■ 14話


――きゃら〜める〜天〜国〜どっきどっき〜♪――
テレビから流れるマキちゃんの持ち歌。画面ではピンクを基調としたフリルのついた着物を着たマキちゃんがくるくる躍っている。つい最近クイズ番組での不正解っぷりを皮切りに、ドジっ子天然キャラを確立したマキちゃんは最近念願のCDデビューを果たした。その記念すべき第一弾がこのキャラメル桃ジャム120%である。割とこの歌はかわいらしくて好きなのだが、どうもマキちゃんは自分のキャラに抵抗感があるのかこの曲を好んでいないようだ。現に彼女はテーブルに片肘をついて死んだ魚の目で画面を眺めている。

「アイドルって…」

あまりにげっそりした様子に何か気分転換になるものはないかと周りを見渡すと、ちょうどテレビがCMに移り変わり高天原ショッピングモール大セール中!という見出しが大きく映し出されている。これだ、これしかない。

「マキちゃんセールだって!買い物に行かない?気分転換になるし」
「買い物…?うん、行こうかな」
「じゃあ早いとこ支度しよう!」



「やっぱりセールだけあって人が多いね」
「これなら変装が目立たないね!」
「マキちゃん…逆に目立つからサングラスだけで良いと思うよ」

いざショッピングモールに繰り出すと、流石大々的にCMをしているだけあって凄い数の人であふれかえっている。マキちゃんは念のためにとおなじみの変装セット(桃シリーズ)で全身をコーティングしていた。しかし全身で桃を主張するその変装セットは逆に人目を引くため、桃型のサングラスだけを残してしまってもらうことにする。悪目立ちしては意味が無い。ちなみにマキちゃんは今朝の曇り顔はなんだったのかというほど表情を輝かせており、あっちこっちに興味を移している。兎に角マキちゃんの元気が出て良かったとほっとした。

「そういえば名前ちゃんとお買いものって始めてだよね!」
「そうだね!マキちゃんここの所忙しかったから」
「よーし!今日はいっぱい買い物しちゃお!」

両手に拳を作り、鼻息荒く財布を握り締めるマキちゃんについ笑みがこぼれてしまう。元気いっぱいの彼女を見ていると、随分元気を分けてもらえるようだ。よし、まずはあそこから攻めよう!と声を上げるマキちゃんに引かれるまま、女性客がごったがえするテナントに突撃した。



しばらくの間は、マキちゃんと一緒にあの服が可愛らしいだの、あの服が綺麗だの、これはナチュラルでかわいいだのと言いながらショッピングを楽しんでいたのだが、少し手を離した隙にすっかり人ごみに流されてしまいはぐれてしまった。
一応連絡手段はあるので、マキちゃんに連絡は取ってみたのだがどうやらまだ彼女はそれを確認していないようで既読マークがつかない。とりあえずフロアマップを確認し、一番目印になりそうな中央広場の噴水に2時に集合しようと連絡を入れたが、伝わっているだろうか。やっぱり人が多いと大変だなぁと思いながら何気なくCDショップの方を眺めると、ここでもキャラメル桃ジャム120%がかかっているではないか。

「「マキちゃん人気だなぁ」」
「え?」
「!」

マキちゃん凄いなぁと思いつつ独り言を呟くと、隣の女の子とハモってしまった。驚きすぎてその女の子を凝視してしまう…黄色の目にバシバシのまつ毛、ふわふわ揺れるツインテールにどことなく見覚えがあるような気がするが気のせいだろうか?何かで見たことあるなと思いながらついつい女の子を眺めていると、女の子はその可愛らしい顔を歪めながらはぁぁと大きなため息を一つついた。あまりに見つめすぎただろうか、確かに初対面の人に見つめられるなんて良い気分がする訳がない。

「ごめんなさい、じろじろみてしまって!」
「あぁ、違うんです!気にしないでください」

凝視したことを謝ると、彼女は眉をハの字にして違うのだと苦笑いを零した。その表情が今朝のマキちゃんと重なって見えてしまう。ここででは、と立ち上がるのが後々面倒がないのかもしれないが、ここで会ったのも何かの縁だ。

「…どうかされたんですか?」

よければお話聞かせてもらえませんか、と問うと彼女はちらりとこちらを見ると、少し言葉を発しかけて、やっぱり大丈夫ですと口を閉ざしてしまった。どうやら簡単な悩みではないようだ。あまり詮索するのも悪いだろうと思い、出しゃばったことについて一言お詫びをいれると再度マキちゃんのデビューシングルを聴くことに集中する。やっぱりこの曲癖になるな、なんて考えていると隣の女の子がポツリと呟いた。

