電車を乗り継いでやってきたのはHL。
三年前までは紐育だったところだ。

「一年経っても何も変わってないなぁ」

クラウスの指示により一年間外の生活を送っていたがその任期も終わり、こうしてHLに戻ってきたのだ
異界と交わる瞬間には立ち会っていた
それに比べれば大分マシになった。

「……Да(ダー)、ムツキ。…ああ、いまHLに着きました」

上司から電話が来て懐かしのHLの町並みを歩きながら連絡に応える
訛りはなくなってきたが、まだ少し出てしまう

「よう姉ちゃん、こんな時間帯で一人で出歩くってーのは襲ってくれって言ってるもんだぜ?」
「え?…ああ、いえ、なんでもないですよ。」

普通に歩いているだけで野蛮な奴らに声をかけられる。
というのも、今は夜更けだ。
異形の形を成している奴らにとっては一人で歩いている女性は格好の餌食なんだろう

「おいおい、俺らを無視するたぁいい度胸してるんじゃねえか?」
「あー、すみません。ちょっと煩いんで黙っててくれますか?」
「あぁ!?」

携帯から顔を離して野蛮な奴らに話しかければ簡単に逆上し隠し持っていた武器を取り出した
携帯越しから上司の声がかすかに聞こえるがこの際無視だ、無視。
あの人はそんなんで機嫌を損ねたりはしないはずだ。

「だいたい、あたしがいつか弱い女性だと言いました?全く舐められたもんですよねぇ」
「何ブツブツ言ってんだァ!?俺らは名高いグローズンだぞ!?」
「いや知らねぇし。どこの田舎もんだよ。」

思わず素が出てしまった。
わらわらと出てきた野蛮な奴らはご機嫌を損ねてしまったようだ

「このアマァ…!!!ぶっ殺してや…!!!」
「いやてめぇらが死ねよ。」

暗い夜闇に乗じて野蛮な奴らがぶつ切りに崩れ落ちた

「大体さぁ醜い身体さらけ出して粗チンぶら下げて気持ち悪ったらありゃしない」
「ぐ、グローズン!?」
「な、何しやがったコイツ…!!!」
「突然バラバラにしやがった…!?」

動揺を隠せきれない手下達は顔を真っ青にさせて一目散に逃げていく
夜中にも関わらずHLには人だかりも多いが、誰も見向きもしない。
こんなことが日常茶飯事に起きていれば誰も気にしない。

「はいはい。邪魔したあんたらも同罪だからねー、折角上司に業務連絡してたっていうのに」

彼らは姿を変え、その本性を現した
異界の異物だとわかれば話は別だ。

「あー、めんどくさい」

街灯に照らされた夜道から真っ黒い手が地面から生え、鋭い刃物となり野蛮な奴らを切り刻んだ
ビチャビチャと液体が顔や地面に返り血を浴びた

《ムツキ?大丈夫か、なんていらん心配だったか?》
「こんなか弱い女性を迎にも来ないなんてひどい上司だし、だから襲われたりするんですよー」

夜中でもやっている服屋に入って適当に見繕ってもらい汚れた服はそのまま廃棄だ
結構気に入っていた服だが、久々の帰省なんだからしっかりとした身なりで皆に会いたい

《か弱いって…さっき言ってた言葉と違うじゃないか》
「げ、聞こえてたんですか。地獄耳ですねぇ」

車のエンジン音が聞こえ、そちらを向けばライトで視界を遮られた

「通話を切らなかったムツキが悪い。」

路肩に止めた車から上司であるスティーブンが携帯を片手に降りてきた
思わず笑みが浮かび上がり通話を切り、スティーブンに抱きついた

「ふふ。仕事終わった?」
「終わってない。」
「徹夜明けの顔してるもんねぇー」
「クラウスが迎にいけって言うもんでね、途中にしてきたよ」

車の助手席に座り煙草を吸えばすぐに取られてしまった

「うちは禁煙だよ。」
「あらー、そうだっけ?」
「全く、上司なのにその口調ってどうなの?電話越しじゃ敬語だったのにさ」
「業務連絡には敬語で何が悪いのー?それにあたしとスティーブンの仲じゃん。」
「腐れ縁な。」
「そうともいう。」

牙狩りのころから一緒に活動し、彼の私営団体にも所属している。
クラウス達には外の民間企業で働いているとは言っている。
それを辞めるために一年間向こうでしっかり働いて退職してきた体で戻ってきた

「みんなは変わりない?」
「まあね。ただ、新人が入ったんだよ。神々の義眼を持っている少年がね。」
「そりゃ大層なものを持ってるね。味方のうちは安全だろうけど、敵になれば厄介極まりないよ。」

まあスティーブンの口調からするとそんな危険人物って感じではないみたいだし、大丈夫か

「さて、一年ぶりの恋人と再会だし、一杯どう?」
「仕事終わらせてからにしてください。」
「…手厳しいなあ。癒してもらったっていいじゃない」
「はいはい、仕事が終わったらね。」

車を駐車させていつものエレベーターに乗り込めば、後ろからずっしりくる重み

「スティーブン。」
「ちょっとだけ充電させて」

首筋から彼の息を感じるが数秒で目的地へとたどり着く
エレベーターを降りるときにはもういつもの表情で、エスコートされながらもライブラの中へと足を踏み込んだ

「お帰り、ムツキ。」
「ただいま。」


♂♀

血界戦線
ムツキ・ニコラス
29歳

「血影道」

影を操る
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