くろあか | ナノ

 一話 果実



「うーん、どうしようかなこれ◆」

意識を失ったのか倒れ込んだゆあの頬をもう一度軽く叩いてみるが今度は全く反応は帰ってこなかった。

息はしているので死んではなさそうだ。

まだなにも聞けてないし、
このまま放置するのは面白くないなあ。

「よし◆」

今日はもう予定もなかったので
いつもよりは早いがホテルに帰ることにする。

ゆあを抱きかかえ歩き出す。

「あ、忘れるところだった◆」

―ブシュッ

「バイバイ◆」

男に投げたままだったトランプを回収して
ヒソカはその場をあとにした。



「―さてと◆」

1ヶ月ほど滞在しているホテルは受付が無人のタイプだったので誰かに騒がれる心配もなくゆあを抱えたままエレベータで上がり、最上階にとっておいた部屋へと戻ってきた。

「んーこの血はゆあのじゃなさそうだし◆とりあえず服を捨てる…と着るのなくなっちゃうか◆」

お風呂に湯をはって
血まみれのワンピースを脱がす。

「ま、しょうがないよね◆」

白い肌があらわになる。
まだ若いみずみずしい肌。

お湯で体を流してやる。湯船があっという間に赤く染まるが思っていた通り血はゆあのものではなく目立った外傷もないようだった。

「んー綺麗な白い肌」

このあたりの国は気候が暖かく、日差しも強い日が多いことから肌が黒く焼けている人間が多い。だというのにゆあの体は白く、生まれながらにこの地に住んでいたとは考えにくかった。

「…おや◆」

ゆあの首には濃い緋色に輝く宝石がついた小さなペンダントがかけられていた。違和感を感じて凝でよくペンダントをみる。と、念が込められているのに気がついた。

「ふーん、これがさっきの◆」

どうやらさっきゆあを殺そうとしたとき念が弾かれたのはこのペンダントに何かしらの念がかけられているのが原因のようだ。

「ゆあの念…ではなさそうだけど」

ペンダントに込められた念が発動しているのか
ゆあの念がペンダントで強化されているのか

とにかく念を使っていることは間違いない。
だが小さな女の子が念を使えるのはとても珍しい。

生まれ持っての才能か、
暗殺家に育てられているか
とにかくふつうでない場合が多い。

しかしゆあはどうみてもどちらにも属していない。
どこをどうみてもふつうの女の子だった。

「まあ、演技ならそれはそれでいい◆」

その化けの皮を剥ぐのが楽しいんだから。

「それにしても、どんな誓約があるのかな…◆」

術者の意識がない状態でも発動したところをみると
このペンダント自体になにか念がかけられていて
それが対象者であるこのゆあを守っている。

「…そんなところかな?◆」

じゃあふつうにナイフで刺したら
簡単に殺せちゃうんじゃないのかな?

ニヤリ…と怪しく笑うとどこから取り出したのか
銀色に光るナイフをゆあに向けた。

軽くそれを振り下ろす。

―ガキィ…ン

「おや、残念◆」

刃先がゆあの素肌のギリギリまで近づくとさっきと同じようにオーラにより弾かれてナイフは簡単に折れてしまった。

「やっぱり念は関係なく、対象者を守るのかな◆」

折れたナイフをぽいっとそのへんに捨てる。

このペンダントそのものに強い念の込められたものだとしたら、何かに使えるかもしれない。けれどもしゆあの念によって発動する能力だとするとこのペンダントを他者が使おうとしてもなんの意味もなさない。

「でもこれだけの能力だ…このペンダントに念を込めた術者はどれほどの対価を支払っているんだろうねえ◆」

この女の子にそれほどの価値があるとは思えないけど、もしかしたら特殊な力を持っているのかもしれない。

「それはそれでとっても楽しみだ◆」

クックックッ…と怪しく笑う。

ゆあの体と髪を洗ってやり、髪の毛を乾かしてやって服を着せてベッドに寝かして…と一通り終わらせたところでテーブルにおいてあった携帯が鳴った。

―ピッ

「はいはい」
『仕事』
「その急な感じはイルミかい?◆」
『この電話オレ以外に知ってる奴いるのかよ』
「まあ、居ないんだけどね」

電話の相手はイルミだった。
イルミ=ゾルディック

有名な暗殺一家の長男。

腐れ縁というかなんというかで仕事を邪魔したり手伝ったり、手伝ってもらったりとなんだかんだで付き合いがある。

『で、仕事』
「んー内容は?◆」
『殺し』
「いいね◆あ、どれくらいかかるのかな?」
『さあ?一週間はかからないでしょ。なに予定あるの』
「うーん、ちょっとね」
『なにかあるの?』
「いや?面白いモノ拾ってさ◆」
『なに』
「女の子」
『………はあ?』

意味がわからないというような感じだった。

イルミはあんまり感情を出さない方なので
こういう反応はかなり珍しかった。

「面白い能力を持っててね◆」
『ヒソカが興味を持つなんて珍しいね』
「育てたらきっと美味しく実るよ」
『…で仕事は?』
「つれないなあ…◆」

軽く流されてしまうがこれもいつものことだった。

「うーんだから今回はパス◆」
『そう』
「そのうちキミにも会わせてあげるから」
『どうせそれまでに殺してるだろ』
「んーそうかもね◆」
『あっそ、じゃ』

―ブッ ツーツーツー

「相変わらずそっけないなあ◆」

一方的に切れた携帯をテーブルに置く。

イルミに言われた通りつまらなかったら殺す。
そのつもりだ。別に情とかはない。

暇つぶしになりそうだから拾った。
好奇心とかそんな簡単なものだ。

「はやく目を覚まさないかなあ…◆」

ベッドで眠るゆあをみる。

黒髪が無造作に投げ出されている。
手にすくってみるとさらさらと流れ落ちた。

「あ、でも殺すっていってもあのペンダントがあるんだった◆」
「どうしたら殺せるかな」

すくった髪の毛をくるくるとつまみながら
どうやって殺そうか、そんなことを考えた。

眠るゆあにヒソカの思惑は届かない。


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