「(ゆあ…大丈夫…)」
「(お母さん…!)」
「(大丈夫、あなたはわたしがちゃんと守るから…)」
「(お母さんいやだ、行かないで!)」
「(どこにもいかないわ…一緒よ…大丈夫)」
「――っ!!!」
―ガバッ
「…っ、あ…」
飛び起きるとそこは知らない部屋だった。ふかふかの柔らかいベッドで寝ていたようだ。
「……あ、れ?」
涙が流れていることに気がつく。
なんで泣いていたんだろう。さっきまで必死に叫んでいた気がするがなぜか思い出せなかった。
「…っ」
涙を慌てて拭って布団をもう一度かぶる。
…知らない匂いだった。
布団も自分の家のとは明らかにちがう。
柔らかくてふわふわでとても軽い。
「……どこ?」
ふとんからひょこ、と顔を出して周りをみる。綺麗な部屋だった。家というよりはホテルのようで生活感のあまりない室内。大きな窓があり、外には空が広がっている。
よほど高いところの部屋らしい。
「うわぁ…すごい…」
窓に近寄ってみると下がはるか遠かった。ビルがとても小さい。人間なんて自分の目では確認できないくらいだ。
「あれ?服…どうしたんだっけ…」
気づけばみたことのない服を着ている。
トランプの柄がかいてある白いシャツ。
ぶかぶかで裾が膝くらいまできている。
そこでようやく思い出した。
「…っ、これ…昨日のあの、人の…っ」
昨日のよるのことが頭にフラッシュバックした。
湧き上がる吐き気。
倒れている男の人たち。
あたり一面の血。
トランプ。
気味の悪い笑顔。
―ボフッ!
またくらくらしてきて布団に埋もれた。
ふかふかの布団が優しく包んでくれる。
「っはあ…う、お水…」
「はい、お水◆」
「ありがとうございま…っ!?」
ひょい、と渡された水を受け取ったところでそれを渡してきた人をみる。
「あっ、きのう…のっ!」
「おはよう◆随分寝てたね」
ニッコリ、と効果音がつくほどに笑うその顔はまさしく昨日みたヒソカ、という男だった。
「そんなに怯えなくてもいいのに…◆」
「だ、て…あなた、人を…」
「キミはあれかい?どこかのお嬢様とかなのかな?◆」
「ち、がいます…」
「じゃあ貴族?王族?大事に育てられたの?」
「貴族でも王族でもないです…」
「ほんとにはじめて?」
「…っ当たり前です!」
ていうか貴族とか王族とか
そんなものは日本にはないし
日本は外国とちがって銃刀法もある。
人殺しなんてニュースでみるレベルだし…
ちら、とヒソカさん…をみる。
赤…オレンジ色?の髪の毛。
しかも瞳の色は黄色だ。
足も手も長いし身長だって高い。
「(どこかのモデル…さんが人殺しとかやだ…)」
明らかに日本人離れしている体型。
「あの、ここって日本…ですよね?」
「ニホン?初めて聞く名前だね」
「え?」
はじめて…?聞いたこともないの?
自分も聞き返してしまう。
「ここはパドキア共和国だよ◆」
「…ぱど?」
「知らないのかい?」
思いっきり顔に出ていたようでニコニコしていたヒソカさんのカオが不思議そうな顔になる。
「ほんとに知らなさそうだね」
「はい…わたしのいた国は日本っていうところです」
「聞いたことないなぁ◆」
「うそ…だって言葉通じてるじゃないですか…」
「ん?そういえばそうだね◆」
どういうこと?
とりあえずここは日本じゃない。
ということはわかったけど、それだけだ。
「よし、まずはゆっくり話そうか◆」
ヒソカさんがらテーブルに向かう。
椅子を引かれてそこに座るように促された。
「(大丈夫かな…)」
「なんにもしないよ◆」
「なんで、」
「んー奇術師だからさ◆」
「…なるほど?」
「(素直で可愛いなぁ)」
とりあえず話しだけでもしよう、と
指定された椅子に腰掛けた。