「ごめん、朧」
どうやら私は寝ていたらしい。
目を覚ますと朧の背中に体を預け、彼の首に手を回す自分がいた。
「気にするな。透に茂茂様を頼んだのは俺達だ」
「じゃなくて、おんぶしてもらってるから、ごめんて」
「気にするな。俺が勝手にやっている事だ。
それよりお前、隈が酷かった。碌に寝ていないだろう」
「う、まあ、はい」
「理由は」
「_____言えない」
「思えばあの人もそうだった。眠らない夜が多かった。
松下村塾にいた頃の話だ。
____何者かの気配がするから眠れない。そう言っていた。
お前も同じなんだろう」
「あの人が、そんなことを」
「離れても似るのだな、家族は」
「______仮にも家族だったね」
透は家族という言葉を噛み締めるように繰り返した。
先生と暮らしていた透の前に、俺が現れ、先生を連れ組織を抜けた。
透はただ黙って受け入れた。俺達の背中を押した。
俺は家族と過ごす時間なんてものは記憶にないくらい昔に終わってしまったが、
先生を親のように慕い幸せな少年期を送れた。
透は寂しい思いをして過ごしてきたのだと思う。
「ここは私にお任せを。
業を犯した父を裁くのは子の仕事。
吉田松陽を斬るのは、私です」 俺たちに係るすべての因縁を切るように、透は先生を斬った。
俺は知っていた。
アイツがどんな思いで先生を斬ったか。
一度 命を落として救った弟子たちに恨まれようとも構わない。
罪を背負うのは自分だけでいい。
刀の血を払い、振り返った透は笑っていた。
でも、本当は。
「俺は、知ってるからな。透」
処刑人としてではなく、松下村塾の弟子としてでもなく、ただの娘として、涙を隠していたこと。
30.3.31
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