くろあか | ナノ

 三十六話 知らない会話



「……」
「どうぞ」
「わかってるよね」
「……」
「俺がここに来た理由」

休憩所に入るとイルミが冷たく言う。イルミがモアをみる。イルミのその目はいつもと変わらず暗く何を考えているかわからない。

でもオーラは刺さるように冷たく殺気が溢れだしていた。モアは言葉を選ぶように少しためらいながらも口を開いた。

「…大体ね」
「そう、なら話しは早いね」
「………」
「嘘を吐いたら殺す」
「………」
「変な気を起こしても殺す」
「………」
「ただ、俺の質問に答えればいい」
「…わかったわ」

イルミの殺気がより明確なものになる。心なしか部屋の温度が下がったようだ。モアはそんなことを言われながらもあまり焦った様子はない。いつものように冷静なままだ。

「ゆあの情報を幻影旅団に売ったらしいね」
「………ええ、売ったわ。仕事だからね」
「なんて依頼された?」
「『お前の店で働いているゆあという女を調べてくれ』という依頼だったわ」
「それを依頼したのは?」
「旅団のリーダーである、クロロ=ルシルフル」
「…へえ」

それには少しだけイルミも驚く。幻影旅団の情報は全くといっていいほどなくマフィアが血眼で探しているがいまだにその実態はつかめていない。

「で、どんな情報を売った?」
「『名前』『出身地』『年齢』『家族』『住所』…ゆあのこと調べたけど、ほとんが不明だったわ」
「………」
「売ったのは私が直接ゆあに聞いて知っている情報だけ。それ以外は私の能力でも調べられなかった。」
「………」
「…あの子は、ゆあは何者なの?」
「……別に何者でもない」
「あなたやヒソカと一緒にいるというだけでも、十分不可解だわ」

初めて会うけれど、正直早くこの場から逃げたい。イルミのオーラは痛くて冷たくて何を考えているかわからないのも怖い。こんな人間とまとも話しができるゆあが、笑顔で接しられるゆあがわからない。

「ヒソカや俺のことは?」
「……いえ」
「なぜ?」
「…なんでかしらね」
「それがバレたら幻影旅団に殺されるかもしれないのに?」

ゆあの情報を売ったのは確かだがその売った情報は実はすべてじゃない。ヒソカやイルミのことは伏せたし、念を使えるということも隠した。情報屋として、こうやって情報を自分の私的な感情で隠蔽するのは初めてのことだった。

「ゆあの肩を持ったのは、たぶんあなたと同じような気持ちからよ」
「………」
「暗殺者であるあなたが、なぜゆあのことをそこまで気にかけるかの方が私にとっては気になることなんだけれど?」
「………」
「まあ、なんていうか…あの子は味方したくなるのよね。危なっかしいところばかりで、疑うことを知らないし、誰とでもすぐに仲良くなるし、世間のことを知らなすぎるし…娘がいたらあんな感じなのかしらね」

さっきから黙りこんでいるイルミ。気にせずにほぼひとり言のように話す。反応がないが、殺気がおさまった。イルミのゆあに対する感情がいまいちどういったものなのかわからないが悪いものではなさそうだ。むしろ、好意と言ってもいいだろう。

「情報売ったのはそれだけ?」
「ええ、それで全部よ」
「そう」
「殺さないの?」
「…殺して欲しいの?」
「いえ、そうではないけど」

てっきり最後に殺されると
思っていたから驚いた。

「…最後に」
「なにかしら」
「ゆあがヒソカの仕事を手伝ってること知ってるだろ」
「………ええ」

最後にそれだけ聞くとイルミは休憩所から出て行く。扉が閉まるのを見てから小さくため息をつく。

「はあ、息が詰まった…よくゆあはあんなのと一緒にいられるわね…」

有名な暗殺一家ゾルディック家何度か情報を売ったことはあるがほんと、できる限り関わりたくない人種だ。

ゆあの周りの人間関係は暗殺者に盗賊に戦闘狂に…頭が痛い。私だったら耐えられない。

「ほんと、ゆあは変わってる…」

ソファーに深く腰掛けながら呟いた。



イルミさんが休憩所から戻ってきたので店内の掃除を放って近寄る。

「イルミさん…」
「別に何もしてないよ」
「…殺気、こっちまで伝わってきました」
「ちょっとね」
「………」
「仕事の話しだよ」
「……ううう」
「ゆあには、関係ない」
「……そうですよね」

それを言われてしまえばわたしはもう何も言えないわけで。何の話しなのか、とかなんで殺気立ってたのか、とか気になるのにわたしは聞けない。

むーっと少しだけ膨れていたらイルミさんが頭を撫でる。そんなんでわたしはごまかされ…ない誤魔化されないですよ…!

「うー…」
「(…なんか大人しくなった)」
「…あ、イルミさん家来るんですか?」
「うん。ていうか三日ぐらい泊まるから」
「そうですかー……ってえ?!泊まるんですか?!」
「うん。こっちで仕事あるから」
「え、えっと…ヒソカさんは、知ってますか?」
「知らないと思うよ」
「え、えええ…」
「もうバイト終わり?」
「そうですね…たぶん」
「じゃあ早く」
「え、えっと…わかりました」

イルミさん泊まりって…どうしよう。いや、別にいいんだけどね?でもホテルとは違って一つ屋根の下でしょ?しかもそこにイルミさんとヒソカさんう、うわーどうしよう…大変なことになりそう…

絶対めんどくさいことになる…と考えながら休憩所に入る。モアさんがソファーで寝ていた。

「モアさん…まだ寝るんですか?」
「違うわよ…疲れたの」
「…お疲れ様です」
「ああ、もう上がりだっけ?」
「はい。明日は…来れないかもしれません」
「はいはい」
「…モアさん、あの…」
「ん?別になにもなかったわよ」
「…そうですか」

疲れてはいるようだがモアさんはいつものままで少しだけ安心する。イルミさんを待たせているからなるべく早く、と急いで着替える。

「お先に失礼します!」
「んーおつかれ」

寝っ転がったままモアさんは手をふる。
ぺこ、とお辞儀をしてから休憩所を出る。

「お待たせしましたー」
「うん」
「イルミさん何か食べたいものありますか?」
「なんで?」
「晩ごはん食べますよね?なんでも作りますよー」
「…なんでもいいよ」
「なら適当に作ります」
「うん」

ちょっとだけ考えるようにしてからイルミさんはいつもの無表情で言う。なんでもいい…っていうのが一番困るんだけどなーどうしよう。イルミさん好き嫌いとか、ないよね?まあ、毒も平気なんだからなんでも大丈夫だよね…うん。

「こういうの、なんかいいね」
「なにがですか?」
「…なんでもない」
「えーまたそれですか?」

さっきからイルミさんはなにを言いたいのかよくわからない。誤魔化されてばっかりだ。

無表情だし、何考えているかわからないしまた頭撫でてくるし、とりあえず撫でておけばいいと思ってるんじゃ…まあね、いやじゃないんですけど!

「ううう…」
「(…扱いやすい)」
「イルミさん、ずるい…」
「ずるいのはゆあも一緒」
「えー?」
「(いろんな奴に目つけられて…大変)」

小さくついたイルミのため息は
ゆあには届かなかった。



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