くろあか | ナノ

 四十一話 あかあかあか

赤い赤い赤い
これはなに?

黒い黒い黒い
これはわたし?



目の前が赤く染まった。
頭の中が黒く濁った。

「(ああ…熱い)」

ほとんど無意識だった。気づけば念が発動していて凄まじい爆音と共に一気に弾けた。あまりにも一瞬のことでわたしはただ立ち尽くしていた。

何が起こったのかわからなかった。
でも何をしたのかはわかっていた。

「(……寒い)」

自分が立っていた場所を中心にまるで爆弾が炸裂したかのようにありとあらゆるものが壊れていた。こなごなにビリビリにボロボロに、ぐちゃぐちゃにズタズタに、原型もわからないほどにそう、わたしが壊したのだ。

「(……赤い)」

足元には爆発で割れた照明やガラスが散らばっていてふと下を見れば目が燃えるように赤く輝くように緋くなった自分と目が合った。まるで自分じゃないみたいでそれはまるで他人みたいですぐに目を逸らしてしまう。

男だったモノは目も当てられないほど赤く黒くそこで息絶えていた。

「(……わたし)」

自分を包むオーラがごおごおと揺らいでいるのが自分でもよくわかる。この感覚はなんとなく覚えてた。体は寒くて震えるほどなのに目は燃えるように熱くて苦しい。

「(クルタ族が、皆殺しにされた夜…)」

あの時も同じように目が熱くなって、苦しかった。目が緋くなって、痛くて、苦しくて。怒りや哀しみ、感情が昂ると「緋の目」は発動する。その輝きはとても美しく光を受けると宝石のようにキラキラと様々な色に輝く。

わたしはまだこの目を自由に使うことができなかった。もともと怒ることは少ないし感情が昂ることもそんなにない。ヒソカさんやイルミさんにもそこまで目の心配はしなくても大丈夫だろうと言われていたが

「(…あとで怒られそうだなぁ)」

今回はさすがに怒られるだろう。すごい大きな爆音だったからもちろんイルミさんにも気づかれてしまっただろう。

「(幻影旅団、にも気づかれちゃったかな…)」

それはまずいなー、と思いながらもあまり焦っていない自分が居てこういうところが危機感がない、とかマイペースと言われるのかもしれない。落ち着いてきたのかオーラがようやく収まる。

緋の目が発動している間は強制的にオーラが垂れ流しの状態になってしまう。それは自分が目を制御できていないから増えたオーラを扱いきれずそうなってしまうのだ。

「(…今度相談しよう)」

イルミさんなら感情をコントロールすることや制御することに関して詳しそうだしこのまま、またこうやって暴走、みたいなことになってしまえばヒソカさんに迷惑がかかってしまう。

それだけはどうしても嫌だった。

わたしがいまこうして生きてられるのは
全部ヒソカさんのおかげなのだから。

「(もっと強くならないと…)」

ぎゅ、と目を一度瞑ってみる。でもまだ目は熱いままだ。やっぱり自分で制御はできなかった。このままじゃヒソカさんの足でまといだ。少しだけ泣きそうになりながらでもいまは考えている暇なんてないから唇を噛み締めて我慢する。

「(…とりあえずイルミさんと合流しなくちゃ)」

歩きだそうとすると筋肉がびしっ、と軋んだ。思わず痛みに顔をしかめる。オーラをいきなり消費したからか身体は重く、思ったように動けない。

「(う…明日筋肉痛かも…)」

いやだなーと思いながらも
屋上に向かおうと歩き出す。

「止まれ」
「っ!」

いきなり、男の低い声が響いてびくっ、とその場に固まった。ビリビリと肌を撫でる殺気。知らないオーラ。威圧感。

そっと、目だけで姿を探せば月明かりで逆光になっていて顔は見えないけれどコートらしきものを着た男が少し離れたところに立っていた。

「(なに、誰、イルミさんじゃない…じゃあ、幻影旅団?)」

偽物ではない。本物だ。さっきの三人とはオーラが違いすぎる。ヒソカさんやイルミさんと同じもしかしたらそれ以上に、強い。冷や汗が背中を伝って流れた。

「いくつか聞きたいことがある」
「………」
「それに答えれば悪いようにはしない」
「………」

冷ややかな暗く冷酷な声。その声だけで、オーラだけでそれだけで人を殺せてしまいそうだ。

(これが、本物の、幻影旅団?)

ぶるっ、と恐怖からか身震いする。さーっと血の気が引くように体の隅々まで冷え切っていく感覚。さっきまで燃えるように熱かったのに今では寒気すらする。

「(どうしよう…質問?なんの?答えないと、殺される…じゃあ…逃げる?いやいや、絶対無理だって!)」

頭の中でぐるぐるとどうやってこの場を切り抜けるか考える、でもどうしても無理そうだ。オーラを消費したからか念能力は使えそうにもない。体は疲労で思ったように動かないしどう考えても最悪の状況だった。

「(隙を見せちゃダメだ…動揺や焦りがバレたらまずい…)」

イルミさんのような無表情無感情を意識しながら、顔はなるべく見られないようにマフラーを少し口元に上げながら男へと向き合うような形になった。

相変わらず男の顔は見えない。でも突き刺さる視線が痛い。のしかかるオーラが重い。今にも背中を向けて逃げ出したいのをぐっ、と堪えながら男の言葉を待つ。

「さっきのはお前がやったのか?」
「………」

さっきの、と聞かれて考える。きっと爆音とこの惨状のことだろう。このフロアの全てのものが壊れてる状況。その場にいるのはわたしと質問をしてきたコートの男だけ。

(危険だと思われた?警戒されている?)

嘘を吐いてもすぐにバレてしまうだろうし嘘を吐くメリットも特にない。少しだけ考えて正直に答えようと口を開く。

「…っ!」
「………?」

声を出そうとして『ささやく妖精』の発動が解けていることに気づいた。少年のような声から元の声にいつの間にか戻ってしまっている。

慌てて言葉を飲み込んだ。口ごもっていると男が訝しげに睨んでくる。

(やばい…答えないと、殺される…でも声を出したら女だとバレちゃう…それはなんか、まずい気がする…!)

どうしよう、と悩んだ挙句
こくん、と頷いて答えることにした。

「…そうか」
「(…よかった伝わった)」

男は睨みを効かせたままだが
意思は伝わったようでほっとした。

「お前は、暗殺者か?」
「(…そうです。)」

一つ頷く。

「お前一人だけか?」
「(…ちがいます。)」

首を振って否定する。何問かそうやって質問される。なにが聞きたいんだろう、と思いながらもとりあえず嘘は吐かずに答えていく。

「………」
「………?」

男が黙ったので首を傾げる。だけど次の質問はなかった。何か考えているのか顎に手を当てて悩んでいるようだった。

(…逃げる、うーん…無理だろうなぁ…どうしよう)

その隙に逃げようか考えるが男の殺気やオーラはまだビリビリと鋭いままで隙はない。

「最後に」
「…?」

最後、なんだろうと意識を戻す。男はまた少しの間悩むように黙っていたがようやく口を開いた。

「……お前の名前は、ゆあ、か?」



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