くろあか | ナノ

 五十三話 どこからか



「うーん…?」
「…何?」
「あ、なんでも、ないです!」
「組手中に考え事なんて、余裕だねゆあ」
「わっ、と!イルミさんが、鍛えてくれてるっお蔭です、よっ!」

なんて言いながら飛んできたイルミさんの腕をはたき落とす。念・武器はなし。イルミさんは片手片足のみ。3本先取の組手の真っ最中だ。

現在1−2でイルミさんがリーチ。

「今日こそはっ!」
「ん、無理」
「やってやりますよ!」

と、意気込んではいるものの、今まで一度だって勝てたことはない。ハンデももらっているにも関わらずだ。最近は1本取ることもできるようになってきたし、大分長い間攻防を続けられるようにもなった。

昼食に毒入りのごはんを食べている今も、動けるようになってきた。毎日少しずつ摂取しているうちにどうやら毒への耐性ができてきたようだ。

(本当にイルミさんの、お陰)

足元を狙ってきたのを小さくシャンプして交わす。そのまま懐に入り込んで鳩尾を狙う。それは後ろに飛ばれて軽く避けられてしまった。追いかけるように左足を踏み込む。

「はっ!」
「脇が、甘い」
「!!…っつう」

強化なしとはいえ、強烈な打撃が脇腹に当たる。ガードも間に合わずもろにはいったそれに一瞬意識が飛ぶ。

そこを見逃さずにさらに蹴りが飛んできた。慌てて腕でガードするが、勢いも殺せずにそのまま吹っ飛ばされて近くの木に思いっきりぶつかった。

「ぐっ!…いっ…たぁ」
「はい終わり」
「うう…参りました…」

悔しいけど今日も負け。いつかハンデもないイルミさんから一本取ってみたいけど…はあ。痛む体を抑えながら体についた泥を軽く払う。

「ありがとうございました」
「もっと視野を広く」
「はい」

イルミさんの携帯が小さく鳴った。画面を確認してそのまま電話に出る。そういえばヒソカさんはどうしてるんだろう?あれからというもの全く連絡もない。電話もメールすら無いから少しだけ寂しい。

ヒソカさんに買ってもらった携帯が壊されて、イルミさんに新しく買ってもらってからあんまり触っていなかった。

まぁ、修行と仕事で忙しいのもあるし、用事もないのにこちらから連絡するのもなーと思いつつ、ヒソカさんと別れてからもうそろそろ半年だ。いつの間にか季節は春を越してもうすぐ夏だ。

(あっという間だった…)

「ゆあ」
「はい?」
「この後仕事だから」
「私もですか?」
「いや、俺だけ」
「わかりました」
「じゃあね」
「はい。気をつけていって来て下さいね」
「うん」

そう言ってイルミさんは
早足に森から姿を消してしまった。

「うーいたたた…」

イルミさんに思いっきりやられた所がズキズキと痛む。骨折まではしていなくても、動かすと痛い。ズルズルと木にもたれかかるようにその場にすとん、と座り込んだ。

(なんか…最近森で視線を感じるような…)

それとなく辺りを見回す。ゾルディック家のお屋敷はミケが居るのもあって動物がほとんど居ない。鳥たちも、小動物たちも恐れて近寄らないんだろう。
修行や拷問の為に猛獣がいるらしいけれど、お屋敷の近くではみたことがなかった。

使用人かとも思ったけれど森の中、しかも修行中。邪魔をするような事は緊急の用以外ではないはずだ。

(変な感じ…)

んーと唸りながら軽く伸びをする。

―ギラッ

「わっと」
「…チッ」

目の端に刃物を捉える。首を軽く左に逸らして避けると今まで首があった場所に、バタフライナイフが綺麗に刺さっていた。

舌打ちが聞こえた方を見るとかなり遠くの茂みがガサ、と揺れていた。そのまま小さな足音が遠ざかっていく。

「…うーん」

追いかけようかどうしようか悩む。侵入者ではないだろう。入るにはあの大きな扉を開かないといけない。ミケだって居る。

ゾルディック家の誰かが私を嫌って殺そうとしたのなら気にする事でもない。前よりはよくなったけれど、私の事をよく思ってない人なんてたくさんいるだろうし。

(追いかけても…)

追いかけて捕まえると、ゾルディック家の大事になりかねない。一応はイルミさんのお客様で通っているし。追いかけて殺す…のも。

(まぁ、いいか)

今日はもうイルミさんとの組手で疲れてるし。と、自分に言い聞かせるようにしてそのままかるく昼寝をしようと目を閉じた。



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