18ごめん

「悔しい?」

女型の巨人捕獲作戦。壁内で改められたその作戦に、リヴァイは参加できなかった。足を負傷したためだ。だから今日、彼は団服ではなくスーツを着た。その色は彼らを悼む意思のあらわれである。皮肉なことに酷くお似合いだ。事実、彼は今この瞬間も後悔し、自分の無力さを思い知る。後悔しない方をとあれほど部下に言ったはずなのに。なんて不甲斐ない自分。
そこへ、たおやかな笑みを浮かべて近づく女がいた。そいつがまた無力なのである。お互い、人類の英雄のくせに。彼らはなす術なく揃って空を見た。女型の舞う、大団円を。

「・・・・・。」
「足の調子は大丈夫なの」
「てめぇこそ。」
「私は直ぐに復帰するよ」
「杖付きながら言う台詞じゃねぇな。」
「見てこれ。フェイクかも知んないよ?」
「てめぇは楽しそうだな・・・。」
「うん。お互い、心を晴れやかにしよう。今は怪我人を謳歌する。怪我人は戦わないからね」


リヴァイに反していた___レアは。作戦を決行してからもずっと冴えない顔をしている彼とは違う。彼女はなぜか今日1日に心を弾ませているようだった。

「私は今、少し楽しいよ。・・・はは、仲間を失った後なのにね。あー、エレンって強いなぁ。」
「狂ってやがるな。」
「そうね。もう___気が楽で仕方ない。」
「・・・そんな狂った奴の部下はしかし、こう思ってる。
あの時立ち止まらなければ___とな。」
「立ち止まらなくても結果は同じだった。これが最善だった、そう思うことにしよう?」
「そうか。」
「まあ、そう気に病まないで。
今こうしていること自体、奇跡なんだから。
本当はアレで終わりのはずだった。私たち諸共。」



「リヴァイ。私はね、変に正義感を振りかざしたくないんだよ。」
「あ?」
「幾ら人類に心臓を捧げると言っても、本能は危険より安全を選ぶ。殺したくないし、殺されたくない。誰だって同じ。
ここの連中はそれを抑えすぎてる、死の淵に立ってやっとそれを顕にするから。」
「お前は顕にしすぎだ。」
「_______私も前は、潔く死ぬのが綺麗だと思ってたよ。」











「アニ、落ちて。」


【アニ・・・この世の全てを敵に回したっていい。】
「女型の巨人の項を開け!」
「刃を立てるなよ。中身にはまだ吐いてもらわなきゃいけないからな。」
【この世の全てから恨まれることになっても、父さんだけはお前の味方だ。】
「項の皮膚を持ち上げろ!」
「あぁ・・・奴のお出ましだ、」
【だから、約束してくれ】

【帰ってくるって。】





「レア、どうして巨人を狩るのに躊躇するの?いくら体質に恵まれてるからって、死ぬよ?アンタ。」
「じゃあ、どうして巨人を躊躇なく殺せるの?ハンジは。」
「彼らが憎いからだよ。」
「憎しみ?復讐なの?それは。」
「そうだよ。」
「ハンジが特別酷いことをされたわけじゃないのに?」
「それは、そうだけど。」
「なら別に、戦う道理はないよね?私たち。」
「レア、何言ってんの!?
それ以上私達を侮辱するような口をきくなら、上官に言いつける!」
「酷いなぁ。その私達の中には、私もいるのに。」
「煩い!巨人を殺すためにここにいるんだろ!私達は!
ねえ、レアは本当のところどう思ってんの。今まで訓練生時代も頑張ってきた仲間だよ?私たち。」

「私は、よく巨人を殺せるなって思うよ。

蟻や魚は容易に殺せても、人間は殺しにくい。喋るし、物事を表現するから。そして何より同種だから。
その点、異種である巨人は前者だよ。技術は必要だけど心では簡単に殺せる。
だけど、彼らが意思を表したら?その唸り声に形を付けたらどうなるだろう。
私達は、途端に殺しにくくなるんじゃないかな。人間と同種である可能性も捨てきれない。
私はそう思うと、今はとても殺せそうにないよ。」



レアがそう言ったのは入団して一年も経たない頃だ。あの時は殺す、という彼女の表現にゾッとしたものだ。巨人をまるで人のように扱うから。巨人は駆逐するものだろ。今、硬化した彼女を見て不意に思い出された。ようやくレアの言葉が理解できた。ハンジはアニを前にして、改めてこう言った。


「ああ、本当に人だったんだな・・・」


今まで巨人は、何も考えずに人を食べてきたように見えていた。だから私達はエレンやアニを知性巨人と呼んでいるのだが。

今は氷漬けのアニにもエレンを攫う目的があった。
人でも巨人になれると分かったのだ。無知性と呼ばれさまよい続ける彼らも、何かの意図があって生きているのではないか。

意志がある生物は殺しにくい。

愛すべき壁外の彼らを思うと、刃を握るのが怖くなった。


「ごめん、レア。あの時はわかってあげられなくて。でも、分かってあげなくてよかったと思うよ。こんなクソ真面目に巨人を殺してきたからこそ、今コイツを全力で責められる。私は、今お前を突き落としてもいいと思っている。この壁の上からな。ニック。私は本当に友達だと思ってたよ。」
「あなた、やっぱり怪しいと思っていましたよ。壁教いつも地下道の建設や壁の補強を断る。
よくここまでシラを切れましたね。そんなに知られたくなかったのですか?
壁は巨人で出来てるって。」


兵団の中でもまぁ偉い地位であるレアにも、親しかった(と言っても一方的にだが)ハンジにも、ニック司祭は口を割らなかった。

実は巨人から出来た壁です、なんて文民を騒がす事件だろうが、王政の上層の爺らとウォール教の彼らは知っていた。私たちは知らない方が幸せだって。じゃあ、私たちの血や涙はどうなるの。報われないまま死んでいったヤツらは、どうなるの。
人類は巨人から守られていたなんて。どこまでも家畜なのか。私達は。
ハンジがニックの胸ぐらを掴み怒鳴った。全てが泡に帰したような、そんな悲痛な声で。

「お前らは、我々調査兵団が何のために血を流しているかを知ってたか。」

「巨人に奪われた、自由を取り戻すためだ。」



29.7.27



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