好きと強いは相反する


「お疲れ、月島」
「お疲れ様です」

練習終わり。陽さんがオムレツやスパゲッティや唐揚げや大盛りサラダボウル...などの乗ったおぼんを抱え僕の向かい側にカシャンと置いた。
僕はそのプレートを見て思わず顔を歪めてしまう。

「胃もたれしました」
「え?逆にヨダレ出ない?」
「陽さんって話通じないですよね」
「通じてるよ?」
「なんていうか......そういう時だけです」
「あそ」

どうでもいいよ。そんな感じで次々と食事...というよりは胃に放り込むみたいな作業をする陽さんは怖い。威圧感があるとか冷たい感じがするとか、そういう怖さではなくて、未知数すぎて怖い。

「つひひま」
「はい?」
「ほはえ、ほはほうはふほひほふほふ」
「はい?」

食べたまま喋るなよ。先輩後輩関係なく僕はめちゃくちゃそう言いたかったが、この先輩にはなんとなく通じない気がしたからやめた。もきゅもきゅと咀嚼する陽さんをおとなしく待つ。最後にごっくんと流し込んだところで、陽さんは俺に唐突に質問した。

「で、どうなの?」
「え、あれ質問だったんですか」
「そだけど。月島は光太郎と似てると思う?って」

陽さんの目がぎゅるん!と光る。そんな目で見られても......というか今すぐその目を逸らしてほしい。てか誰か先輩いないのかよ。もう疲れたんだけど。

「陽さんと、似てると思いますよ」
「いやいや!ちげぇよ!似てるかってのは月島と光太郎のこと!」
「は?」
「俺は似てると思うけどなぁー」
「何感慨深そうに言ってるんですか」

変化球すぎてキャッチャーミットに収まらないんだけど。会話の送球ができないんだけど。せめて味方のミットには納めろよ。

「いや、なんか内に燃える炎がね。見ての通り光太郎は今あんなだけど」
「何が言いたいんですか」
「昔はそうでもなかったんだよ。バレー一緒にやってた小学校の時までは、俺の方がバレー好きだったし上手かった」







「こっちのコートは俺らが使うんだよ!どけ光太郎!」
「お前がどけ陽!」
「「んぐぐぐぐ!」」

「いいよ陽、この人たち5年生だし......年上じゃん」
「年上なんかに負けてていいのかよ!お前ら!サッカーなんか外でやれ!なんで体育館でサッカーだよ!」
「それはお前...日焼けしちゃうからだろ!」
「女か!そんなもんのために俺のバレーを邪魔すんな!!」


「...なんか陽、カンジ悪い」
「俺5年とサッカーやるわ」
「俺も」
「確かに!陽より、光太郎くんの方が強くてかっこいいし」
「へっへーい!俺の勝ちだな陽!よーしサッカーすんぞー」

「で、陽。たすーけつで、ここはサッカーだから出て行って」

「いいけど。俺はバレーやるから。ボールこっち転がすなよ。邪魔だから」
「いや、お前がサッカーの邪魔」




「なあ、ママ。また光太郎にサッカーやる言われてコート取られた。俺はバレーやりたいのにな、ひどいよね?」
「みんな陽じゃなくて俺がいいって言ってたぞー」
「それはウソ!お前がドッジのリーダーやってるから反対できなかったんだ」
「仕方ないだろ強いんだから!」

「強いと好きは違うし」


バレーにサッカー、水泳、ドッジボール。光太郎はなんでもできた。地域のクラブチームに何個も入っていたし、学年が上になればキャプテンにもなった。

「28日から始まる夏の全国大会は、木兎をキャプテンにしようと思って」
「木兎ってどっちの」
「決まってるだろ。兄の方だ」

「......はあ」

みんなは強いのが好きだ。だから光太郎は人気だ。
俺は人気じゃない。俺はみんなの好きなのが強いわけじゃない。跳び箱は飛べないし鉄棒もできない。

けど、バレーだけはやめたくない。

俺のまわりは、好きよりも強いが勝つ。一生懸命よりも、コツコツよりも、強い方がエライ。何でもできるはエライ。


「そんなの、頑張る意味あんの」
「いいだろ陽!お前だって副キャプテンなんだし!」
「行進、一番前じゃないからイヤ」
「かわいいこと気にすんだな陽!」
「俺は真剣なんだぞ」

