くろあか | ナノ

 五十三話 ともだち



「…おい」
「ん、…んん」
「うわ、寝てる」
「うー…」
「…なんでさっき殺し損ねたんだろ」
「…んん?」
「あ、起きた」

ぼーっとする思考のまま目の前に立っている人を見上げる。銀髪のふわふわとした癖っ毛に、大きくて猫みたいなきれいな瞳。こちらを覗きこむように睨んでいたその瞳と視線が合う。

「えっと…?」
「簡単に殺せそうなんだけどなー」
「…?」

寝起きで回らない頭に何やら物騒な単語が入ってくる。と、思ったら目の前の人が鋭い刃物をヒュッ!と心臓に向けて突き出してきた。思わず伸びてきた手首を掴む。

「―っうわ!?」

―ぐるん! ドサッ!

そのまま勢いを逆手に取って
捻りながら地面へと叩きつける。

「〜〜いってぇ!」
「…ふぁ…どうしたの?」
「…どうしたのじゃねーよ!」
「うー…よく寝た」
「くっそ〜ムカつく!」

欠伸を噛み殺していると、ようやく今の状況がみえてくる。目の前には銀髪の少年がいて、自分はその少年の手を捻って地面に押さえつけていた。

「え、何この状況?!」
「いいから離せよー!」
「ごめんなさい!」

パッ、と手を離すと少年は勢い良く飛びのいて離れた。まるで猫のようにうーと唸りながらこっちを警戒している。

「えっと…」
「アンタ、兄貴のなんなの?それにすげー強いけど、暗殺者?」
「暗殺者ではないですけど…兄貴って?」
「イルミ・ゾルディック」
「イルミさん?…は、えっとなんだろう…師匠…ですかね?」
「え、婚約者じゃねーの?」
「ち、ち、ち、ちがいます!」
「ふーん」
「…もう!…て、え、あれ…?イルミさんが兄、貴…って…?!」
「おれの兄貴」

その言葉に一気に頭が覚醒する。

(って事はイルミさんが言ってた弟の!?)

関わっちゃダメって忠告されていて、屋敷でもまだ一度も姿をみていなかったキルア君がなぜか目の前に居て、しかも寝起きを何故か襲われていて?!

何がなんだかわからない。

「えっと…なんで殺そうとしたの?」
「兄貴が変な女を連れてきたって言ってたからどんなのか見てみようとしただけ」
「えぇ?」
「そしたらすっげー変な奴だったけど」
「変?!」
「だっておれがナイフ投げて殺そうとしたのに、追いかけてくるどころかそのまま眠るか?!ふつー!」
「うっ」
「せっかく森にいろいろ罠しかけといたのにさーっ」
「罠?」
「おれ、アンタを殺してやろうと思ってたんだよね。そしたらその隙にこの屋敷から逃げようと…っとこれは内緒だった!今のウソな!」
「えぇっと…殺そうとしたのはいいけど、罠はきっとカナリアちゃんが困るよ…」
「はぁ?!殺そうとしたのはいいのかよ!」
「別にいいけど…」
「いみわかんねー!!!」

盛大に笑われてしまった。キルア君はカルトちゃんより年上だけど、表情がコロコロと変わって歳相応に子供っぽい。イルミさんが過保護にするわけが少しだけわかったような気がした。

警戒心も人見知りもないのかさっきまで離れていた距離もいつの間にかずいぶんと近くなっていた。

「ていうかオネーサン、カナリアと知り合い?」
「あ、自己紹介がまだだったね、私はゆあ。イルミさんの紹介で居候させて頂いていて、ここで修行をさせてもらってます。カナリアちゃんとはその時に何度か手合わせしてもらってるんですよ」
「ふーん。じゃあおれとも今度やろうよ」
「そ、れは…イルミさんが許さないから…」
「…ちぇっ」

あからさまに不機嫌そうになる。どうしたものか、と悩んでいると不機嫌そうなままキルア君が言う。

「じゃあ、とも、だち…は?」
「え?」
「……おれ暗殺一家だし、屋敷から出してもらえないから…ともだち…居ねーんだよ」
「…それは」
「どうせ無理なんだろ」
「…ごめんね。でも私も友達って呼べる人、全然居ないんだ…でも大切な人はたくさんいるよ?」
「…ふーん」
「私はキルア君の友達に…なってあげられないけど…でも、きっといつか、キルア君が大切だって思えるような人に、友達に出会えるから」

ねっ、というとキルア君の顔から不機嫌そうな表情が消えた。ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべる。

「…じゃあゆあは友達になんなくていーや。その代わり、話を聞かせてよ!」
「そんなことならお安いご用!」

パァッと笑顔になったキルア君と木陰に座って、そのままいろんな話をしたココに来るまでのいろんな出会い。自分がなりたいハンターという夢。

念のことや、自分の力の事は隠して、キルア君に聞かれるままにいろんな事を話す。

「あ、もうこんな時間」

そうやって話し込んでいると
いつの間に辺りは薄暗くなっていた。

「あーやべーおれもそろそろ戻らないと」
「そうね」
「…また、話だけ…いい?」
「もちろん!…あ、でもイルミさんには内緒にしないと」
「バレたら殺されそー」

クスクスと二人で小さく笑う。一緒に屋敷に戻るとまずいのでお互いに別々に戻ることにした。殺されそうになっていたことも殺そうとしたことも関係ない。

キルア君はまだまだ幼い。

カルトちゃんだって幼いけど、やっぱり家庭の事情とはいえあんな小さな子どもたちに殺しをやらせるのは…と少しだけ悲しくなった。

(ほんと、都合いいな…私)

自分だって人を殺しているのに。こんなことはキレイ事だって偽善ぶっているってわかってる。それでもそう思うのをやめてしまったら私は私でなくなるような気がして赤く染まってしまうような気がして

(…認めないと、受け入れないと)

この自分の感情に潰されないように

「もっと強くならなきゃ」

何度も自分に言い聞かせるように
暗示をかけるように呟いた。



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