トワイライトワールド5

「海賊にはならないんじゃなかったのか?」


すれ違いざまにつぶやかれた言葉に、カズは思わず歩みを止めた。
過敏反応した身体が、焦燥感を浮かべる。ごくり、とつばを飲み込んで。
予想外の場面で心当たりのある言葉を口にされてしまい、不自然に顔が
引きつる。驚きのあまり、目を大きく見開いたカズーは、酷く取り乱した
様子で後ろを振り返った。あ、と思わずてんぱって声がひっくり返る。


「びっくりさせないでくんねーかなあ!聞いてないんですけど、旦那。
 なんでアンタがバラティエで料理長なんてしてるんですか、赤足のゼフさんよ」


忘却の彼方にあった記憶があぶり出しのようによみがえり、カズは胸をなで下ろした。
(なんだ、くたばってなかったんだな、ゼフさーん)カズはへへ、とわらった。
(勝手に殺すな、瓢風)よさげをいじりながら、ゼフは皮肉をぶつける。
イーストブルーで聞くはずのない名を海賊以外で知っているのは、おそらくこの世界では、
この男だけだろう。一瞬感じたナイフを肌に滑らせるような、凍り付いた感覚はおそらく、
いらぬ悪寒だったに違いない。(あーあ損した)とカズは小さくつぶやいた。


「なんだよ、カズ。おっさんと知り合いなのか?」


完全に会話の蚊帳の外だったルフィが、むくれてひっついてくる。
(おうよ)と答えたものの詳しく話す気はみじんもないのか、カズはあっさりと
話題を変える。


「こっちのセリフだ、瓢風。何でお前ともあろう人間が最弱の海にいる。
 まさかそこまで落ちぶれたのか?」

「おいおいおーい、久々の再会だってのに、もうちょっと喜んでくれよ、ゼフさん。
 おれはただ、ローグタウンに観光に来ただけだぜ?」

「・・・・・ふん。やっと決心が付いたのか、大馬鹿が」

「返す言葉もございません、なーんてな」


(あっは)とカズは照れくさそうに笑った。


「久しぶりの再会だ、いろいろ話したいから、俺の部屋に来い。安物で良かったらコルクを抜いてやる」

「えっ、まじで!やっほーい、ラッキー!それじゃあな、ルフィ。またあとで!」

「ええーっ、ずるいぞ、カズ!」


麦わら海賊団船長から雑用に降格しているルフィを置き去りにして、腕を捕まれたカズは半ば強制連行される形でその場を跡にした。





「どうした、見習い」

「よさげのおっさんがカズー連れてっちまった。なんか知り合いみたいだったなー」

「はあ?お前らイーストブルー出身だろ?」

「カズはグランドライン出身だぞ」

「なんでお前が自慢げなんだよ。ってか、グランドラインっていったら相当の実力者
 じゃねえか。なんでこんなところにいるんだよ」

「観光だって言ってたぞ。にしししし、いいだろ。俺のクルーなんだ」

「観光で海賊家業ってどんなだよ」


たばこに火をつけたサンジは気になるのか、ゼフの部屋をちら、と眺めた。
数時間後、ウエイターになったカズが(ミイラ取りがミイラになってどうすんのよ!)と
怒られることになる。










(カズー、ここで働く気はないか?お前なら立派にやってける)(うちのクルーを勧誘すんな!)



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