くろあか | ナノ

 四十話 不安定

つまらない?
楽しいことは、好き?


「(さて…適当に頑張ろう…)」

いつの間にか慣れてしまった殺しの仕事。特に緊張もしていない自分が居てどうなのかな…と思いながらも生きていくために仕方ないよね、と半ば強引に自分に言い聞かせる。絶で気配を消してから屋上の扉から美術館の中へと入った。

―ガチャッ

中は少しだけ暖房が聞いているのか
暖かい空気にほ、と息をつく。

「誰だ?!」
「なんだぁ…?お前が幻影旅団か?!」

非常階段には雇われたであろう護衛のマフィア達が待機して居て一斉に銃口がこちらへと向いた。

「(…まあ、幻影旅団だと思うよね…)」

もう銃を向けられることにも慣れてしまっていて。特に気にせずいつものトーンでとりあえず弁解する。

「違います。雇われている暗殺者です」
「暗殺者ぁ?」
「今回はゾルディック家を雇った、と聞いてるぞ?」
「はあ?お前みたいなガキが?」
「(ゾルディック家ではないけど、まあ同じようなものだよね)…そうです。」
「嘘かもしれねーだろうが!」
「そうだ…お前が幻影旅団かもしれないだろ?!」
「証拠もねぇんだし…!」

ざわざわと騒ぎ出す。まあ、疑われても仕方がない。いきなり屋上の扉から入ってきて「味方です」なんて言われても誰も信じやしないだろう。ましてやわたしはどうみても子供だし。怪しまれてもそれは当然だ。

「(めんどくさいなー)」

と思いながら小さく聞こえないように
ふう…とため息をついた。

「幻影旅団なのか?!」
「こんなガキが…?」
「おい!答えろ!!」
「はあ…まあ、もし仮にわた…僕が幻影旅団だとしたら貴方達はすでに死んでますよ」
「ああ?!」
「なんだと?!」

一瞬声を変えているのを忘れてわたし、なんて言ってしまいそうになる。慌ててそれを言い直しながらす…、とマフィア達の横をすり抜けて階段を降りる。「待て!」と後ろから声が聞こえるが無視してそのまま進んだ。

「待ってっつてんだろ!撃つぞ!」
「………」
「おい!」
「(もう…めんどくさい…)」

何人かがあとを追いかけてきた。ぐわ、と男が手を伸ばして捕まえようとしてくる。それをひょい、と軽くかわす。念で脚力を強化して追いかけてきた男たちをすり抜けこの中で一番強そうなリーダーっぽい人の後ろへとまわりこむ。

「…動いたら殺しますよ?」
「…っ?!」
「なっいつの間にっ?!」

男の首元にナイフをつきつけて少しだけ殺気を出して脅す。彼らからみたらわたしは階段の上からいきなり男の後ろに瞬間移動したように見えただろう。

「…とまぁ、貴方たちを殺すのは簡単です。もし僕が幻影旅団だったら入ってきた瞬間に貴方たちを殺したと思いますよ。」
「…っ」
「…くそっ、おい…お前ら銃を降ろせ」
「わかって頂けてよかったです」
「ちっ化物め…」

舌打ちと一緒に睨まれる。銃をおろした男たちの間を気にせずに階段を下りていく。化物、と呼ばれるのは始めてではない。

「(…自分でもそう思うけどね)」

わたしはもう普通ではない。念能力を覚えて人殺しに手を染めた。ここにいるマフィア達も殺そうと思えば簡単に殺せてしまえる。罪悪感や、後ろめたさ。最初の頃はすごく悩んだ。悪夢も見たし、欝と言われる状態にもなった。

でも、

いつからかどうでもよくなって
いつの間にか当たり前になってしまった。

「(んー…わたしも、汚い人間になったなぁ…)」

階段を下りながらぐるぐると考える。気にしない、とはいってもやっぱり言われれば気にするのだ。それなりに傷つくし、もちろん苦しい。

「(こういうところが、未熟…)」

はあ…とため息をついたところでポケットに入れていた携帯が静かに震えた。液晶を確認すると【ヒソカ◆】という文字と着信のマーク。

「へっ、わ、わ、わ…!」

ヒソカさんから…電話…!?
慌ててボタンを押して携帯を耳に当てる。

「もっ、もしもし…!」
『もしもしゆあ?◆』
「はっはい…!」
『んー?なに、声変えてるの?◆』
「あ、はい…一応念のためと思って…」
『違う人にかかったかと思ったよ◆』
「戻しますか?」
『ん?そのままでいいよ◆』
「そうですか…あの、どうしたんですか?」
『イヤ、暇でネ◆』
「暇って…ちゃんとして下さいよ…!」

