翳り | ナノ




「とんでもない荒地に呼んでくれましたね」

「ええ。綺麗でしょう」

「どこが。これ、元はビルでしょう。誰が倒壊させたんです」

「信女さんですよ」

「あの子なら本当にやりそうだ」

「ええ、エリートですから」


季節が移り変わり、葉は緑を残し桜を散らせた。

攘夷戦争から数年、大安の世に火を放とうと目論む男がいた。



佐々木異三郎である。





「あなたはいつ私のメールを読んでくださるんですか。あれ、確かお友達申請しましたよね」


「拒否します。あなたのハラなら既読済みですよ」




正義を語る立場にいながら、国の転覆を目論むこの男。




「_____すべては天の采配。

一橋派に混ざり悪事を働こうと言うのなら、貴方を裁きますよ」



鞘から剣の半身を抜くと、佐々木の刀が私のこめかみに充てがわれた。


「透さん、どうやらあなたは誤解してらっしゃるようだ」


銃口の下をくぐり佐々木の腹を深く裂く。よろける身体に素早く太刀を入れ、針を用いて彼の利き手を封じた。



「あなたを殺そうなど愚か。誰が考えるでしょう」



もう一撃。奈落の奥義を喰らわせようと手の感覚を呼び戻した。その瞬間、佐々木の銃が火を放った。

読みが浅かったらしい。利き手の反対には銃が仕込まれていたか。

肩に食い込んだ弾丸。
私の隙を見計らって佐々木の部下が並ぶ。背後を取られた。足音からして数 10人。



「具体的なプロセスとしては、そうですね。

あなたの首を斬り落とし、奈落への見せしめにします。

どうせあなたは甦るんです、こちら側へ来ても何も支障はないはず」


「______意地でもそちらへは行かない」


「定定は俺が殺る。心配いらねぇさ」


その時だった。背後からカランと下駄の音が近づいたのは。誰か見ないでも分かる。

大きく踏み込むとその男は抜刀し剣を抑え、足を掛けた。体制を崩される前に体を跳ね上がらせ、背後に回り背中を蹴る。


「ヤンキーは引きなさい」

「忘れたか。俺は昔からお前の味方だろ。

透、俺の元へ来い」


彼の太刀筋は荒い。ただ、私はこれを知っている。
あの人が仕込んだモノで表面は覆われている。強い。

だが強いのは上の層だけだ。破れば姿を現すのは弱いあの時の姿。



粉塵の舞う中、カランと音を立てて晋助の刀が折れた。

「頭の悪いことはするな」

「は、俺はお前を助けて____やろうと、」





「____甘い」




呼び止める声を背中に浴び、私は足を踏み出した。













あの者達が幸せになれると本気で思っていたのなら、君は愚か者です。

君一人を犠牲に払ったところで、何も変わりはしない。

終わる運命からは何者も逃れられはしない。

永遠の命を得た、君でさえも。



30.4.5


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