ジャーファルと霧の団
アブマド「とにかく!霧の団のせいで交易は無理でし!再会して欲しければ、おじさんが自分で何とかするでしなぁ」
シンドバッド「ほーう。何とかして良いんだな?俺がその霧の団とやらを退治してやる。軍隊も使わず、俺たちだけでな」
エナ達、密偵部隊がシンドリアを去ってひと月と1週間、
彼らがパイナポー作戦を始めてひと月が経とうとしていた頃。
シンドバッドもジャーファルとマスルールを連れバルバッドへ入国した。
そこで、シンドバッドは昼寝中に盗賊に身ぐるみ剥がされ、葉王となった。
運良く通りかかったアラジンとモルジアナに助けられ、彼らに自分も泊まるホテルで部屋を貸すことに。
更に、シンドバッドは、霧の団討伐の為に、アラジンとモルジアナの力を借りる事にした。
ジャーファル「霧の団が狙うのは、豪商アルジャリス、もしくは、貴族のハルドゥーム」
シンドバッド「なぜ、言い切れる?」
ジャーファル「こちらから、国軍の動きに関する偽情報を流しました。霧の団には、政府内部にも(*)シンパがいる様なので」
(*)実際に活動には加わらないが、同情し後援する者
シンドバッド「政府内にもか…」
ジャーファル「うん。想像以上に、霧の団は義賊として人気が高まっているようです」
*
ジャーファル「霧が出てきましたね。二人共、来てくれて嬉しいですよ」
アラジン「僕にはまだ、何が正しいかなんて分からないんだよ。でも、僕は大切な友達に会いたくてここまで来たんだ。会えるなら何でもする、盗賊だって捕まえてみせるさ!」
ジャーファル「うん、良い答えです」
モルジアナ「あの、あちらの守りはシンドバッドさん達だけなのですか?」
ジャーファル「ご心配なく。腐っても、七海の覇王の二つ名は伊達じゃありませんから」
*
シンドバッド「っふう、夜は冷えるなぁ」
マスルール「そうっすね」
シンドバッド「馬鹿!動くなよ〜」
マスルール「風除けにしないで下さいよ」
貴族「こら!その2人!くっちゃべってないでしっかり警備しろ!国軍の警備も足りずに、たった2人の警備など不安で飯も食えんわ!」
マスルール「食ってますね」
シンドバッド「良いご身分だな」
その時、2人の元へフラフラと1人の女が近寄ってきた。
シンドバッド「あんた、大丈夫か!?っ!!」
女は、隠し持っていたナイフでシンドバッドを刺そうとした。
間一髪よけたシンドバッドは、マスルールと背中を合わせ、前後からくる女の仲間であろう者達に目を向ける。
女「お乳が、出ないのよ…どうしても、食べ物が必要なの!邪魔するなら、こ、殺すわ!」
貴族「ちっ、スラムの犬どもが!しっしっ!これをやるからどっか行け!」
女は上の階から捨てられたように投げられた食べかけの肉を見て、近づいた。
女「はっ、」
シンドバッド「そんな事をする必要はない。貴族の富は、元はお前達の税金だ。払うに値しないと思うなら、遠慮なく返してもらうと良い。だが、命は取るなよ」
女達「はい!」
マスルール「良いんすか?」
シンドバッド「俺たちが約束したのは、霧の団を捕らえる事だけだからな。
…この国は、もうダメかもな」
その頃、別の所で赤の霧に包まれた男達は談笑していた。
その方角へ走るモルジアナとアラジン。
モルジアナ「ジャーファルさん!シンドバッドさん達の方が襲われたと!」
アラジン「?なんか、楽しそうだね」
モルジアナ「ん!アラジン!この霧を吸ってはダメです!」
アラジン「どぅあ!」
モルジアナはアラジンを抱えて建物の屋根へと登った。その建物の下では、剣を出して戦うおそらく盗賊と兵士であろう男達がいる。
男達「ああ!襲われた!」
モルジアナ「何が起こっているの」
ジャーファル「彼らは、幻覚に惑わされているようですね。
気づきましたか、この赤い霧。人間の技ではない。例の、不思議な力なのでしょう」
ジャーファルの言った通り、女の持つ赤い霧をまとった剣が、その元凶だった。
その女と他数人の男が率いる集団は、ある建物の壁際まで来ていた。
ハッサン「相変わらずおっかねえなぁ、ザイナル。お前の赤幻霧刀は」
ザイナル「しゃべってる暇があるなら、さっさとアンタの黄侵霧刀使いな、ハッサン」
ハッサン「フン、へいへい」
黄侵霧刀でなぞった壁は、綺麗に黄色い霧となって崩れ落ちた。
ハッサン「さあ行くぞ!肥え太った豚野郎の屋敷だ!遠慮は要らねえ!」
「おおう!」
しかし、彼の掛け声で、駆け出した集団のうち数人がジャーファルの出した糸によって絡め取られてしまう。
「国軍か!?」
ジャーファル「いいえ。ですが訳あって、貴方達を捕らえさせて頂きます」
ハッサン「てめえ!」
建物の上から飛び降りたジャーファルを、黒い霧が襲う。
ジャーファル「っ、これも、魔法武器か、」
カシム「そうさ、黒縛霧刀。お前はもう一歩も動けねえよ。仲間を返してもらおうか」
「お頭の本隊が来たぞ!」
ジャーファルより先に歩み出るカシムに、包帯の男。
そこへモルジアナが駆けて行き、集団の何人かを倒してカシムの前に出た。
「お頭!ヤバイのが行ったぞ!」
だがやはり、カシムの黒縛霧刀にやられてしまう。
モルジアナ「くっ、、」
アラジン「モルさん!」
カシム「今のうちだ!奪ってずらかれ!」
「おおう!」
アラジンは、建物の屋根からその様子を見ていた。
アラジン(僕は、アリババ君を探すんだ…!その為なら!ウーゴ君!)
