トワイライトワールド4

「わりいね、お姉さん。―――って花、あるかい?」

「あ、はい。これですね?今が一番一年できれいな季節なんですよね。おじさん、
 見かけない顔だけど、誰かにプレゼントするんでしょう?」

「・・・・・ははは、勘弁しとくれよ、んな趣味ないって」

「またまた。照れなくてもいいじゃないですか、うらやましいわ、素敵な贈り物。
このお花の花言葉、知ってるんでしょう?喜んでもらえるといいですね」



知ってらぁ、これからを君にだろ?散々されてきた嫁自慢のたびにだされた花なわけなんだけどねえ、本当は。とこっそりしょっぱい気分になりつつ、カズは気を利かせてよく映えるリボンを結わえてくれる店員に、苦笑いを浮かべた。

いやでも覚えるというものだ。酒場の席でいつも出るのだ。毎日百本ブーケを作って朝七時きっかりに届けに行く、とか、冷静に考えれば相手方に好意がなければ即通報されそうなストーカー行為。恋とはどこまで人を盲目にするもんなんだろう、と生まれてこのかたそこまでわれを忘れるほど激しいものを経験したことのない、ヤソップ曰く負け犬はこっそり人間の神秘について考えてみた。

はい、どうぞ、と渡される。恥ずかしいものだ。なんつー依頼だ、あんにゃろう、と改めて恥ずかしいことこの上ないことを頼んできた悪友に悪態をついてみる。


あいつに、―――って花を贈ってやってくれ。


なんで、と聞いたら最後、出会いから結婚、子育てと旅たちまでずっと語られてしまい、徹夜を強いられたのは懐かしい思い出だ。


この村の住人達は親切で愛そうが良く、そして世話焼きだ。案の定、店員の女性はだれに?と笑う。ヤソップのことを彼女は知っているのだろうか。世界にとどろく四皇でさえろくに船長名も知られえ居ないようなありさまだ。海賊に対して敵意を見せるような所ではないのは、襲撃された経験がないのか、それともヤソップ曰くいい人たちだからなのか、さすがによそ者のカズにはわからない。とりあえず、ヤソップから家までの道筋は大方聞いているが、さすがに15年近く前の話だ。妻子が同じところにいるとは限らない。とりあえず、カズは聞いてみることにした。


「残念、オレじゃねえよ。依頼でねバンキーナって人にお届けもんなんだ、これ。どこに住んでるか、教えてくんないかねえ?」

「・・・え、バンキーナ、さん?」

「そ、バンキーナさん」


もしかしてもう誰かと再婚したとか引っ越したとか・・・?脳裏をよぎるいやな予感にカズは、気まずそうに言葉を濁してしまった店員の先を待った。しばらく沈黙が続く。


「ヤソップさんでしょう?依頼主」

「ご名答」

「やっぱり。残念ながら・・・ちょうど、5年前に・・・亡くなってます」

「・・・なんで?」
「5年前に、ここらあたりで流行病がありまして、
何人か手当てのかいなくなくなってるんです」


うっすら、と涙が浮かぶ。彼女の視線の先には、旦那らしき人と仲睦まじく映る彼女の写真があった。


「・・・・・これは、ご愁傷様で」

「いえ、でも今でもこの村の先の丘の上に一軒家があるんですが、
 息子のウソップくんが住んでますから、ぜひ会いに行ってあげてください。
きっと、喜ぶと思いますから」

「だねえ、そうすることにするよ」


なんで今まで連絡を取らなかったのか、なんで今さら、という言葉を飲み込んで、にっこりと笑う気丈さにカズは脱帽の思いだった。どこでも女性は強しってやつだねえ、まったく、とこっそりほうをかいて。失念していたのかもしれない。カズはようやくいとしさの果てに起こりうる負の感情をヤソップの代わりに受けなければならない可能性をはらんでいることに、ようやく気付いたのだった。当然、足取りは重い。みずみずしい花が、こころなし頼りなさげに思えた。



さすがに生卵による奇襲、なんて手荒な歓迎を受けるとは思っていなかったわけだが。

カズは知るはずもないが、ウソップ海賊団はただいま敵地侵入およびお宝強奪任務を遂行中であり、1週間前の卵パックやらなんやら危険な生ものフル装備で、こそこそ、とキャプテンウソップを中心とした精鋭部隊の任務が水面下で行われていた。


「あ、あの、ほんとすんません、ごめんなさい、
 まさか人が訪ねてくるとは思ってなくて、
 ま、ま、まじでごめんなさああああああああいっ!」


銃口を突き付けられたウソップは、おびえ切っていた。飛んできた生卵を反射的に回避し、ドアを蹴破り、すぐ先で潜んでいた彼らはその衝撃で吹っ飛ばされ、呻いているところに容赦なく蹴りをくらわせ、卒倒。手にしていた武器、パチンコだと認識するまでは制圧対象だったそれを銃で跳ね飛ばし、こけた影の足めがけて打ち抜き、動きを封じようとしたその瞬間の絶叫だった。きゃ、きゃぷてえええん!といったその声は、三つ。がきか、と認識したその矢先の上記の謝り倒しである。


「にんじん、たまねぎ、ピーマン、お前ら逃げろ!
 これはキャプテン命令だ、早く!
 おれのことなんざどうでもいい、早く逃げろ!」

「そんなキャプテン!」

「んなこといわないでくださいよ!」

「おれたちだけなんて、やだー!」


わんわん泣き始めたガキどもの嗚咽に、カズはにい、と笑った。ぐずぐずになって、がくがくふるえているウソップは、カズが銃口をおろしてホルスターにしまう様子に気づいて、あり、と首をかしげた。


「おい、坊主。あんたがウソップで間違いねえんだね?」

「お、おれの名前をし、し、知ってるのか?何者だ、お前!」

「おれは、カズって呼ばれてるもんだ、よろしくな」

「よろしくできるかーっ!」

「あははははっ!んー、いいねぇ、その反応。あの馬鹿そっくりだ、あんた、合格」


けたけたけた、とカズは笑うと、完全に腰を抜かし、そして状況が飲み込めていないウソップ海賊団を見回すと、たまねぎを指名した。びく、とおびえた様子のたまねぎに、いう。


「玄関先に、花束があっからとっといで」

「は、はいいいいいいっ!」

「は、はなたばぁ?」

「ヤソップからの依頼でさ、あんたのおふくろさんに花束と、
 あんたにこれ、渡してくれっていわれてねえ。
 恨むんならヤソップに言っとくれっよ、オレァ依頼を達成しただけだ」

「な、なにいいいいいいいっ!」

「お、親父の依頼・・・・?そ、それほんとか?」

「う、嘘じゃないですか、キャプテン」

「嘘、ねえ。もっとましな冗談いっとくれよ。
 そうじゃなきゃ、世界最弱の海なんざわざわざだーれが来るもんかい」


ふん、とカズは鼻で笑った。


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