船上にて

カズは、相棒の銃にくわえて、左にごくありふれた、しかしながら使い古されたサーベルを一本携えているのが、基本スタイルである。もちろん主力は銃の方。たまに二丁拳銃のまねごとをしているときもある。狙撃手その2を自称するだけあって、その命中率といいスピードといい、魚人幹部を瞬殺しただけあって実力は折り紙付きなのだが、滅多にサーベルは抜かない。だが、手入れはしっかりとしているだけあって、扱い方は素晴らしい。少なくとも、接近戦を強いられたとき、銃でぶん殴ってから、ずっと俺のターンを決め込むので、正直ゾロからすれば、あまりほめられた使い方はしていない。曰く、稽古をつけてもらったことはなく、全て修羅場をくぐっていく中で身につけたので、あまり褒められたものではないと言っていた。じゃあ、つきあってやるよ、とゾロが言ったのが、きっかけだった。

「あーあ、あんまりやりたくねえんだけどよ、接近戦」

のらりくらりとかわすカズに痺れを切らし、いつものように逃げようとしたその視線の先に、ジャックナイフを突き刺したゾロは、カズを凝視する。おそるおそる真横を見たカズは、寸分の狂い無く若干数ミリ後ろの壁に突き刺さった、まだ揺れているナイフに、引きつった。頬に走った傷が、たらり、と流れるのを見て、つばを飲む。(キレるな、若者よ!)とでも言いたげなカズに、(サーベル抜くのが嫌なら、これ使え)と乱暴に用意していた物をよこした。

「専門じゃないんすけど、ゾロさーん」

ノリで、メリー号に積んであるなまくらサーベル片手に、ゾロにつきあう羽目になったカズはぼやいた。(じゃあ、やめるのか?)という剣士に、(いんや、ケンカ上等。むしろ金払っても買う主義よ、俺)と笑った。(ホントにやる気あるのかよ)と舌打ちしたゾロは、先手を打った。
がきいん、と閃光がとぎれる。

一瞬飛び散った火花。一瞬たりとも揺るがない動かない刀の交わりに、ゾロは目を見開いた。

「聞いてねえぞ、狙撃手その2」
「だっていってないもんよ」
「・・・てめぇ」
「グランドラインをなめんじゃねえぞ、田舎もんが」

なんてな、とふざけたように、カズは笑った。

「今時接近戦も戦えないような狙撃手じゃ、食ってけるほど世の中甘くないってこった。 だてに世渡り上手なオニイサン、気取ってる訳じゃないんでね。まだ、負けてやんない」

挑発的な目に、(気にいらねえ)とゾロは神経を逆なでされる。突然突き放され、(おお)とカズは足下がよろめいたが、あくまでふりだ。(刃こぼれしてやんの、なまくらめ)とぼやいたカズに、ゾロは再び刀を向けるが、今度は間合いを取る。予測不可能な思考を予知することはこの際放棄するとして。接近戦無能のレッテルと先入観を捨てた。何を考えているのか、ルフィ以上にわからない(いや、ルフィの場合、ホントに何も考えてねえかとゾロは密かに修正した。)カズに初めてゾロは戦慄を覚えた。

「手加減してくれよ、クルーのよしみで」
「やなこった」

どちらかの足が、先に甲板を蹴った。





(お手柔らかにしろって、いったじゃーん)(この野郎)


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