月島と山口





「ゴー!!!」
「ハア、ハア、ハア、」

合宿二日目。今日も今日とて烏野は一つも勝ちを上げることなく坂道ダッシュを続けていた。

「ほい日向」
「あざっす」

そして給水タイムの今、彼らの前にスイカが登場した。

「みなさーん!森然高校の父兄の方から、スイカの差し入れです」
「おおー!!!」


「光太郎、何個食えるか勝負な」
「望むところだ陽野郎!!!」
「腹壊すぞ。ほどほどにな馬鹿二人……」
「同じDNAですからね」

「もう一個いいすか」
「どうぞ」
「ざす」
「あれっ月島くん。一切れだけでいいの?」
「うん。ごちそうさまでした」


「昔、いっぱい食って腹壊してさぁ」
「はは」
「ああー、すまん」
「あ、」

東峰と澤村、田中が寄って座るところに、黒尾と無理やり引き摺られたらしい陽が来た。

「やめろ黒尾さん!光太郎と競争してんのに!負ける!負けちまう!」
「んだよお前らまたくだらないことで」
「なぁにがくだらないことだよ!!」


「でさ、昨日、おたくのメガネ君の機嫌損ねちゃったかもしんない」
「え?」


「へえー、あの月島が成り行きとはいえ自主練に付き合ったのか。で、なんて言ったの」
「おたくのちびちゃんに負けちゃうよって挑発を」
「確かに月島は日向に引け目感じてるとこあるよな」
「レギュラー争いも、MBは全然張りがないですもんね。最初から、諦めてるっつうか」





「キッツイなぁ」
「まだまだ!後10往復は行けますよ!」
「いや、勝とうよ」

「ハア、ハア」
「あっ…」
「お疲れ」

「山口、前よりサーブいい感じになってきたなぁ」
「ありがとうございます!」
「俺はもっと成功率上げないとなぁ」
「東峰さんは嫌じゃないんですか?」
「何が?」
「下から強烈な才能が迫ってくる感じ」
「あは、まあ心は休まらないかな。月島が誰のこと言ってるか大体はわかるけど、俺はそれを去年もやってるからね」
「ああ、あの人ですか。あの人じゃなくて、日向は多分まだ、エースって肩書きにこだわってますよね」
「そうかもな。元々陽もかなりエースにこだわってて、形だけでもってチーフの名前をあげたんだ。あいつもああ見えて、かなり欲張りだよ」

「夕!俺はお前に負けないからな!」

「へえ。陽さんって田中さんや西谷さんとばっか張ってる気がしてました」
「下級生だからって、一応遠慮してるんじゃないのか?俺に張り合ってきたことなんて、サシで話すときくらいだからな」

「俺は真っ向から、旭さんから、エースの座をもぎ取りたいです」

「俺と月島は、ポジション的に日向とも陽ともライバル関係に近いから、あいつらの圧を人一倍感じるんだろうな。

でも俺は、負けるつもりはないよ」






「レフトレフトぉぉ!!!」

影山のトスを呼んだ田中が、ラインギリギリを攻める。

シュトンッッ!!

《ピッ!!》

「オッシャア!!」



「おい今サボったな!囮でも飛べ!!」
「目ざといなぁ。悪かったよ」

「先生は、月島どう思う」
「真面目にやってると思いますけど」
「合格点をとっていても百点を目指さない。って感じなんだよな。月島は。
別に熱血を求めてる訳じゃねぇけど、このまま実力で抜かれていくならレギュラーからは遠のくな」
「北来君を置く場所にもよりますよね」
「ああ。あいつはMBに置くよりもWSの方が…壁を厚くできるからな」
「そう考えるとやっぱり、誰かを下げなきゃいけないですね」
「最初は澤村とも考えてたんだが、コートの空気がどうなるか怖い。だから月島を選ぶ理由は今はない。うちの守備は十分、北来で安定している」
「そうですか、」








「はあ、今日も華麗なる全敗」
「相変わらずサバサバしてんな」
「月島スか?」
「うん」
「あいつは、なんかもっとこう、色々やったらやれんじゃねぇかって思いますよねぇ」
「色々って?」
「こう…あーーもったいない188cm!」
「ふふ。皆そう簡単に陽みたいにはいかないんだな」

「へい!メガネ君」
「っ!」
「今日もスパイク練習付き合わない?」
「すみません。遠慮しときます」
「光太郎、お前説得へたっぴだ」
「はああ?!じゃあ何すりゃいいんだよ!」
「そんくらいご飯でチョイと釣れるベー!あほ!」
「ご飯で釣れるのなんか陽くらいだろ!!」
「光太郎も釣れるし!」