アラジンは笛を鳴らしてウーゴ君を呼び出した。
アラジン「ここは通らせないよ!」
「ダメだ!こんなの相手じゃ!」
埒があかないと苛ついたカシムが剣を抜いた時、後ろから包帯の男がその肩に手を置いた。
カシム「どうした、相棒」
「任せてくれ」
そう言うと包帯の男はウーゴ君を見上げ、前に出て、アラジンと向き合う。そして、その包帯を取った。
アラジン「アリババ、くん?」
カシム「知り合いなのか?」
アリババ「ああ。アラジン!久し振りだな!ウーゴ君をしまってくれないか!俺の仲間がビビってる!」
ジャーファル「ダメだ!言う事を聞くな!」
しかしアラジンはアリババの言う事を聞き、ウーゴ君をしまった。
アラジン「あのね、アリババ君。僕ね、アリババ君に会いに来たんだよ。話したいことが沢山あるんだよ。あの時の事を覚えているだろう?
一緒に世界を見に行こうって、約束したもんね!」
アリババ「…アラジン、ごめん。約束は…守れなくなったんだ」
ザリナル「国軍が来たぞ!」
カシム「さっさとずらかるぞ!」
そしてアリババが金属器を発動させた時、ダダダダダッと一つ一つに重い音を立てて、複数のくないが集団の袖など衣服の端を貫いて地面へ突き刺さる。
「カシム様!」
カシム「っ、エナ!」
ジャーファル「エナ!?」
エナ「お願いです、その黒縛霧刀を解いて彼らを放してあげて下さい!」
カシム「エナ、」
エナ「私達はあくまでも義賊です!それに、あの方達を縛っておいて何になるのです!」
カシム「…分かった、解こう」
エナ「すみません、お怪我はありませんか」
モルジアナ「あ、はい…」
ジャーファル「ええ、それより、あなた、こんな所で、」
エナ「しっ。…安心して、明日にはスパダが行くから」
ジャーファル「……分かりました」
*
シンドバッド「それにしても、霧の団にダンジョン攻略者がいるとはな。しかもそれがアラジンの友人とは。怪傑アリババとは、どういう奴なんだ?」
スパダ「自分らはあくまでも義賊、そう言い始めたのは彼のようで。正義感の強い青年だと、エナは感じたようです」
シンドバッド「そうか…」
ジャーファル「エナとアルコは今、何をしているのです?」
スパダ「霧の団に潜入しています。エナもアルコも、一ヶ月程で意見が上に反映される幹部に近い所まで上り詰めたようで」
シンドバッド「随分とスピード出世だな、アイツら世渡り上手か」
ジャーファル「しかしいつもと取る形が違いますね。潜入するとなると大抵、潜入はせずに情報報告を受けて、こちらまで流すパイプ役は年下のアルコが務めているでしょう」
シンドバッド「そうだな、今回はなぜスパダが?エナは何を考えてそうしたんだ?」
スパダ「いえ、恐らくエナの考えではありません」
ジャーファル「どういう事ですか?」
スパダ「私の利き手が腱鞘炎になってしまったのです。エナは、とても潜入捜査に使える状態ではないと言っておりました」
ジャーファル「は?!」
スパダ「恥ずかしながら、定例の筆談会議で利き手を使いすぎてしまったのです」
ジャーファル「はあ…ツッコミすぎですか」
スパダ「は、はい…」
ジャーファル「エナは叱っておきますので、大丈夫ですよ。利き手は安静にしておきなさい」
28.3.26
恋人に助けられてみっともないと悩むジャーファルさん