「気味が悪ぃと思わねぇのか」
身体の回復がまだ完全ではない私を前に抱えて、リヴァイは珍しく馬に乗っている最中に喋った。
気味が悪いとは思わねぇのか。
それはエルヴィンのことを言っているのだ。
「何を思うかは自由だよ、リヴァイ」
「あぁ、だが」
「でもね」
「壁の外に巨人がいないって どうやって調べたんですか」
「107年前、壁に逃げ込んだ当時の人類は、王によって統治しやすいように、記憶を改竄された」
「エレンが起こしてくれる奇跡は、すべて父の仮説通りに進んでゆく」数年前。団長になったエルヴィンは夢を諦めた。
人類のために。部下のために。
諦める他に、選択肢はなかった。
夢は完全に忘れ去ったつもりだった。
しかし、エレンの活躍と、巨人の真相に迫るにつれ、少しずつ。
壁の中の地図を後ろ背に教壇に立つ父と、机を並べて座る自分の姿が蘇った。
「俺に夢を追いかける資格はない。..........はずだった。
今更 思ってしまったんだ。
俺は、夢の続きが見たい」レアはこの話を打ち明けるのに躊躇しているのか。
暗い森を照らすランタンの中のロウソクが、身をすり減らして誰かの残り時間を測っている。
俺か、お前か? はたまたエルヴィンなのか。
「おい、レア、言えないことなら」
「彼が...............彼が、どんな思いで生きてきたのかなんて、私には全く分からない。
けど、理解してあげたい。
私はエルヴィンに、夢の続きを見せてあげたい」
「勝手にしろ。俺はお前に手を貸さねぇ」
今はエレンとクリスタ、もといヒストリアを匿う小屋に移動している最中だ。
およそひと月前。
ウトガルド城で巨人と戦っている間に腹に穴が空いたレアを、俺なりには心配し気遣ってやっているつもりだ。馬の手綱を握りながらも、空いた方の手はレアの腹に回していた。
「レア。お前がエルヴィンの夢を手伝う理由はなんだ?義理か?」
義理なんてもんじゃないのは、本当は分かってる。
そんなもので片付けられない思いを、レアが抱えていることは知ってる。
無償でその人のためになりたいと思う感情。
「たかが団長、副団長の関係だろ」
「そうだね。だからこそ。エルヴィンには恩がある」
「___エルヴィンが好きなのか」
「好きだよ」
しまった。聞いてしまった。
今は顔を合わせてはいないものの、俺は酷く焦った表情をしているだろう。
絶対に知りたくないと思っていたレアの気持ち。
俺の気はレアにあるが、そんなの奴にとっては知ったことでない。
それよりもずっと前から、奴はエルヴィンのことを思っているのだと、俺は分かっていた。
レアの口から堂々とエルヴィンのことをどう思っているかなど聞きたくなかった。
予想が事実になってしまうのは嫌だった。
しかし、レアはこう続けた。
「でも、分かんないや。
輝いているあの人が好きだけど、私は結婚やお付き合いがしたい訳じゃない。
ハンジは好きにも色々な種類があるって言ってた。
多分私のこれは、しんあい なんだと思う」
レアは遠くの空を眺めて言った。遠くの空は暗い。雨雲がかかっていて、あそこでは今 雨が降っているんだろう。
エルヴィンの上に雨が降っていないといい。こいつは今そんなことを考えてたんだろう。
俺だったら、そうだな。
お前の上にはいつだって傘をさしてやりたい。
なあ、レア。お前がエルヴィンを思う気持ちがそれなら、俺の気持ちにはなんて言葉を当てはめるんだ。
俺がお前を大事だと思うのには形がないから、お前がその型をはめてくれ。
俺の気持ちに、頷いてくれ。
「レアは、俺の夢の続きは見せてくれるのか」
「リヴァイの夢の続き?」
「夢なんてあるのか、っつう顔してるな」
「いや、別に」
「俺の夢は」
この悪夢から抜け出して、お前と
30.8.8
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