「っち、二人じゃできねぇだろ………」
「そだ、黒尾さんにしよ」
「黒尾ー!!」
「え〜」
「「なっ、まだ何も言ってねぇよ!」」
「あ、シンクロした」






「たかが、部活だろ」



月島には、あの兄弟が見ていられなかった。
家族が離れ離れになっても、バレーを続けて、有名になったらまた会えるとか一途だし、神話すぎて自分には遠い話だと思っていた。

月島も、また兄が同じようにバレーをやっていた。一時期はそれで仲良く練習していた時期もあったし、中学の頃までエースを務めていた兄は素直に尊敬していた。その、頃までは。

烏野高校に上がってから、エースでスパイクをガンガン決めて、とか俺にくだらない嘘をついていた兄の情けない姿は、当時の俺を幻滅させたし、こんな二の舞は踏んじゃいけないと思った。
そう。これは所詮部活なんだ。そんな一生懸命になる意味がどこにあるんだ。その先で得られるものは、どうせ大したことじゃないだろうし、マジでやってるやつの気が知れない。かっこ悪い。

日向だって、先輩たちだって、あの兄弟だって。
そんな健気にやってられるか。そりゃあ雑誌で特集組まれたり、全国で五本の指に入るスパイカーなんてカウントもされれば兄弟の均衡もうまくとれるのかも知れないけど。


とにかく俺には、縁遠い話なんだ。




「ツッキィィィィィィ!!!!!」
「っ!」


「………何」

そんな月島のところに、山口が後から追いかけるようにして走ってくる。どんだけ走ったんだろうか、結構息が上がっている。

「ツッキーが、昔から何でもスマートにかっこよくこなして、俺____いつも羨ましかったよ」
「だから?」
「ん……うっ、」



「最近のツッキーはかっこ悪いよ!」
「うっ…」
「日向はいつか小さな巨人になるかも知れない!だったら、ツッキーが日向に勝てばいいじゃないか!日向より凄い選手だって、実力で証明すればいいじゃないか!身長も頭脳もセンスも持ってるくせに、どうしてこっから先は無理って線引いちゃうんだよ!!」

「____例えば、凄い頑張って烏野で一番の選手になったとして、その後は?万が一にも全国に行くことができたとして、その先は?果てし無く上には上がいる。例えそこそこの結果を残しても、絶対に一番になんかなれない!どっかで負ける!それを分かってるのに、皆どんな原動力で動いてんだよ!」
「うう……」


山口も、月島とは比べられないような劣等感を感じることがある。コートでは戦えない。そう見切りをつけてからの、ピンチサーバーという選択肢。苦渋の決断。逆にそれなら、自分でも少しはチームの役に立てると思った。自分はコートの中では戦えない。あんな才能を持っている連中を蹴散らすことなんて、あと何年も費やさなきゃとても無理だ。高校生なんか終わっちゃう。

でも、ツッキーならそれができる。日向だって陽さんだって、東峰さんだって、越えていけると思うんだ。だからこそ、ツッキーが力を出し惜しみしているのは、見ていられない。
皆何で動いているかなんて、そんなもの___

「___っ、プライド以外に、何がいるんだ!!!」


「_____まさか。こんな日が来るとは」
「えっ?」
「お前いつのまにそんなかっこいい奴になったの?お前、かっこいいよ」
「っ、ぇえ?ツッキー、どうしたの?」

少なくとも、俺がグダグダ考えてるよりもずっと、

「でも、納得はできない」



「ちょっと聞いて来る」
「ええ?あ、ツッキー!!」









「なあ大地。月島ほっといていいのか?」
「強制的にやらせたら自主練じゃないだろ」
「そうだけどさあ」
「俺は最初の3対3やった時からそんなに心配してないよ。でも万一月島が辞めるなんて言い出したら、焦って止めるから、そん時は手伝ってね」

「月島がどう考えてるか分かんないけどさ。俺たちはまだ発展途上もいいとこだし、才能の限界なんて分かんないだろ。もしそれを感じることがあったとしたって、それでも上を目指さずにはいられない。理屈も理由も分かんないけどさ」
「確かに」







【第三体育館】



「おや?」
「おやおや?」
「おやおやおや」
「おやおやおやおやあ」


木兎に陽、赤葦に結局練習に付き合ってやっている黒尾のいる第三体育館に、月島が来た。


「聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「「いいよ」」
「すみません。ありがとうございます」

「木兎さんと黒尾さんのチームは、そこそこの強豪ですよね」
「まあね」
「全国への出場はできたとしても、優勝は難しいですよね」
「くっ!!」
「不可能じゃねえだろ!!」
「まあまあ聞きましょうよ。仮定の話でしょ」

「僕は純粋に疑問なんですが、どうしてそんなに必死にやるんですか?バレーはたかが部活で、将来履歴書に、学生時代部活を頑張りましたって書けるくらいの価値じゃないんですか?」