「あの……私、アイドル見習いなんです」
「えっ!ああ、だからそんなに可愛らしいんですね」

隣の可愛らしい彼女は駆けだしのアイドルで、芸名はミキなのだという。名前を聞いていつぞやの記憶が蘇る。ミキ…いつかの昼ドラにゲスト出演していた子ではないだろうか。演技は上手いのになぜか目に光が無かったのが印象的でちょい役だったのだが覚えていたのだろう。昼ドラ拝見しましたよ、と伝えると彼女は少し居心地悪そうにあれ以来マトモな仕事がなくて…と悲しげに呟いた。

「見た目にはそれなりに自信があるんだけど、どうもキャラが立たなくて」
「ミキさん可愛らしいのに、それだけじゃダメなんですか?」
「やっぱり名前が売れないことにはどうにも…」

ミキさんの容姿ならモデルからCMのイメージキャラクターまでこなせそうなものだが、芸能界は顔とスタイルだけ持っていれば売れるものではないらしい。なんでも特有のキャラクターと容姿とそしてコネ等が必要なのだとか。ミキさんはまだまだ駆け出しで顔が売れる機会が少ない事が仕事がこない要因なのだろう。何か強烈なキャラのアイディアはないかと必死の表情で私を揺さぶるミキさん。強烈なキャラクターか…と必死に頭を回転させていると、フとこの間白澤様のお部屋から出てきた美女が語尾にコン、と付けていたことを思い出す。ミキさんにコンを勧めるとパクリになるから、代わりに…。

「語尾をにゃんにするのはどうですか?ミキさん、瞳が猫っぽいですし」
「え?……こうかにゃーん?違和感があるにゃーん」
「キャラは立つと思います」

語尾ににゃーんを付ける彼女は非常に可愛らしかった。しかし、その死んだ目はどうにかした方がいいかもしれないな等と余計な事を考えつつ、兎に角頭に残るキャラクターだとは思いますと告げると、イマイチ腑に落ちない表情をしていたミキさんはそうだよね!と大きな声で叫んだ。

「確かにこれは頭に残るね!」
「名前が売れたらキャラ変更して大人しい系にしてもいいですし」
「うん、そうだね!マネージャーに話してみる!ありがとう、えっと…」
「あ、名前と言います!」

ありがとう名前ちゃん!と叫ぶや否やミキさんはスタッと立ち上がり人ごみの中に駆けて行った。去り際にお礼はまた今度するね、と言っていた様な気がする。そんなに気を使ってくれなくて良いのになと思いつつ、律義なミキさんに笑みがこぼれる。

「適当にアドバイスしちゃったけど、大丈夫だよね」

きっとマネージャーがいるのだし、キャラクターについてはその人としっかり細かく設定を取りきめるだろう。目立つ事だけを最優先に考えた即席にゃーん作戦も上手く軌道修正してくれるに違いない。今度からちょっとテレビの内容気に掛けようと思いつつマキちゃんとの待ち合わせに指定した噴水に向かって歩き始めた。



「CDかあ」

同時期にデビューしたマキちゃんがもうCDを出しているのに対し、私は地元のローカルテレビにすら呼ばれる事がない全く無名のアイドルのままだ。兄たちがホストをするというのに便乗してアイドルを志願したのだけど、小さいころから真面目だ真面目だと言われて生きてきた私には向かない職だったのかもしれない。アイドルをやめようかなと本気で考えていると、隣に白い兎がちょこんと座った。兎は何やら急ぎの様子で手元のスマホを操作しているようで、こちらの視線に気づかない。そのちょこちょことした仕草すら可愛らしいものだから兎は本当にかわいい。最近マネージャーに注意される事が多いため精神がめっきりやられていたこの状況で、ふわふわと可愛らしい兎が隣にいるというのはアニマルセラピー的な癒し効果があるなぁと和みながら横目で兎を眺めていると、兎が急にこちらを向いた。ヤバい、チラ見してたのばれたかな。とっさにマキちゃん人気だなぁとごまかすと、その兎とハモってしまった。
そこからは成り行きで私が売れないアイドルであることに話が移り、名前を売るためにアイディアを提供してほしいと兎に頼むと、なんと兎さんが解決策を打ち出してくれることとなった。半ば本気で転職を考えていたところでこんな兎さんと知り合えるなんて運がいいなと思いながら兎に別れを告げる。兎の名前は名前さんと言うらしい。また今度お礼をせねば。

「マネージャー!」
「ああマキちゃん。いい案は浮かんだ?」
「そのことなんですけど……」

先ほど名前さんがくれたアイディアを告げると、マネージャーは最近そういうキャラいないからいいね!といいながらメモ帳を取りだすと細かにキャラの方向性を考え始めた。ぶつぶつ言っている言葉の中にはちょっとハードル高そうなポイントもあるけど、とにかく知名度を上げるためにはなりふり構っては居られない。ミキちゃん、このキャラで次仕事持ってくるから!と拳を作るマネージャーに私も頑張らねばと再度気持ちを入れ替えた。


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