06
「………コンニチハー」
「おや、今日は。フフフ」
挨拶をすれば、挨拶をしかえす銀髪の小人さん。登場の仕方はアレだけど、案外友好的ね。
『光秀君、いつまでそこにいるんだい!』
『いででっ!おい動くなよ半兵衛!!』
ちょっと固まっていると、水筒から聞こえてきた声。双方銀髪の小人さんの声ではない。
まだいるのか、そうなのか。
『もう!早くしてくれって言ってるだろう!!ていっ』
「ああっ、いい!!」
銀髪の小人さんは、水筒からずるんと落ちてカウンターに着陸。
言っちゃなんだけどスライムみたいで気持ち悪かった。
そして、「いいっ!!」て言ったな、今。ドMですか、成程。
「全くもう!僕を待たせるだなんて!くらえっ」
ギュムッ
「ああっ、いいっ!!もっと踏んでください!!」
「ていっていっ」
「ああ〜!!」
「……うちでSMプレイするのはやめてください」
銀髪の小人さんに続いて水筒から表れた、これまた銀髪の小人さん。(区別のため最初の方を長髪、後から出た方をゆるふわとする)
ゆるふわの小人さんは、水筒から飛び降り長髪の小人さんを両足でふんずけた。
そして、また恍惚を浮かべる長髪の小人さんと、もっと踏んでください!!というご希望通り長髪の小人さんをふんずけまくるゆるふわの小人さん。
はたからみたらただのSMプレイです。
「む、誰だい君は。えすえむって何なんだい?」
私の呟きに反応してこちらに話しかけるゆるふわ小人さん。どうでもいいけどなんでこんなに偉そうなんだ。
少し落ち着いてから、水筒から出てきた小人さん二人と、中にいたもう一人に名前を聞いた。
長髪の小人さんの名前は"明智光秀"、ゆるふわの小人さんは"竹中半兵衛"、ポニーテイルのもう一人の小人さんは"前田慶次"、更にその慶次の連れていた虫ピンの頭程度の大きさの生物は子猿で、名前を"夢吉"というそうだ。
「そういえば、何で水筒の中にいたんですか?」
「それがですね、井戸に落ちたと思ったのですが、気付いたらこの筒の中でして」
「わぁ不思議」
「しかもいざ出てみたら君のような巨人が現れる始末だ」
「…うーん、私が巨人っていうか、あなた方が小さくなったというのが正しいと思います」
「えっ、そりゃどういうことだい?紫音ちゃん何か知ってるのか?」
「そういう感じの人が今いるんですよ、アハ」
ヘラッと笑えば、半兵衛に飛び付かれて挙げ句鼻を思いっきり引っ張られた。理不尽だ。
「そういう感じの人ってなんだい!他にもいるというのか!?」
「ちょ!抜ける抜ける抜ける!!いますよ伊達政宗、真田幸村、徳川家康、石田三成っていうのが!三成さんは風邪引いてますけどねいたたたいたいいたい!!」
ぎりぎりと引っ張ってくる半兵衛を慶次が引き剥がしてくれ、なんとかハゲにならずにすんだ。
光秀はいつの間にか肩の上に移動していた。見てるくらいだったら助けて欲しかったよちくしょう。
「では紫音君とやら、すぐに僕をその四人の所へ連れていってくれたまえ。ほら早く!急いで!」
「何様だよせっかち仮面……嘘ですごめんなさいたいいたい」
「やめろって半兵衛!!…えっと、ごめんね紫音ちゃん」
「きー…」
「あはは…大丈夫ですよ。では行きますか…」
両肩に光秀と慶次と夢吉、頭の上に髪を引っ張ってくる暴君仮面を乗せ、リビングに向かった。
「報告します、隊長。小人さんが増えました」
「誰が隊長なんだ…ってええええ!?光秀に慶次!それに」
「はっ…半兵衛様ァァアがはぐふげへごほっ」
「落ち着け」
突然増えたお仲間に、リビングで待機していた小人たちは大いにびっくりしたもようだ。
とくに三成は、叫んだせいでおもいっきり咳き込み、政宗と幸村に背中を叩かれていた。
一方新入り小人さんたちはというと、慶次と光秀はのんきに笑っていたが、頭上の暴君仮面はピョンッと飛び下り三成の元へ駆けていく。
「三成君!…風邪をひいたのかい」
「げほっごほっげほっ…もうしわけ、ございません」
「全く…普段から食事を抜くから免疫が弱いんだよ…今度からは、これに懲りてちゃんと栄養分のある食事をとること。いいね?」
「……はい」
口調は厳しくても、声は優しい。なんだ、そんな風にも出来るんじゃん。ただの暴君じゃなかったのか。
…というか、この二人、どういう関係?三成が敬語だった辺り、主従関係で三成の方が下なのかな。
「…君が三成君を看病してくれたのかい、紫音君」
「…あっ、はい…」
「なら、先程の無礼を謝ろう。…そして、三成君を救ってくれたこと…感謝するよ」
「…フフ」
さっきとは打って変わった態度の違いに、思わず笑みが溢れる。
また髪引っ張って怒られるかもな、と思ったけど、半兵衛は何も返さなかった。言葉でも、行動でも。
ただただ、顔を紅くして私を見上げるばかりだった。…三成の風邪がうつったのかな。こんな短時間で?
「っはは!!なんだよ半兵衛、んな惚けた顔して!あ、もしかして…紫音にほ」
「そんなわけないっ!!変な妄想をするんじゃない!」
「へー、図星か!こりゃおもしろいことになったもんだな!!」
「違うといっているだろう!」
何故か憤慨する半兵衛とその彼を面白がってからかう慶次。
みんな意味がわからなくて、ただ頭上にクエスチョンマークを浮かべるばかりだった。
……そんな中でただ一人、政宗だけはしかめっ面をしていたことに、誰一人として気付きはしなかった。彼がポツリと呟いた、その言葉にも。
「…面白くねぇ」
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