吸血鬼ss | ナノ

 一話




わたしは一人
一人は淋しい
淋しいけど仕方がない。

わたしは化物だから…





深い深い森の中。獰猛な獣が暮らし森に人は近づけない。弱肉強食の森の中、大きな古びた城が堂々とそこに建っていた。

「んー立派なお城◆」

襲いかかる獰猛な獣をものともせず奇妙なピエロの格好をした男は怪しい笑みを浮かべながら森の中を歩いていた。目の前に立つ城を見上げ楽しそうに鼻歌まで歌っている。

「ガァアアア!」
「おっと◆」

―ザシュッ!!

茂みの中からライオンのような豹のような獣が鋭い爪で襲いかかる。男はす…と軽く腕を動かした。それだけなのに襲いかかった獣は真っ赤な血を吹き出して倒れてしまう。

倒れた獣には目もくれずそのまま歩みを止めない男はいつの間にかトランプを持っていた。

「ここが噂の『赤の城』か◆」

そう楽しそうに呟く。
城は城壁も、建物のすべてが赤かった。暗い森の中、圧倒的な存在感を放っている。入口の扉には何十にも鎖がかけられまるで中に入ってはいけない。とでも言いたげに厳重に閉ざされている。

錆び付いていてずいぶんと汚い。人がここを訪れていないのだろう。雨風にさらされてあちこち老朽しボロボロになってしまっている。

「んー◆」

男、ヒソカは少しだけ考えてから
その鎖をトランプできるようになぞった。

―ガシャン…

あっさりと鎖は壊れてしまう。扉を軽く押すとギイィ…と重々しい音をたててゆっくりと開く。

「オジャマします◆」

中へと躊躇うことなく踏み入れる。

ヒソカは少し辺りを見渡していたが上への階段を見つけて迷うことなく階段へと歩き出した。

カーテンがボロボロに破れていたり窓ガラスが砕け散っていたり赤黒い血のようなものが飛び散っていたり人間のものと思われる骨があったりと、戦いの跡がそこら中に転がっていた。

「んー同業者かな◆」

ヒソカは小さく呟いた。

ホコリがかなり積もっているが調度品があちこちに飾られている。大きく豪華なシャンデリアには蜘蛛の巣が張り付いているが宝石が散りばめられたそれは高そうだ。

廊下に飾られた銀の甲冑の鎧。
大きなトナカイの剥製。
高そうな大きな壺。

見た目のごとく中も立派だ。

「んー豪邸◆」

そのどれにも目をくれずヒソカはまるでその先になにかある、と確信しているかのように歩みをやめない。二階、三階と上がっていく。上へ上がれば上がるほど中は綺麗だ。

「(まるで一階までの侵入しか許してないみたい◆)」

二階も三階も下ほど荒れていない。

それどころかホコリ一つなく、カーテンも破れていなければむしろ綺麗に掃除されているようで。

「(噂が本当なら…ここにいるのは…)」

そう考え事をしながら長い廊下を歩いていた。別に警戒を怠っていたわけではない。むしろヒソカは常に辺りを警戒していつでも戦闘体制に入れるようにしている。

それなのに、

「おにーさんは誰ですか?」
「?!」

―バッ!! ドスドスドス!

「あら、あら?はずれちゃった…」

可愛らしい女の子の声がした。

と、思ったらさっきまで立っていた所にナイフが刺さったのだ。ヒソカは反射的にそこから飛び退いたがそうしていなければ今頃ナイフが体のあちこちを貫いていたはずだ。

「(気配が、しなかった◆)」
「んー起きたばかりだからかなあ」

突然現れた女の子を警戒するようにみる。その子はいつの間にか自分の後ろに立っていた。ここは一本道の廊下だ。前か、後ろしかないわけで。

窓はあるがどこも開いていないし、部屋の扉が開いた音もしなかったし女の子が後ろから歩いてきた音もしなかった。

本当に突然ヒソカの後ろに現れたのだ。

「(そんなこと、不可能だ…◆)」
「ふああ…この時間は、まだ、眠い」

小さく可愛らしくあくびをする。

ヒソカは殺気を放ちながら
女の子を静かに観察した。

綺麗な金髪。

腰まで伸びたそれはさらさらと、ふわふわと緩やかにウェーブがかかっている。背は自分よりも幾分も低く年齢もまだ成人はしてないだろう。

真っ白のワンピースで身を包み肌はそれと同じように真白い。ごしごし、と眠いのか目をこする。

その瞳は血のように赤かった。

ざわ、と戦慄する。
この城に来る前に聞いた噂話を思い出した。


「あの城『赤の城』には化物が棲んでいる…」
「化物はあの城からは出てこない」
「あの城には近づけない」
「入ってしまえば喰われてしまう」
「あの赤い瞳の化物に」
「あれは悪魔だ!」
「赤い災いだ」
「あれは…」
「あいつは…」
「あの化物は…」

「キミが、赤い瞳の、吸血鬼かい?」

ヒソカのその言葉に女の子を包む雰囲気が冷たい物に変わった。

くりくりの大きな赤い瞳がヒソカをじぃ、と見つめると小さなその薄ピンク色の唇をにいぃいっ、と三日月に歪めた。

その口元には小さい牙のようなものが生えていた。

楽しそうに、嬉しそうに
殺気を浴びせられながら
なぜか女の子はにこにこと、笑う。

「おにーさん、おにーさん」

歌うように
語るように

透き通る冷たい冷たい声で言う。


「殺してくれないと、殺しちゃうよ」


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