くろあか | ナノ

 四十話 対峙



「(厄介だなぁ…)」

幻影旅団はいきなり現れた。巨人のような獣のような男。猛りながら攻撃を繰り出してくる。それを避けながらイルミはふう、とため息をついた。

「がはははは!逃げるだけかぁ?!」
「(いやいや、針に猛毒仕込んでるんだけど)」
「団長!手ぇ出すなよぉ!」
「巻き込まれたくないからな。頼まれても嫌だ」

屋上には男が二人居た。一人は大男。もう一人は屋上の塀、そこに寄りかかりながら本を読んでいる。大男が「団長」と呼んでいたからきっと幻影旅団の頭、だろう。戦いに入ってくる気はないらしいが全く隙がない。得体のしれない男だ。

「(こっちの大男もかなりの能力者。強化系。ていうかなんで猛毒仕込んだ針あれだけ刺して動けるワケ?)」

すでに大男には針が何十本と刺さっている。いつも人間を操ったりするものだが筋肉に阻まれてなのかオーラを送っても操作できない。

猛毒も仕込んでいるのに大男は効いていないのか平気そうに動き回っている。人間とは思えなかった。

「がはははは!喰らえ!!!」
「!」

オーラを込めた強烈なパンチ。当たったらタダでは済まなさそうだ。防御なんて考えずに避ける。

「くっそ、ちょこまか…と、お、おぉ?」
「…ようやく効いた」
「な、ん、だ、ぁ?」
「猛毒。身体の自由を奪う」

―どさり…! 「お?」

ようやく毒が回ったのか大男がゆっくりと倒れる。念の為にもう何本か針を刺しておく。

「…はあ」
「………」
「わ、りぃ…なぁ、団長」
「アホが」
「(だからなんで喋れるんだよ)」

本当だったら一本でも刺されば指一本、目蓋ひとつ、動かせなくなる。そういった猛毒のはずなのに。やれやれ…といった様子で「団長」と呼ばれた黒髪の男が動き出す。

相変わらず隙はない。一筋縄ではいかなさそうだ。とりあえず出方を待つ。

「…殺し屋か?」
「………」

答えるか否か少しだけ悩む。大男を人質として利用できるか考える。けど、この雰囲気からしてそれはどうやら無理そうだった。

「ああ、あれかここの美術館の館長が依頼していたやつか…ふむ。」
「(…さすがに調べてはいるか)」
「へえ、それにしてもゾルディック家を雇うほど金があるとはね」
「…なんだ知ってるんだ」
「まあな。有名な暗殺一家だからな。マークはしているよ」
「あっそ。あんたが幻影旅団の頭?」
「現段階ではそうだな」

どうやら話し合いに持っていくつもりらしい。こちらとしても悪くはない。

依頼の「幻影旅団の抹殺もしくは捕獲」は現状無理だ。と結論付けたからだ。依頼は絶対だが、この依頼と報酬とでは見返りが合わない。明らかに、こちらが「損」だ。

「なるほど…じゃああちらのビルに居たのはお前の依頼人か」
「(やっぱりバレてる)」

顎に手をかけて考え込む。人質を取られているのにも関わらず焦った様子は一切見られなかった。懐に手を入れたので警戒する。いつでも動けるように構えた。

「ん、ああ、電話だよ」

「団長」である男はのんびりとした手つきで携帯を取り出すと気軽に電話をかけ始めた。飄々とした態度は去勢ではなく自分が有利に動ける何か策を持っているから故の余裕なのだろう。

「もしもし…シャルか?そうだ、ああ、ウボォーの馬鹿が、ああ、まあそうだな…うん。頼んだ」
「………」
「…あちらのビルに、俺の仲間を忍ばせている」
「………」
「まあ、護衛がいるのかもしれんが…まあ、依頼主は殺すようにいま頼んだ」
「………だから、手を引けって?」
「ああ、まあそういうことになるな。こちらもゾルディック家なんかと殺り合うのはごめんだからな」

