久利夢君の推測



「まず確認。もか、『独眼竜』は知ってる?」


「ああ、『伊達政宗』でしょ?流石にそれくらいは…」


「なら話は早い。これから話す事は結構重要な事だから、ちゃんと聞いてなよ。


…まず、さっき言った『独眼竜・伊達政宗』。それは今もかの隣にいる奴だよ」



暫し、空間の温度が下がったような感覚に見舞われる。


隣、それは梵天丸君か、松寿丸君か。だけど来る前の会話からすると、『伊達』輝宗という人を父親に持つ梵天丸君と考えた方が自然だ。


その梵天丸君は、私と同じように伊達と聞いてそれが自分を指していると気付いたけど、覚えの無い名前だからか訝しげな顔をしている。



「…久利夢君、どういう意味?この子の名前は梵天丸じゃん。政宗じゃない」


「あー、ゴメン。正確には『後々伊達政宗となる奴』だった。梵天丸ってのは伊達政宗の幼名だし、そいつも政宗みたいに右目隠してるだろ?」



途端、右目をバッと隠す梵天丸君。ああ確かに伊達政宗も右目に眼帯してたような気がする。


私は日本史オタクじゃないから理由は知らないけど、軽い理由じゃないんだろうな。



「梵天丸だけじゃない。弁丸は『真田幸村』、宗兵衛は『前田慶次』、弥三郎は『長曽我部元親』、松寿丸は『毛利元就』。こいつらの名前は皆戦国武将の幼名だ。…偶然にしてはおかしいと思わないか?」



久利夢君があげた名前は、私でも知ってるような有名な戦国武将も含まれていた。


全員着物を着てて、全員戦国武将の幼名と同じ名前で。成程、確かに偶然にしては出来すぎている。



「しかも、だ。…弁丸、これが何だかわかるか?」



久利夢君が取り出したのは、よくあるデザインの黄色いガラケー。…いや、まてまて久利夢君。いくら子供とはいえ、現代っ子ならケータイくらい知って…



「なんでござるか?それは」



…え?



「わかんないか。じゃ、弥三郎」


「ふぇっ!?…あ、それ、からくり…なの?でも見たこと無い…」


「…聞かれる前に言わせてもらうが、われも知らぬぞ」


「お、おれもわかんねぇ…」


「…分かんないや。見たことないし。…まあ、当然なんだろうけどね」



宗兵衛君の言葉も少し引っ掛かるけど…それよりも、何で揃いも揃ってケータイを知らないの?


特に宗兵衛君なんか、中学生なら回りに一人二人くらいはケータイ持ってる子いてもおかしくないのに。



「これはケータイっつってな。ちょっと待ってろ…」


ピ、ピ、


久利夢君がボタンを押して数秒後、私のケータイが鳴り出す。その音にビクつく子供たちを後目にケータイを取り出して耳を当てた。



『こんな感じで、離れた奴と会話をするのが主な使い方だ』


「いや、私に説明してどうするのよ久利夢君…」


『わ…お姉さんの声がこっちからも聞こえる…っ』


「ん?」



いきなり聞こえた弥三郎君の声。取り合えず弁丸君に渡してから向こうのソファを見ると、弥三郎君が楽しそうにケータイをいじっていた。いつの間に…



「戦国武将と同じ名前で、梵天丸なんか政宗と同じように右目を隠してて、現代っ子なら誰でも知ってるようなケータイを知らない。…わかった?もか」


「…うーん、親が凄まじい戦国マニアで、家に現代の物がない…とか?」


「…………まぁ、無理だよな。現実味全然無いし、普通じゃあり得ないからね、こんな事」



はあ、とため息をついて続けられた久利夢君の言葉は、とんでもない物だった。



「俺の予想が正しいなら…こいつらは幼少時の戦国武将本人で、タイムトリップしてきたことになる」




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