「ただの部活って…………なんか人の名前っぽいな!!!」
「おお!タダノブカツ君だべ!っぽい!」
「いやまてよ違ぇよ!たかが部活だよ!!何言ってんだアホ兄弟!!」
「だあああ!そうか!人名になんねぇ惜しかったぁクソ!!」
「……突っ込んだほうがいいですか?」
「いいよ。きりがないから」

「あ!メガネ君さ!」
「月島です」
「月島くんさ!」
「光太郎はまた思い付きでなんか言う」
「お前もだろ」

「バレーボール楽しい?」
「ん………いや、特には」
「それはさ、下手くそだからじゃない?」
「ん!!」

「俺は三年で、全国にも行ってるし、お前よりも上手い!断然上手い!」
「言われなくても分かってます」
「でも、バレーが楽しいと思うようになったのは最近だ」
「ストレートうちが、試合で使い物になるようになってから。元々得意だったクロス打ちをブロックにガンガン止められて、クッソ悔しくてストレート練習しまくった。んで、次の大会で同じブロック相手に全く触らせず打ち抜いたった。その一本で俺の時代キター!!くらいの気分だったねえ!フハハハハ!アハハハハ!」

「ヨシャァァァァァァ!!!!」

「___その瞬間があるかないかだ。
将来がどうだとか、次の試合で勝てるかどうかとか、ひとまずどうでもいい。目の前の奴ぶっ潰すことと、自分の力が120%発揮された時の快感が全て!!!」
「……っ!!」

「まああくまでそれは俺の話だし、誰にだってそれが当てはまるわけじゃねぇだろうよ。お前の言うたかが部活ってのも、俺は分かんねぇけど、間違ってはないと思う。
_____ただ。もしもその瞬間が来たら……それが、お前がバレーにハマる瞬間だ」


「はい!質問飛んだからブロック飛んでねえー」
「はいはい、急いで急いで」
「え…ちょっとあの___」



「へえ。光太郎にも、そんなんが」
「意外なの? 陽君」
「意外だね」
「木兎さんはあんなかっこいいこと言うけど、試合中はもっと子供だよ」
「そうか?あんな背中見せられちゃ、頼らずにはいられんでしょ」
「それは確かに、言えるかな。けど俺は前から見てて陽君のプレーの方がよっぽどチームメイトとして頼もしいって思うけど」

「チームメイトの頼もしいと、相手チームから見た怖いって違うじゃん。光太郎と俺の差は、そこだって思うんだよね。光太郎を越そう越そうって思ってたけど、俺はまだ、全然足元にも及んでないんだなあ」











【翌日】


「4番!!」

ズドン!!!

《ピッ!!》

「ウオッシャァァ!!」

「木兎さん、これで陽君がコート内にいたら止められてたかも分かりませんからね」
「陽がいるときはまた違ぇの打つって!」

「また木兎にやられたかあ」
「俺ならドシャットします」
「簡単に言うな北来。先生、時間を」
「はい」

《ピーーー!!!》

烏野タイムアウト

「4番のスパイクは止められなくても手に当てるだけでもいい」
「「「オス!!!」」

「止めなくてもいいんですか?」
「いいや。ドシャットできんなら願ったり叶ったりだ」

《ピー!!》


「ナイスレシーブ!俺によこせぇ!」
「レフトだ!4番4番!!」

澤村と月島の、二枚ブロック。

「まずは意識しろ。指の先まで力込めろ。絶対に吹っ飛ばされないように。んで、手は上じゃなく前に出せ。前にだ」


シュウウウ______!!
月島の覆いかぶさるようなブロックに、木兎のボールは山なりに烏野コートへ入る。

「____ッッ!!!」


「フェイントォォ!!」

ストッッッッ!

《ピッ!》

「くそッ!!」
「いや。あれはフェイントじゃない。光太郎が怯んだんだろ」


「木兎さん、今逃げましたね」
「ギイイ!!!逃げたんじゃねぇ避けたんだ!上手に避けたの!」
「油断」
「だあーもう!!はいはいすみませんでしたア!」


ローテーションを回し、コート外に出て来た西谷の肩を叩きながら、陽は言う。

「頼もしいな、夕。うちに新しい風が吹いて来たような感じで」
「月島のことか?」
「ああ」
「余裕だなぁ〜さすが、マウンテン陽は違うねえ」
「なんだと田中!お前ツラ貸しゃ!!!」
「カシャって何カシャって」
「お前らうるさい!!」

「すんませんん!!!」


「まあ月島は、」
「ん?」
「陽の背中を見てるんじゃねぇの」

「北来!!!」
「はいっす!!」

そう言った西谷の声は、監督のところへ駆けた陽には聞こえていないようだった。でも言ったら調子に乗ることを想像すると、これでよかった。あいつは賞賛とか、聞いてても聞いてないから。




30.12.6

[ 32/38 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -