トワイライトワールド3

「命日かい、旦那」

「ええ、娘が10周忌なもので」


からころ、とげたを鳴らしながら、着流しの男がさみしげに笑う。菊の束に、木製のおけ、柄杓。成り行き、手を合わせていこう、ということになり、カズは、ばつ悪そうに、わりい、ね、と頭をかいた。


「命って、いったい何なんだろうな」


難しい質問だね、と男は苦笑した。突拍子もない疑問なのはカズも十分承知している。軽率にもほどがある。なんとなく、で口にするような話題ではない。ひとりごとのつもりだったので、返されて、驚いて、閉口する。どことなく、不思議な男だった。いつだったか赤髪の旦那と競り会った独眼竜と雰囲気が似ている。男は、思案顔で通学路の先を眺める。歩みを止める。カズも足を止め、視線を追った。思考が読めない。


「セイタカワダチソウみたいなものじゃないかな」


男は、河川敷に広がるススキの群生のなかに見える、ぽつりぽつりと侵食し始めている黄土色の小さな固まりを指差した。はてなマークを浮かべるカズに、男は苦笑した。

セイタカワダチソウとは、この地域にはない外来種で、最近はよく道端でススキに紛れて群をなしている雑草のことだそうだ。根からほかの植物が育たないよう妨害物質を分泌して、自分だけ子孫をどんどん増やし、あっという間に一帯をセイタカワダチソウだらけにするなんてこともざらにある。大豆の遺伝子組換え品は、もともとこれに対する対策の面もあると聞いたことがある。皮肉にも、一面びっしりと隙間なく群生したっ地帯では、濃くなりすぎた自分の毒がまわってどんどん数を減らし、少数になるらしい。残された地面では、耐性をつけた植物が台頭するのだろう。


「なるほど。なんとなく、わかる気がする」

「そうかい?」


きれいな顔をして、わりとえげつないことをいう男だ。


「まあ、興味がなかったら、ススキもセイタカワダチソウもただの雑草に過ぎないんだけども」


青年団が草刈りをしている。おそらくあさってには雑草の山があちらこちらにできるだろう。燃やすのかねえ、焼き芋とか、とのんきに笑うカズに、近隣の迷惑になるからそれはないよ、とだけ男は訂正した。最近はここいらでも立ち上る煙への苦情は後を絶たない。


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