くろあか | ナノ

 三十七話 ファミリー



わたしは一人っ子だったから
兄とか姉とか弟とか妹すごく憧れた。



「あの…イルミさん?」
「似合うよ」
「あ、ありがとうございます…じゃなくて!なんなんですか?この状況?!」
「あとあれも」
「(ダメだ…聞いてくれない…)」

今の状況を説明するとバイトが終わって家に帰るのかと思いきやイルミさんが少し寄りたいところがある。と言い出して服屋に来ています。

しかもイルミさんの服ではなくてわたしの服。そこで着せ替え人形のように次から次へと服を着せられている状態です。

…高そうな洋服ばっかり。可愛い系も綺麗系もあるけど、服の系統はどちらかというとアジア系だ。

「(…いきなりなんなんだろう)」

いま着ている服を鏡で見る。中国のチャイナ服みたいなデザイン。膝下まであるドレスタイプで横には大きくスリットが入っていてその下にズボン。体にフィットする形だからちょっと恥ずかしい。

「(うーもうちょっと腰のくびれ…欲しいなぁ)」

初めてチャイナ服来たけどなんか動きやすくて楽かも。イルミさんの趣味なのかな?服屋の店員に話をしているイルミさんをちらり、と盗みみる。

今日のイルミさんの服装はカンフーをする人とかが着ていそうな服。黒い生地に竜が大きく描かれていてシンプルなのにすごくカッコイイ。

イルミさんってなんでも似合うなー。身体細いし、背も高くてすらっとしてて手は冷たいけど優しくて撫でられると気持ちよくてってそうじゃなかった!話しているイルミさんの服の裾をくいくい、と引っ張るようにつまむ。

身長差から上を見上げる形になるのはどうしようもないけど、やっぱりもう少し身長欲しいなって思った。

「イルミさん、イルミさん」
「…なに?」
「あの、なんで服なんですか?」
「ああ。ゆあのことを母さんに話したら、「早く連れてきなさい!」って言われたんだよね」
「ええっ」

イルミさんの、お母さん…?えっ、なにそれどういうこと…?!予想外の言葉に困惑する。

「母さんの機嫌って難しいんだよね。ゆあ殺されたら嫌だし」
「こ、ここここ殺さっ?!」
「気に入られなかったら殺されるだろうね。」
「え、え、え!」
「嫌でしょ?」
「わた、わたし、そんな、いいい、いやです!」
「でしょ。だからそのときの為の服の下見」

やっぱりゾルディック家怖い!ますます遊びに行きたくない!!イルミさんのお父さんもお母さんも怖いよ!

「はい次これね」
「え、まだ着るんですか…?」
「うん。早く」
「わ、わ、わ!」

服を渡されてフィッティングルームへとぐいぐいと押し込まれる。ちょっとイルミさん乱暴…!とりあえず渡された服を着る。和風で着物に近いデザインの服だ。

「(懐かしい…)」

着物なんだけど、裾が膝丈になっていて色も淡いピンクでレースが施されてたり若者向けっていうのかな?おしゃれな感じですごく可愛いかった。とりあえず着替え終わったのでカーテンを開ける。イルミさんはいつのも無表情のままこちらを見た。

「着終わりましたー」
「うん」
「…どうですか?」
「……うん。」

上から下までを一通りじーっと見られて感想「うん。」だけ…似合わなかったのかな…ちょっと落ち込むなあ…。イルミさんはいつもの無表情だからよくはわからないけど。

鏡で自分の姿を見ながらくるり、と一回転してみる。後ろでリボンのように結んだ帯がふわ、と揺れて可愛い。わたしにはちょっと可愛いすぎるかな?と思っていると鏡越しにイルミさんと目が合った。なんだろう。とりあえず見つめ返す。

「………」
「…?」
「妹が居たらこんな感じなのかな」
「へ?妹ですか?」

ぼそり、とイルミさんが呟く。

妹。いもうと。シスター。イルミさんの口から聞くとなんというか、すごい違和感がある。

「ご兄弟に妹さんは居ないんですか?」
「居ないことになってる」
「え?」
「気にしない」
「え、あ、はい…?」
「会計してくるから」
「えっ!お金は…」
「着替えてて」

有無を言わさずにカーテンがシャッ、と再び閉められた。えっと…どうしよう。開けて何か言おうかと思ったけど聞いてもらそうにないし諦めた。お金…いいのかなあ…。

「(妹…かあ)」

イルミさんは居ないことになってる。と、言っていた。少し含みのある変な言い回し。何かあるのかなー。と気になるけど、気にするな。って言われたし聞いたところで教えてくれないだろう。

「(わたしは、イルミさんにとってどういう存在なんだろう…)」

それはとても気になることだ。わたしとしては、念の師匠と弟子。という関係が一番しっくりくるんだけど。イルミさんは認めてないみたいだし、わたしが勝手に思ってるだけだ。

「(わたしってヒソカさんのおまけ、だからなぁ…)」

イルミさんからしてみればそれ以上でも以下でもないのかも?でも家に招待してもらえるってことは、それなりに気にかけてもらえてるのかも…。

「(それは、嬉しいなあ…)」

わたしはイルミさんのこともヒソカさんと同じぐらい大事に思ってる。まあ、これもわたしからの一方的な思いだけど。イルミさんもわたしの世界の大事な一部。

脱いだ服を丁寧にたたみながらぼーっとそんなことを考える。フィッティングルームからでてレジにいるイルミさんに近寄る。

「イルミさん」
「うん」
「お金、いいんですか?」
「いいよ」
「…でも」

と、その先を言おうとしたところでこの間シャルに言われた言葉が蘇る。こういうときは、謝るんじゃなくてお礼を言うべき…だよね!

「イルミさん」
「なに」
「ありがとう、ございます!」
「…!」
「えっと、あの、その」
「いいよ」
「わっ」

頭をわしゃわしゃ、と乱暴に撫でられた。イルミさんの表情はうかがえなかった。後ろから「仲がよろしいんですね〜」という店員さんの声が聞こえる。あ、兄妹だと思われてるのかな?

…それは、ちょっと、嬉しい…!

「なにニヤニヤしてるの」
「うっ!」
「帰るよ」
「……はーい」

相変わらずイルミさんにはバレバレだ。…でも、嬉しかったんだもん。歩き出したイルミさんに置いてかれそうになったので買い物袋をもって早足で追いかける。

「ゆあ」
「はい、なんですか?」
「ああいうのは、ずるいよ」
「……へ?」
「………」
「えっと、イルミさん?なにがですか?」
「…なんでもない」
「え、え、気になります!」
「気にしない」
「え!」
「帰るよ」
「あ、待ってくださいー!」





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