わたしは一人で
でも他人の目が必要で
この城から出れない
出られないんじゃない。
出たくないんだ。
「あは、あははは!」
廊下でそのまま戦闘が始り、いつの間にか二階の広間へと戦いながら降りてきていた。
女の子は楽しそうに笑う。その笑顔は歳相応に純粋で可愛らしいのに何かがおかしかった。
「おにーさんすごいね!すっごいね!」
「キミもね◆」
「えへへーでしょでしょ!」
「…面白い能力だね◆」
目の前でくるくる回りながらきゃっきゃっ、と嬉しそうに飛び跳ねる。手にはナイフを数本構えていて、それをぶんぶん振り回したりたまに投げたりまるでおもちゃに遊んでいるかのようだ。
それを見ながら殺気を放ちつつ警戒はもちろん怠らない。一定の距離を保ちながらヒソカもトランプを投げる。
が、それはナイフで弾かれたりよけられたりと一向にダメージにはならない。接近戦にもっていきたいのだが、相手の能力がいまいち掴めないのでどうしようか悩んでいた。
「(さて◆)」
「さいきん、だれも遊びに来てくれないから寂しかったの」
「(面白い能力だけど、戦いには慣れてない◆)」
「ずっと寝てばっかりはたいくつだし」
「(ああ、細い腕◆壊したい◆)」
「…おにーさんよそ見はダメだよ?」
―ヒュッヒュッ 「!」
いきなり真後ろ自分の死角に女の子が現れた。まただ◆とヒソカは冷静に観察する。ナイフが刺さる一瞬肌がぞわり、と粟立つ瞬間にほぼ間一髪のところで身体を思い切り捻ってナイフを避ける。
腕や足に掠って血が流れるが
そんなことには構わない。
「(たぶん、念能力…◆)」
「おにーさんすごいねぇ」
「奇術師だからね◆」
「ふーん?」
女の子はコロコロと笑っている。それだけならただの可愛い女の子なのにナイフを持って笑う姿は明らかに異常で。
「(特質系、かな…◆)」
「わたしちゃーんと急所狙ってるのにー」
距離を保って離れていても女の子はいつの間にか自分の後ろ、いや死角に現れる。瞬間移動か、分身を使っているのかもしくは特質系のなんらかの能力か…
考えながらも襲い来るナイフを避けてトランプで反撃することはやめない。女の子の姿をしっかりと捕らえる。一瞬その赤い瞳と目が合った。
「ほらーこっちだよー!」
「…◆」
「あはははは!」
するとまた死角から女の子が現れる。
んー少しだけカラクリがわかってきたかも◆
「キミの能力は目が合うと、発動するのかい?◆」
「んー」
「瞬間移動、テレポート、それは吸血鬼の能力かい?◆」
「んーとねぇ、どうしようかなあー」
顎に人差指を当てて首をかしげて考えるような仕草をする。とても可愛らしい。にやり、といたずらっ子のように笑う。
「ねーねーねー」
「…」
「ヒントあげようか?」
「…くれるのかい?◆」
「おにーさんは強くてすごいからね!特別だよ!」
「それはどうも◆」
にこっ、と可愛らしく笑う。どういった意図かわからないがこちらにとって有利なので素直に答える。
「ルルシィはね、目が悪いんだ」
「…見えてない、のかい?◆」
「うん!」
その言葉には驚く。
あそこまで正確に攻撃を避けているのに目が見えないというのはどういうことだ?円を使ってるわけではなさそうだしナイフを投げる攻撃は正確で、こちらの攻撃も軽々と避けてしまう。
それと「ルルシィ」というのが名前らしい。
「ねーおにーさん」
「ん?◆」
「わたしも質問ー!」
「…」
無邪気にはいはーい!と手を挙げる。いまいちルルシィの意図がわからない。能力についてのヒントをくれたり攻撃はしてくるが本気でこちらを殺そうとはしていない。
どちらかというと遊んでいるようで。
「このトランプ」
そういいながらさっきヒソカが投げたトランプをひょい、と拾い上げる。指でつんつん、とつついたぶんぶん振ってみたり破ろうとしてみたり。
「ふつーのトランプだよね?」
「そうだよ◆」
「ねえねえじゃあなんであんなに切れ味がいいの?」
す、と壁を指をさす。その先には投げたトランプで切れたカーテンや壁にぐさりと突き刺さったままのトランプ。
なぜそんなことを聞いてくるのか少しだけ疑問に思いながらもとりあえず素直に教えてあげる。
「念で強化してるからだよ◆」
「……ネン?」
「…知らないのかい?◆」
「知らなーい!ねえねえ!それは強いの?すごいの?」
「まあね◆」
ルルシィは確かに念能力を使っているはずだ。絶も使っているしあの消える能力は念能力だろう。それなのに念を知らないという。
ルルシィはまじまじとトランプを観察してからふむふむ、と納得したようにうなずく。
「キミは、何がしたいんだい?◆」
「んー?」
「ボクは訳あってこの城へ来た、侵入者だよ?殺さないのかい?◆」
「んーうふふ」
トランプに興味がなくなったのかぽい、と投げ捨てる。相変わらず可愛らしくにこにこと笑った。
「なんでもいいの!楽しいから、もっと遊ぼうー!」
「…!◆」
―ヒュッ!