確かに依頼主が殺されたとなれば
こちらとしても戦う意味はなくなる。

「(嘘、ではないだろうな…)」

微かにだが銃声が聞こえてくる。きっとこの男が言う通り幻影旅団のメンバーが誰かビルを襲っているのだろう。

「(一度ゆあに連絡をとろうかな…)」

相手も動く気はなさそうなので携帯を取り出す。一度かけてみるが出なかった。

「…他に仲間が居るのか?」
「そっちはどうなんだよ」
「ん?いまこの場所には二人。あちらのビルに二人。もう一つの美術館にも同じように四人ほど送っているな」
「そんなに喋っていいの?」
「次はそっちが答える番だろう」
「………二人」
「へえ。割りと少人数できてるんだな」
「幻影旅団がここまでとは思っていなかったからね」

それは本当だった。
まさかここまでとは思っていなかった。

「(マフィアや上の連中が手を焼くわけだ…)」

ブラックリストに載るのもそう遠くははないだろう。むしろ今まで載っていなかったのがおかしいぐらいに異常な連中だ。と、携帯が鳴った。ちらりと確認すれば液晶には【ゆあ】と出ていた。警戒を解かずに電話に出る。

「……もしもし」
『イルミさん!』
「……そっちはどう?」
『少し前の大きな叫び声。あのあと男が三人侵入してきました。でも、それは幻影旅団の名前を騙った偽物だったみたいで。とりあえず全員殺しておきました』
「そう…」

偽物。それはまた厄介な。と表情は変えずに聞く。

『あの、イルミさん今どこですか?』
「…屋上」
『わかりました。合流します?』
「………うん」

相変わらず緊張感のない声。とりあえず元気なようなので安心した。ちらり、と「団長」を確認すると不敵な笑みを浮かべたまま観察するようにこちらを見ていた。少しでも気を抜いたらその瞬間に食らいついてきそうだ。

「………依頼主なんだけど」
『あ、そういえばさっき急に『乙女のリボン』の発動が解けました。もしかしたら気づかれたのかもしれないです』
「………やっぱり」

発動が解けた、ということは死んだ可能性が高い。ということだ。依頼主は能力者ではなかったから自力で気づく、ということはそうそうありえないだろう。

『やっぱり?』
「こっちの話。とりあえずもう幻影旅団を追う理由がなくなったみたいだから。さっさと帰ろう」
『そうなんですか…?』
「…とりあえず撤退するから」
『んーわかりました。じゃあそっちに向かいますね』
「………いや、ちょっと待って」

なんとなく、ゆあと「団長」を会わせてはいけないような、そんなよくわからない不安に襲われる。そう考えているとブツッ!と鈍い音がしていきなり通話が切れた。

「…ゆあ?」

声をかけるが反応はない。電話も一方的に切られていた。ツーツーツー…という電子音だけが静かに返ってくる。

「………ゆあ、だと?」
「(……いま、名前、無意識に口にしてた?)」

それに反応したのは「団長」でさっきまでの飄々とした態度はなくなぜか驚きを顔に浮かべていた。

「(なんだ?なんでゆあの名前を聞いただけで、驚く?)」

なんとなく嫌な予感がした。

「いや、でも…まさか」
「…なに?」
「……状況が少し変わった。おい、ゆあというのは…」

と言いかけたの同時に辺り一面を凄まじいほどの殺気とビリビリとした得体のしれないオーラが襲う。

―ドガァァンッ!!

「?!」

次の瞬間、爆音が響き渡った。幻影旅団の仕業かと思い「団長」へと視線を移す、がいつの間にか男の姿が消えていた。

「くそ…」

オーラを探れば美術館の中で大男が動けないのを確認してからあとを追って美術館の中へ入る。非常階段には最初の咆哮でやられた人間たちの死体が転がっていた。

「(このオーラ、それに殺気これは…)」

そのオーラも殺気も知っていた。

「(前に、クルタ族が襲撃された日)」

ゆあが倒れて念が暴走したとき

「(あのときと同じオーラ)」

嫌な予感がした。


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