だってなかなか来ないから◆なんていつものペースのヒソカさん。いきなり電話が来たからてっきり幻影旅団のことについてなにか連絡してきたのかと思ったのに…。

『そっちもマダ?◆』
「はい。静かですよー。」
『そう…待たされるのは嫌いじゃないんだけど…早くして欲しいよね◆』
「いや…わたしとしては、あんまり来て欲しくない…です」
『ふぅん?◆』
「…なんですかその意味ありげな反応!」
『いや、無意識なのかなと思って◆』
「何がですか?」
『さぁ?◆』

こうやってヒソカさんが言葉を濁す時はわたしをからかっているときが大体で。遠まわしに言ってわたしの反応を楽しむもんだからタチが悪い。考えてみるけどやっぱりわからない。

『イルミは?』
「イルミさんとは別行動してます」
『へえ…そうなんだ?◆』
「わたしは中を、イルミさんは外を」
『ふぅん…◆』
「なんですか…」
『いや、イルミのことだから一緒に行動するかと思ったんだけどね◆』
「んーまぁ、美術館広いですからね。別行動の方がいろいろと動きやすいでしょうし」
『まあ、別行動ならそれはそれで安心だけど◆』
「何が安心なんですか?」
『こっちの話◆』
「えー…またそうやって…」
『ゆあが危機感ないからいけないんだよ…?◆』
「えっわたしのせいなんですか?!」
『うん◆』

ほぼ即答、と言っていいほど断言されてまたもやもやと考える。言われた意味が分からずぐるぐる考える。でも結局わからない。

「(意味わかんない…ヒソカさんのばか…)」

考えながらも階段を降りる。中は明かりがついたままで作品が昼間と同じように展示されている。誰も居ない美術館は静かで足音が立たないように注意しながら円で気配を探りつつ歩く。

「(あれ…なんか、違和感…?)」

なんとなく辺りに違和感を感じてきょろきょろと辺りを伺う。でも特に何も変わったところはなくヒソカさんに適当に相づちを打ちながらんー?と首をかしげる。

『どうしたんだい?◆』
「いや、ちょっと違和感が…」
『敵?◆』
「んー…そういう感じじゃないんですけど…」
『ゆあはドジだからねぇ◆』
「…そんなことありません」
『少し前の仕事のときだって…◆』
「わーわーわ!それはもう言わないでください!」
『クックック…◆』
「人が悪いですよ!ヒソカさん!」
『ゴメンゴメン◆』

もう電話切りますよ!と半ば強引に会話を終わらせる。今から噂の幻影旅団と戦うというのに緊張感のかけらもない。はあ…まったく、とため息をついた。

でも暗い気分に落ちそうだったのがいつの間にか戻っているのに気づいて、ヒソカさんと話して落ち着いた自分が居て。

「(うわぁ…なんか、恥ずかしい…)」

携帯の液晶に映る【ヒソカ◆】の
文字を睨んでからポケットにしまう。

「(ヒソカさんって変にタイミングいいんだから…)」

なんてヒソカさんのせいにしてうんうん、と一人で納得して誤魔化す。適当に歩いていたら少し開けたところに出た。この間来た時に見た絵画が展示されていてなんとなく魅入る。

「(って、こんな悠長なことしてる場合じゃないよね)」

周りを見渡しながら確認する。腕に巻いた『乙女のリボン』は今だに発動したままで依頼主の感情がぼんやりと伝わってくる。

「(んー相変わらずイライラしてるなぁ…)」

まだ気づかれていないようだがさっきと変わらずイライラとした感情と焦りなどがなんとなくだが伝わってくる。

「(…これを戦いの最中にも使えたらなぁ…難しいか)」

さすがに念能力者相手ではすぐに気づかれてしまいそうだから戦いには向かないかもしれない。もう少し改善が必要かな…と今度の修行のことを考える。

もし幻影旅団が来たとしても外にイルミさんが居るから中に入ってくることはないかもな、なんて油断をしていたわけではないけどいきなりで驚いて行動がワンテンポ遅れてしまったのは事実だ。

―ウォオオオオォオオ!!!

