最弱の海に捧げる

「俺は、海賊王になる!」

土砂降りの雨の中で、あの頃とはあまりにも違いすぎる少数の野次馬の前で、宣言した男がいた。あまりの衝撃に、オレはルフィを見上げる。アルビダって美人はしらないけど、バギーなら知ってる。古なじみだけど、わりいね、オレはアンタに興味ねーから、と酒場で蹴ったのを後悔がよぎる。潰しときゃよかった。そうすれば、こんなこと・・・いもしない苦虫をかみつぶして、雑魚共を蹴散らしながら、必死で駆けた。ルフィは、バギーに抵抗しながら、オレたちの名前を呼んでいた。だから小物なんだよ、そう吐き捨てたときの唖然としたバギーの顔がかすめる。

「カズ!」

同じだった。あまりにも似ていた。海賊王と呼ばれたあの男の最後の眼差しに。

「わりぃ・・・オレ、しんだ!」
「「ばっ」」

心臓が止まりそうになった。途方もない恐怖が、こみ上げてきた。ゾロもサンジも凍り付く。

「「バカなこというんじゃねーっ!」」

ゾロとサンジが絶叫する。この時改めて、オレは、ルフィの持つ純粋すぎるまっすぐさに、脆さすらおぼえた。

「ふざけたことぬかすんじゃねえっ!海賊王になるっていっちょまえの口ききやがったくせに、死ぬな! まだなんにも始まっちゃいねえだろうが、くそったれ!」

あの時と同じであまりにも処刑台は遠かった。ルフィにサーベルが迫る。 あの野郎、勝手に笑ってんじゃねーよ!とオレは怒りにまかせてトリガを引いた。わかった。心からそう思った。今まではどこか揺らぐところがあったけど、もうかちっと収まった。モンキー・D・ルフィは海賊王になる男だ。アイツがあの人と同じ称号を手に入れると宣言しやがった以上海賊王がこんなトコでくたばっちゃいけない。あの人と同じ高見を目指すと宣言したくせに、途中で死ぬなんて認めてやらない。駆け上がってくところでもみせてもらおうじゃねえか。俺でさえまだ途方もない、高みってやつへ!なんとか処刑台に到達したとき、雷鳴がとどろいた。閃光が、炸裂した。

「なはは、やっぱり生きてた、もうけ」
「心配かけやがって、クソガキ!」
「はひふんはよーっ!ははへーっ」

オレは思いっきり笑った。さっき、黒いローブの男の影を見たからだ。やっぱ我が子がかわいいってか?きてんなら連絡くらいしろっての、入れ墨野郎め。おせーんだよ、おやっさん。後でルフィをどつくことにして、オレは、ゾロに促されるままに大通りを走り出した。





ごほん、と咳払いひとつ。オレは生真面目な顔をした。えー、本日はお日柄もよく(素晴らしく土砂降りな上に、大シケだけどな!)、と脳裏をよぎる道化師の言葉は、スルーする。今回ばかりは止めとけ、オレ。

『願わくば、素晴らしき船員(クルー)達の夢と、麦わらの海賊旗に、 秘宝の加護と導きの光のあらんことを』

自分で言っといてなんだけど、果てしなくオレのキャラじゃねーな、と乱暴にがりがり頭をかいた。案の定、失笑があふれて、その場がしらける。(恥ずかしいこと言うんじゃねえよ!)とか(キャラ違うんじゃないの?)とか。(にっしっしっしっし)とか(槍が降ったらどうすんだよ、バカ!)とか。(今は自分の野望を掲げるのがふさわしいんじゃないのか?)とか。反応は不評なことこの上なく、ブーイングの嵐。オレは(ひでえな、この野郎!)と豪快に笑い飛ばして、ブーツをどかっとおいた。(おもしれえ)と進水式に不似合いな笑みが浮かぶ。思ったことはずばずば言うくせに、腹の底は秘密な食えないヤツ。ののしられるこの顔が、やっぱりオレには性に会っていた。

『見せてもらおうじゃねえか、てめえらがその途方もネエ空想を実現するその瞬間ってのを。 久々に聞いたぜ、んな大それた夢。信念すらまともにもてねえ腐りきったヤツばっかで、 軟弱モンばっかな世界最弱の海で、てめえらにあえたこと、それが唯一の収穫だ。 せいぜい楽しませてくれよ、クソガキども。オレの夢は、最強だ。それ以外いらねえ。 これでいいか、進水式は』

思わず吹き出した面々に(おい)と思わず声が出る。何だよ人が何年ぶりかの本音をいっちまったせいで、顔が真っ赤だっつーのにこのざまは!なんつーことだ、オレは天然すら凌駕するボケキャラを気取ってるってのに!言わなきゃよかったかねと後悔すらよぎったが、オレが言ったことを笑ってるわけじゃねーからよしとしましょうか、と自己完結。このやろう、覚えてろよ。キャラが違って悪かったな!

やがて、未来の海賊王から大きな号令がかかって、緊迫した空気がよみがえる。

『いくぞ、グランドライン!!』

がこん、という強烈な粉砕音が響いた。





オレのガキの頃と比べりゃ雲泥の差だと時々コイツらが強烈に眩しくみえる時がある。そのころのオレは、何がしたいのか、どう生きたいのかなんてわからないまま、ただ生きていくことが精一杯で、嫌なことからひたすら逃げて逃げて背を向けることで人生を浪費してきた気がする。でもそれもわるかねーと言ってくれたガキがいたから、今のオレがある。強さ、なんて。んなもんグランドラインにいりゃあ、いやでも後からついてくる。流される方が楽だから、適当に生きてりゃ腐るほどいる中は空っぽで価値のねえ大人が完成。なりかけていたオレがいて、それをぶっ壊そうとあがいたオレがいて、信念に生きる今のオレがいる。きっとこれからもそうだ。なんせ、オレとコイツらの一番の違いは、そこだ。(でも、それでもコイツらと一緒にいてもいいんだよな、)と何度も繰り返してきた自問に肯定する。イーストブルーに来て良かった、とココロから思う。コイツらと出会えたし、なにより、今までずっと忘れてたことを思い出せた気がする。だからコイツらを見届けてやるってのも悪くないかなって思った。なんてね。心の中でつぶやいて、ニカッと笑って、イスに座る。

「おっし、準備できたぞ!」

気づけば、テーブルには、口笛を吹きたくなるほどのフルコースが並ぶ。残念、エレファント本マグロはねえらしい。おいしいんだよな、アレ。特に鼻の柔らかさが何とも。ほら、と船長にジョッキを手向けられて、受け取る。

「カズの入団を祝って!」

コイツらといるこの時間、この瞬間がいっちゃん楽しい。なあ、ドッジ。もう少し待っててくんねえかなぁ。墓参り遅れちまったの、あやまっからさ。お天道様と一緒に酒飲みながらでもいい、コイツらとオレの航海を見守っててくれたら嬉しいんだけど。

「かんぱーいっ!」

だってさ、コイツらなら、きっと。





(青春の夢に忠実であれ。byシラー)


[ 7/32 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -