わざとです
ライトニングにラグナを連れてこいと言われて、ふらふら好き勝手にさまよう彼奴の背を追っていた。ら、迷子になった。俺じゃなくてラグナが。
…いや、俺も迷子になってしまった。
あちらこちらに行く背を追うことばかりに気を取られていたんだ。道なんて見ていなかった。
「あらまー」
「なんっっで迷うんだよ!こんな道で!!」
「んー、そんな怒んなって」
火山帯の中で呑気な背中に向かって思い切り叫ぶ。おかしい、さっきまで雪原にいたはずなのに、何で正反対のクソ暑い火山帯にいるんだ。どこをどう迷えばそうなるんだ。
汗を拭いながらラグナを睨む。ラグナは俺の方を振り向くと肩をすくめて笑っていた。
「くそ、暑い…」
「暑いねー」
「どうやったらあの団体の中からここまではぐれるんだよ…」
拭った汗のつく手を振り払う。にこにこと笑って近づいてくるラグナも少し暑そうだ。
ジャケットを脱ぎながら、あそこの影行こうぜ、なんて呑気に声をかけてくるから腹が立つ。でも暑さには敵わなかったから、俺もコートを脱ぎながら大人しくついていった。
あー…涼しい。ゴツゴツした岩しかない山だが、その岩場の影はまあまあ涼しかった。思わず岩に背を預けて座りこんだ俺の隣に、ラグナも腰を下ろす。そして、じっと俺の顔を見て「それにしてもさ」と口を開いた。
「○くんってさあ、鈍いよね」
「何の話だ?」
唐突に言われた言葉に首を傾げる。ちょっと馬鹿にしたニュアンスだと思って、イラッときた。思わずラグナを凝視すると、当の本人はへらりと笑う。
方向音痴に付き合わされた挙句、こんなクソ暑い最悪な場所で、なんでこんなことを言われなきゃならないのか意味がわからない。
と、そんな俺の心を表情から悟ったのか、ラグナは説明を始める。何故俺が鈍いのかを、丁寧にイチからきっちりと、わかりやすく言い聞かせるような声色だった。
ねぇ○くん。と。
「流石に全員近くにいて同じエリアで休んでたっていうのにさ、こんな道で迷わねえよな」
お決まりのポーズで顎に手を当てて。
「ヴァンたちだって目の前にいたってのに」
ぐっと顔を近づけてきながらそう言うラグナ。
「特に興味を惹かれるようなものもない場所でさ」
いや、きょろきょろしてただろ!と口を挟みたくなったが、じりじりと縮まる距離に黙り込む。
「オレが急にふらっとどっか歩いたからってそんな簡単についてきて」
そして訝しげな顔をする俺を見つめるその顔は
「わざと迷うつもりだったならどーすんの?」
もう笑ってはいなかった。
「二人っきりになりたかったからって、あえてここまで、仲間が探すのに時間かかりそうな場所まで来たって言ったらさ」
至って真面目な表情でそう言ってのけたものだから、俺は思わず固まる。
わざと…?わざと?わざと迷った??いやいや
「は?!なんでだよ!」
「うーん!やっぱ鈍いね○くん!」
いやだから何が!?全然説明になってねーよ!!
なんてキレたのも一瞬。
「じゃ、いただきまーす」
さっきの言葉の数々は十分すぎるほどの説明になっていたことがよくわかった。
気がついたら背後の岩に押し付けられて思い切りキスされている、この状況。唇に噛みつかれて、驚きのあまり息が詰まる。
「あんまりホイホイついてきちゃダメだぜ?」
ああ、食われる。
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