奇妙な不安





子供たちに感化されておろおろしていた
ら、久利夢君が珍しくフォローをいれてくれた。



「……取り合えずー、名前を教えたまえ少年。あっ、因みに俺は甘木久利夢」


「…弁丸、ともうす」


「…弁丸?…そこの青い少年、お名前ドーゾ」


「…おまえに名のる名はねぇ」



青い子はプイッとそっぽをむいてしまった。ひねくれてるなぁこの歳で。



「…ま、自分のお名前も答えられないお馬鹿さんってんならしょうがないデショ。じゃあ黄色のしょ」


「おれはばかじゃねぇ!梵天丸だ!……あっ」


「はいごくろーさん」


「……ちくしょうっ…!!」



ちっちゃい頃の私で子供の扱いに慣れた久利夢君にとっては、意地っ張りな子から名前を聞き出すくらい造作もない。策略が成功したからといって得意にもならずいつも通りの真顔。こわいこわい。


対する梵天丸君は悔しそうに唇を噛み締めていた。



「にしても弁丸に梵天丸か…ラスト、黄色の少年名前をドーゾ」


「あ…っと、俺は宗兵衛ってんだ…」


「ふーん…弁丸、梵天丸、宗兵衛、か…」


「………どうしたの久利夢君、この子達の名前に聞き覚えがあるの?」


「うん、日本史オタクな俺には聞き覚えがある」



……日本史?それが今何の関係があるんだろう…。宗兵衛君はどこか緊迫した表情をしている。



「……まさかとは思うけど、君らの氏って真田、伊達、前田?」


「それがし、さなだでござる!さなだまさゆきがじなんぼうにござる!」


「…俺んちは前田だよ。叔父は前田利家」


「…つーことは梵天丸は伊達か。父親は伊達輝宗だろ」


「!!……」



梵天丸君は少し目を見開かせた。当たりみたいだ。……なら、なんで久利夢君にはこの子らの名字がわかったの…?


やがてぶつぶつと何か呟くと、彼には珍しく長いため息をはいて私に向き直った。



「………もか、これから言うことは冗談じゃないよ」


「え、何どうしたの」


「…言ってよおにーさん。俺、何となくだけどわかってるし」


「あれ、わかんないの私だけ?」


「それがしもわからないでござる」


「………」


「……ここじゃ誰が聞いてるかわかんないし…俺んちは今親戚の婆さん来てるからもかん家いっていいか?」


「…あ、うん…」



聞かれてまずい話なの?この子らは何を抱えてるの?
普段ボケキャラな久利夢君の真剣さが、何かの不安を感じさせた。





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