俺の頭を撫でながら、波塚コーチは言った。大人はわかってくれない。好きでやってる俺も強いだけの光太郎もみんな同じにする。
俺のこともわかってくれ。俺よりもバレー好きな奴っているのかな。いたら俺の方がバレー好きだって見せてやる。そいつより弱くたって関係ないし、俺はそんなの気にしない。


「光太郎、最近うちの練習来ないな」
「光太郎具合悪いの?」
「大丈夫?」
「みんな、気をつけろ。光太郎が風邪引いたら地球二つに割れるってママが言ってたから」
「えー!やばい!!」
「待って俺ウイーのゲームやってからしぬ!」
「こら、お前ら死ぬとか言わないの」
「だって陽がそう言うんだもん!」

「嘘だよ。光太郎、今はサッカーが楽しんだって」





「ごめん!陽!今月の28日なんだけどさ、光太郎のサッカーに日本代表くるって言うから、ママそっち行っていいかな? 陽が試合なのはわかってるんだけどさ、ごめんね。バスの集合場所までは送るから」
「え、」

「ごめんなー!俺、試合休むわ!」

「光太郎、全国大会だけど、いいの?」
「え?いいよ。俺山口選手にサインもらうんだ!」
「ねー楽しみね光太郎!」

こいつの好きは俺の好きのこれっぽっちもないんだ。ママも、俺より光太郎がいい。好きでやってるより、強くてやってるから。強くてかっこいい選手に会えるから。
試合応援して欲しい俺の気持ちなんかより、ママの中では全然そっちの方が強いし、勝つ。

「いいね。行ってらっしゃい」




「光太郎休むって?」
「うん。サッカークラブに日本代表選手が来るって」
「それは仕方ないか、いや、こっちも全国なんだけどなー」

波塚コーチはたくさん悩んで、俺をキャプテンにしてくれた。


「波塚コーチは、わかってくれんね」
「え?」
「光太郎なんかより、俺の方がバレー好きって」
「そりゃわかるだろ。バレーは必ず休まないでくるし。この中でボールと一番仲良くしてんのは陽に見えるよ」
「ふふ、そっか」






「陽、ラストぉぉ!!!」
「任せろ!!」

ストッッッッッ!!!!!


《ピピィィィィッッッッ!!!》

いつもよりセッターのトスが手にグッと来るように感じた。俺の打ったボールはブロックを超えて誰もいないところに落ちた。会場が、湧いた。

「うおおおお!!!やったな!!やった!!!」
「すみません!祝賀会として、あの、波塚で予約をお願いしたいんですけど、」



『表彰式を行いますので、速やかにチームごと整列を____』


「陽、MVPおめでとう!!」
「コーチ、MVPってなに?」
「今日、誰よりも輝いてた選手に贈るトロフィーだ。優勝はこのチームだけど、一番活躍したのは陽だってこと」
「俺、活躍も強いも好きじゃないけど。でも、ここでバレーを一番すきなのは俺かな?」
「そうだな!バレーを愛するものはバレーに愛される!」
「なら、俺も勝ったな」
「へえ、光太郎か?」
「うん」


もらったトロフィーと金メダルを手で撫でてみた。いい。キラキラしてる。光太郎はサインしかもらえないけど、俺は金色のトロフィーとメダルをもらった。
そして、今日わかった。

好きは強いに勝つ。








「その後は光太郎にあっけらかんとおめでとう!って言われてなんか、全然勝てた気がしなかったけどな」
「陽さんも、木兎さんにはかなわないんですね」
「そうかもな。なんつうか、光太郎はバカすぎて勝負にならない」
「いや、お互いバカなので勝負にはなってますよ」
「どういうこと?」
「おーおーお二人さん!陽に月島くん!」
「げ!光太郎来た」

「げってなんだよ!げってええ!!」



相変わらず光太郎はうるさいしバカ。けど、今バレーを俺と同じくらい愛してることは、認めてやろう。心の中は意外にも素直で、ちっちゃい頃のコンプレックスなんかどうでもいいな、と思えた。



30.12.10

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