くろあか | ナノ

 三十九話 携帯電話



喜び、怒り、哀しみ、楽しみ
さまざまな感情。


「うぅ…寒い…」

今年一番の冷え込みだという夜。雪がはらはらと静かに落ちていく。すっかり暗くなった夜。美術館のすぐそばのビルの中から外の様子を伺っていた。

閉館時間はとっくに過ぎたのに警備が多い。入口に銃を構えた男が2人。美術館の中も電気がついたままだから中にも警備が居るんだろう。

「んー警備多いねぇ◆」
「素人じゃどうしようもないけどね」
「ほんとに幻影旅団、来るんでしょうか?」
「さあ?◆」
「さあ…って」

いつものピエロメイクのヒソカさん。寒いのにいつもの服装のままで見ているこっちが寒くなってくる。イルミさんは黒で統一されたチャイナ服。あまり暖かくはなさそうだけど…動きやすそう。仕事着なのかな?

わたしはというとマフラーを巻き黒のコートに黒の長ズボン。裾はブーツにしまいこんで足元の寒さ対策も完璧です!もちろん寒いから露出はなし。髪の毛は一つにまとめてマフラーの中。パッと見は男の子みたいな服装。

「で、ヒソカさんはなんでここに?」
「だってゆあとイルミが一緒って心配じゃないか◆」
「ヒソカよりは安心だろ」
「ゆあにナニもしないでよ◆」
「…お前と一緒にするな」
「ていうか、昨日散々話し合ってわたしとイルミさん、ヒソカさんは単独って決めたじゃないですか!」

依頼主である美術館のオーナーは二つの美術館を経営しているらしく両方の美術館の護衛を依頼してきた。

両方に幻影旅団が現れるかもしれないから南区にあるこの美術館をわたしとイルミさんが北区にある美術館をヒソカさんがそれぞれ護衛することになったのだ。

「んー心配◆」

わしゃ、っと頭を撫でられる。わたしとしてはヒソカさんと一緒だと戦闘でテンション上がったヒソカさんに巻き込まれたりしないか心配だからイルミさんと一緒の方が嬉しかった。

「ほら、早く北区の美術館に行ってくださいよ」
「…冷たいゆあもイイね◆」
「………」
「………」
「二人してそんなに見つめるなよ◆」

…相変わらず気持ち悪い。幻影旅団と戦えるからだろう。テンションが上がっているらしく笑顔もいつもよりニヤニヤと気持ち悪い。

「………」
「イルミさん…殺気出したらバレますよ」
「一瞬で殺すから」
「気持ちはわかりますけど…ダメです!」
「怖い怖い◆」
「もー!さっさと行って下さい!!」
「酷いな、ボクはゆあのことを心配してあげてるのに◆」
「お気持ちだけで結構です」
「素直じゃないなぁ…そうだ、ゆあこれ◆」
「…これって!」
「携帯。さすがにいつまでも連絡取れないままだと不自由だからね◆」

はい、とヒソカさんから渡されたものは少し型が古い気がするけれど、紛れもなくそれは携帯で。形が少し変わっていた。ストレートタイプの機種で小さな画面がついているがその上に白いうさぎの耳がついている。ひっくり返すと裏には丸くて小さいうさぎのしっぽもついていた。

「か、可愛い…!」
「最新の人気機種らしいよ◆」
「うさぎの耳がついてます!」
「他にも猫とか犬とかもあったね◆」

適当に操作して行くとメールのアイコンや電話のアイコン。操作方法もわたしが居た世界のものとさして変わらないようで。

「ん、携帯使ったことあるの?◆」
「わたしが居た世界にも携帯はあったんですよー!もう少し技術が発展してますけどね!」
「へぇ…操作慣れてるね◆」
「わたしの世界ではみんな持ってましたからねー子供も大人も老人も」

電話帳を開いてみるとヒソカさんの名前とイルミさんもすでに登録してあった。わー2人だけ!…泣きそう。

「何かあったらすぐ連絡して◆」
「いま試しに送ってみてもいいですか?」
「うん◆」

ぴこぴこぴこ…とメールを作成する。適当に『テスト!寒いです(>_<)』と書いてヒソカさんとイルミさんに同時送信する。…ちょっとそわそわ。2人が携帯を開いて確認する。それを見ながら反応を待った。

―がばっ 「わっ!?」

急にヒソカさんが抱きついてくる。
わわわ、いきなり!何?!

「ヒソカ…離れろ」
「だってゆあが寒いっていうから◆」
「だからっていきなり抱きつかないで下さい!」
「いきなりじゃなかったらいいの?◆」
「ダメです!」

ブーツでヒソカさんの足をげしげし、と思い切り蹴ると痛いよ◆と笑いながらようやく離れた。喜んでる…これだから変態は…!

「おいヒソカそろそろ」
「…わかってるよ◆」
「この間に幻影旅団来ちゃってたらどうするんですか?!」
「大丈夫だよ。襲うなら同時に襲うだろうし◆」
「…そうですか?」
「そうだよ◆ま、さすがにそろそろ行くけどね◆」

と言いながらようやくヒソカさんは部屋から出て行った。一気に気配が遠くなる。やれやれとため息をはいた。



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