庫の有様を聞いた。どうやら大惨事らしい。ガス爆弾一つ爆発させたようなものだったので、カズの愛用している器具はことごとく破壊。書斎にも結構な被害が及び、設計図やらをはじめとしたもの、そしてちょっとした快適スペースは見る影も見ない。だがカズの管理とフランキーの設計した二重の扉棚のおかげでほかの爆薬に引火というとんでもない二次被害は避けられた。もともと武器庫はほかの部屋と違い、特別分厚い部屋の設計となっている。



「あー、謝って片付けないとな。カズは?」

「なんか片づけは俺がやっとくからって部屋にこもったまんま出てこないんだって。カズにしかわかんないものとかあるんじゃない?」

「そっか」

「でも、心配してたから怒ってはないと思うぞ。スプレー缶あんなとこ置いといた俺が悪いんだって落ち込んでたし。合わす顔ないからキャプテンによろしくて言われたけど、さ」

「なんだ、オレの不注意なのになー。はは、後でこのとーり元気だって伝えとくわ」

「うん。喧嘩はよくない。なあ、ウソップ、そういえばなんでカズはウソップのことキャプテンっていうんだ?キャプテンって船長だからルフィじゃ?」

「なーにいってんだ、チョッパー。おれをだれだと思ってんだよ、おれこそが人呼んでキャプテンウソップ様だぜ?カズはおれに敬意を表してそう読んでんのさ!」

「そうなのか?すげーウソップ!」



きらきらした目にまんざらでもなさそうにウソップは笑ったが、まあ冗談は置いといて、と話し始める。



「カズはな、もともと海賊専門の何でも屋らしくて、親父と知り合いでちょっとした仕事でオレの村に来たんだ。どこの仲間にもならないっていうポリシーでもあったのか、ロビンみたく線引きするやつでさ、親父のことは名前で呼ぶのにおれのことは名前で呼ばないようなやつだったんだよ。オレが村のガキどもとウソップ海賊団やってた時ものり悪くて、見てるだけだったんだ。なんか悔しくてな、ちょっと無謀だと今じゃ思うんだけど、ちょっと喧嘩ふっかけてさ、認めろって。むちゃくちゃな条件の決闘したら、勝っちゃってさ。キャプテンウソップって呼んでくれるようになって、それが今のキャプテンの名残ってわけだ」



うれしそうに、ウソップは笑った、


[ 6/32 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -