くろあか | ナノ

 三十七話 シスター



「ただいまです。あ、イルミさんどうぞ」
「うん」
「綺麗には、してるつもりですけど…」
「別にいいよ」
「すぐにごはん作りますねー」

道中イルミさんはあまり喋らなかったのでわたしがほとんど一方的に話す形でのんびりとしながら帰ってきた。イルミさんと会うのは1年ぶりなのだ。その間にあったこととか、ヒソカさんの愚痴とかたくさん話した。

キッチンに入ってエプロンを付ける。料理するときは髪が邪魔になるのでポニーテールにしてしまう。あんまり待たせるのもあれだし、ぱぱっと作れるパスタにしようかなー。

「ゆあ」
「わあっ!」
「…相変わらず警戒心なさすぎ」
「うぇ、ごめんなひゃい」
「俺、一応男なんだけど」
「いひゃい、いひゃいれふ!」

いつの間にかキッチンにイルミさんがいてびっくりした。頬をぐいぐいつままれる。痛い。イルミさんは無表情だけどちょっと怒ってる気がするのは気のせい?

「…あの」
「いつもゆあが作ってるの?」
「そうですよ」
「ふうん」
「料理の腕は自信あります」

何しろ毎日のように作ってるのだ。前より料理の腕前は上がったし、作れる料理のレパートリーも増えた。

「ヒソカさんは」
「あ、ヒソカは仕事」
「え?でも今日早く帰るって…」
「俺が仕事頼んだ」
「そうなんですか?」
「そう」

じゃあ二人前でいいかなー。パスタを茹でる準備をしながらソースを作る。イルミさんずっと見てるけど、なんだろう…お腹すいたのかな…。とにかく早く作ってしまおうとてきぱきと手を動かして作る。

「いただきます」
「はいどうぞ」
「………」
「お口に合いますか?」
「美味しいよ」
「ほんとですか!よかった…」
「…ゆあいい嫁になるね」
「えーでもわたしなんか、もらってくれる人なんて…」
「(…鈍感)」

ヒソカさんにも言われたことだけどやっぱりそれは夢で終わると思うんだ。パスタをフォークでくるくると巻きながらなんとなく考えてみる。

とりあえずいまの夢はハンターだ。お母さんと同じ、プロハンター。でも、それに合格したら?何をするの?

特になにもない。ヒソカさんに恩を返していきながらお母さんのことを調べる…とか?なんか具体的じゃないなあ。

「暗殺者になれば?」
「え!」
「ゆあならそれなりにやっていけると思うよ」
「…そうでしょうか」
「俺の方から仕事回してあげようか」
「んー…考えておきます」

イルミさんに聞いたら暗殺者を勧められました。超有名な暗殺者のイルミさんにそう言ってもらえたってことは喜んでいいのかな…?

こういう感覚が麻痺してきてるなーと自分でも思いながらでも、暗殺者も一応候補に入れておこ。と頭の中にチェックしておく。

食べ終わったお皿を片付ける。一通り片付けが済んだらイルミさんがソファに座ってたのでコーヒーを淹れて持っていく。

「ゆあ」
「はい?」
「念能力の方はどう?」
「『ささやく妖精』の他に『魔女の写鏡-トリックミラージュ-』と『乙女のリボン』っていうのがあります。」
「へえ?」
「『魔女の写鏡-トリックミラージュ-』はイルミさんのと似たような変装というか、動物とか人の姿をコピーする能力ですね。」
「ふーん」
「ただ完璧ではなくて、左右が逆になってしまいます…まだ修行が足りないですね」
「ゆあ変化系苦手だったからね」
「…はい」
「もう一つのは?」
「『乙女のリボン』は、これです。」

―しゅるん、

さっき料理をするときに髪を結んでいたリボンを外す。見た目はただの布だ。だけどこれはわたしの念で具現化したリボンで自由自在に形や色、質感を変えることができる。

「ヒソカさんの『薄っぺらな嘘-ドッキリテクスチャ-』を真似してるんですけど…」
「具現化系なんだ」
「はい。ヒソカさんのは変化系ですけど、わたしのは具現化系ですね」
「どんな能力なの?」
「んーまだ特にこれと言った能力は決めてないんですよね…とりあえず常に具現化してはいるんですけど…」
「常に?」
「これ、透明にもできます」
「…へえ」

実は今日もずっと具現化していたのだがイルミさんは気づいていなかったのか少しだけ関心したように呟いた。この能力はまだ未完成だから髪を結ぶときのリボンぐらいにしか使えていないのが悩みでもある。

「まあ、十分かな」
「?」
「美術館でゆあの仕事、実は見てたんだけど」
「えっ!」
「そういうところはまだまだなんだけど」
「…はい」
「まあ、でも今度の仕事には連れて行けそうかな」
「今度の仕事?」
「そう。ヒソカから聞いてない?」
「明後日仕事、というのは聞いてます」
「その仕事の相手、幻影旅団なんだよね」
「…え」