「っ!?」

いきなり耳をつんざくような咆哮。まるで獣のような叫び声。かなり離れているだろうに鼓膜がびりびりとしびれる。

「(っう…わたしと同じような音を使った攻撃ではなく、純粋なただの馬鹿でかい叫び声…)」

耳鳴りがひどい。手で耳を抑えながら近くにあった大きなオブジェの影にさっ、と身を隠しながら意識を引き締める。

「…すげぇ叫び声」
「ははは、でもうまく行ったぜ?」
「ああ、さすがだなぁ…!」
「(…いつの間にっ?!)」

いきなり声がしたと思えば同じフロアの一角にいつの間にか男が三人現れていた。汗がどっ、と流れる。いきなり三人。しかも侵入に全く気付かなかった。

「(…念能力者、三人)」

さっきの声のおかげかこちらには気づかれていないようで静かに息を殺したまま観察する。三人は余裕があるのかのんびりとした動作で絵を物色し始める。

「(…幻影旅団…の割にはあんまり強くなさそう…)」

いつもヒソカさんやイルミさんといった強い人たちと居るからか目の前の三人がどれぐらいの力量かはなんとなくオーラでわかる。

でも、そこまで強そうではない。

むしろ屋上から感じるオーラはやばい。さっきの叫び声の主が暴れているのか轟々と凄じいオーラが嫌でも伝わってくる。そっちはイルミさんが居るから問題ない。だからわたしはこの3人に集中した。

「(んー…わざと?罠?…どうしよ)」

こちらにも気づいていない振りなのか本当に気づいていないのか、わからない。でも三人をみた感想としては「簡単に殺せそう」というのが一番素直な感情だった。

「さっさと終わらせちまおう」
「そうだな…表で暴れてるうちにとっととやらねーと」

静かに観察してみるがどうも隙だらけでナイフを静かに取り出しながら殺すタイミングをそっと伺う。

「(殺るなら一気に…いや、でも一人だけ残して…)」

三人はバラバラに別れてそれぞれ美術品を漁り始める。一人の男がこちらに背を向けた瞬間

「(いま…!)」

―ひゅっ、 「ぐあ、がっ?!」

脚力を強化して近づき後ろから襲う。相手が反応するよりも早く喉元を勢いよくナイフで掻き切った。念で強化したナイフはとても鋭利で男の反応が遅かったから防御も間に合わず血を吹き出しながらぐら、と倒れていく。

「くそ…っ?!」

もう一人の男が反応するよりも先にさらに加速して跳躍する。銃口を向けられるより速くナイフを顔面に向けて投げる。

―ひゅっん! 『斬!』

それと同時に『ささやく妖精』で
音弾も一緒に飛ばす。

「ぎゃっ、あっ!」

念で弾かれるかと思ったが案外簡単にそれは男の身体を引き裂く。音弾が先に当たって血が吹き出る。遅れて届いたナイフが顔面に刺さると「ぎゅえ」と奇妙な声を発して男はどさっ、と後ろ向きに倒れた。

空中で身体をひねりながら腰のホルダーから銃を抜いて着地と同時にそれを残った男に向ける。男も銃を取り出していてお互いに銃を向け合う。

「…こんばんは」
「っくそ!なんだてめぇ…!」
「えーっと…一応暗殺者です、ね」
「…暗殺者?!くそっ!」
「あなたが幻影旅団、ですか?」
「…そうだ!俺が幻影旅団だ!」
「…幻影旅団?」
「そうだって言ってんだろ!てめーなんか殺してやる!」

銃を構えたまま叫ぶ男。その姿はまるでひ弱で、明らかに仲間を殺されて動揺している。

「(本当に、幻影旅団?…話に聞いてたのと全然違う…)」

足元に転がる死体を一瞥する。あっさりと殺せてしまった。手応えもなかった。

「(…つまらない)」

つまらない、そう考えた瞬間ざわざわっ、と冷たい何かに背中を撫でられたような、まるで見えない何かに怯えるような、得体のしれない悪寒に震える。

「(っわたし、いま、何を考えてっ…!)」

つまらない、なんて
戦いにそんな感情を抱くなんて

つまらない、なんて
まるで殺しを楽しんでいるなんて

つまらない、つまらない、
戦いは、殺しは、楽しい、

「(ちっ、ちが…ちがう、ちがう…!)」

必死に否定する。

何を否定してるのか、
何に対して否定してるのか。

わからないけど、ただひたすらに
ちがう、と心の中で叫ぶ。

銃を持つ手が震えるのがわかる。

「はっ…俺は幻影旅団だぞ!お前みたいなガキ簡単に殺してやる!」

男がそれに気づいたのか顔色を変える。わたしが幻影旅団と聞いてビビったと思っているらしい。

「(っ…余計なことは考えない…!)」

ぎり…と唇を噛み締めて痛みで無理やり感情を抑える。今は目の前の男を殺すのが先。キッ、と銃を握り直して男を睨む。

「…くそ!」
「…本当に幻影旅団ですか?」
「………」

今度は反応がなくなる。男が一歩、じり…と下がる。それに合わせて一歩近寄る。もう一歩男が後ろへと下がった瞬間…

―スッ 「?!」

男の姿が一瞬にして消えた。



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