その一瞬でルルシィはまた死角に現れ今度は確実に急所である心臓を手に持ったナイフで正確に狙ってくる。
この攻撃にも慣れてきたので今度は余裕を持ってその攻撃をかわす。振り返りながら念で強化したトランプをすい、と振り下げた。
―ザシュッ!! 「ぅあ」
よけられてしまうだろう、と思ったそれは意外と簡単にルルシィを切り裂いた。
柔らかい肉の感触が伝わってきて遅れてルルシィの赤い血が吹き出した。小さく呻き声を上げてルルシィの小さい身体が後ろへ倒れる。
―どさり、
床にその身体が倒れるとトランプで引き裂かれた傷から赤い血がどくどくと流れ出す。
「吸血鬼も、血は赤いんだね◆」
真っ白だったワンピースはルルシィの血で赤く染まっていく。それをみて少しだけぞくり、と興奮した確かにその傷は致命傷で、このまま血が流れ続ければ死ぬだろう。
あれ◆と思いながらその光景を眺める。こちらをみたルルシィの赤い瞳が悲しそうで少しだけ泣きそうにみえて。
「あ、はは…あははは!」
「…なんで笑うのかな?◆」
「うふふ…だって、だ、て嬉しくて…!」
「嬉しい?◆」
「おにーさんは、強い!だから、嬉しい!」
「………」
血を流しながらルルシィは笑う。
床に倒れたまま、無邪気に笑う。心なしか泣いてるように悲しそうに見えるのは、気のせい?
―むくり、
「…まだ遊ぶのかい?◆」
「うん!もっと、もっと遊ぼう!」
「いいよ◆ボクも楽しくなってきた◆」
ルルシィが起き上がる。
破けてしまったワンピースをみてあーあ、お気に入りだったのに…と残念そうにつぶやいた。
ふと、違和感を覚えた。凝でルルシィのオーラを観察する。…オーラの絶対量が、増えている?さっきまであれだけ血を流していて、深い傷を負っていて、それでなぜ?
そう不思議に思っているとルルシィは見えていないはずの瞳でこちらを向いてにこっ、と笑った。
「わたし、好きじゃないんだ」
「…なにが?◆」
「吸血鬼の、力」
ぽつり、といままでとは違う悲しいトーンでルルシィが呟く。
「目が見えなくても超音波で周りは把握できるし、耳もとってもいいの」
「いいことばかりじゃないか◆」
「……さっきの怪我も、もう治ってる」
「…すごいね◆」
「こんな力、きらい」
「……」
確かにさっきまで流れていた血がいまはもう止まってしまっている。吸血鬼というのはそういう能力もあるのか、と観察しながら考える。
「まあ、いっか!」
「…◆」
「おにーさん、強いからルルシィも本気!」
―バサッ
にこっ、と笑ったルルシィの背にはいつの間にか黒い翼が生えていた。大きくて真っ黒でつやつやと光沢がある。まるでコウモリの羽のような翼。
「それが、吸血鬼の力かい?◆」
「そーだよー!」
「…綺麗だね◆」
「……嘘ばっかり」
「ん?◆」
「なんでもなーい!さあ、おにーさん!ルルシィのこと殺さないと、殺しちゃうよ!」
「ククク◆じゃあボクも本気だそうかな◆」
コロコロといたずらっ子のように無邪気に笑ったと思ったら悲しそうな消え入りそうな顔で声でさみしそうに笑ったり
「(ルルシィ…キミのこともっと知りたくなっちゃったよ◆)」
「おにーさん!殺しあいを始めましょう!」
「ククク◆」
「あはははは!」
すっかり日の沈んだ夜に
二人の笑い声だけが響き渡る。
夜はまだ長い。