幻影旅団。名前だけは知っている。盗賊だ。しかも最近かなり派手に暴れていて近々ブラックリストに乗るだろうね◆なんてヒソカさんが話していた。戦ってみたいなぁ…なんてにやにやと話すヒソカさん、すっごく気持ち悪かったな…

「まあ、正確にはちがうかもしれないんだけど」
「ちがう?」
「幻影旅団を殺せ、という依頼が二つきてるんだよね。」
「二つ?」
「明後日、離れた二つの美術館で展示会を行うんだけど。その両方に幻影旅団が現れるかもしれない、という情報が入ってね。」
「モアさんに調べてもらったんですか?」
「いやこっちで調べた」
「あれ、そうなんですか?」
「…ゆあ知らないの?あの女すごい金取るんだよ」

それは、知らなかった…。まあでも情報というのはそれだけ価値があって裏の世界では重要なんだろう。

「それにあの女の本当の能力は情報を調べる方じゃないからね」
「…『世界領域-ネットワークマスタ-』じゃないんですか?」
「ちがう。あの女の本当にすごいのは、逃げる能力とでも言うのかな?そっちの方だよ。」
「逃げる?」
「そう。情報屋なんてやってたら命を狙われる。しかも高い金を巻き上げてるんだから尚更。」
「まあ、確かにそうですよね」

わざわざ高いお金なんて払わなくてもモアさんを脅して情報を奪えばいいのだ。

「あの女の話はどうでもいいんだけど。その美術館で幻影旅団を殺るつもりなんだけど」
「どちらが本物かわからない?」
「うん。だから俺と、ヒソカとゆあで別れて殺ろうと思ってさ」
「なるほどー」

幻影旅団かあ…。すごく強いんだろうな。ヒソカさんが目をつけているし、たまにニュースでも名前を見かける。どんな人たちがいるんだろう。

「…ゆあさ、ヒソカと一緒にいるのやめなよ」
「えっ、いきなりなんですか?」
「(無自覚か)…変態が感染るよ」
「そ、それはいやですけど!」

変態が感染るとかまるでそんな病気みたいに言うなんてイルミさんひどい。まあ、わたしも常々ヒソカさんのことは気持ちの悪い変態。と貶しているけど。

それでもヒソカさんから離れよう。とは思わない。わたしは好きでここにいて好きでヒソカさんのそばにいる。だから、今回の仕事だってヒソカさんの役に立つためにやる。

「お仕事、がんばります」
「……うん」
「あした、修行みてもらってもいいですか?」
「いいよ」
「やった!ありがとうございます!」



ゆあがなんとなくそわそわしだす。まるで遠足前の子供のように。そんな姿をみながらイルミは小さくため息をついた。

「(思いっきりヒソカの影響受けてる…)」

幻影旅団。と名前を聞いた瞬間にゆあが浮かべた表情は「喜び」だった。それはヒソカと同じ、強者と戦える。ということへの「喜び」の表情だった。

自分の力を試せる。戦える。そう言った意思がこもったようにぎらり、と一瞬ゆあの目が輝いたのだ。獲物を見つけた獣のような鋭い瞳。

「(調教しなおさないとかな…)」

なんて、ふと考えていてまるで自分の弟にするみたいに過保護にしようとしている自分に気づいてあれ、と思いながらもゆあの髪を撫でる。

「…イルミさんって兄弟に甘そうですよね」
「なんで?」

大人しく撫でられていたゆあが
こちらを伺うようにちらり、とみる。

「いつもわたしの頭撫でるから」
「……そんなことない」
「えー弟さんにもこんな風なんじゃないですか?」
「(むしろ逆)」

弟はきつく厳しく躾をしている。甘やかすなんて、とんでもない。そう、こういうことをするのはゆあだけ、なのだ。

「(なんでゆあだけなんだろう…)」

うーん。と考えながらもゆあが楽しそうにいろいろとバイトの話しなんかを話すのでそれに適当に答える。

「イルミさんみたいな兄が欲しいです…」
「は」
「あっ!いや、あのっ…なんでもないです!お、おおおお風呂沸かしてきますっ!」
「あ、」

逃げるように走り去るゆあ。ほとんど聞き流していたのに「兄」というゆあの言葉だけは鮮明に頭の中に焼きついている。

「(…妹、か)」

ゆあに抱くこの感情はそういう類のものなのかもしれない。ふむ。と自分を納得させるように頷く。

―ピピピピ、ピピピピ ブチッ

携帯がうるさく鳴り出したので
電源を落としてしまう。

「(気づくの早いな…ヒソカの奴)」
「イルミさんー!お風呂先にどうぞ!」

いまは「妹」それでいいか。
と思いながら立ち上がる。

「服、ヒソカさんのでもいいですか…?」
「…やだ」



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