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今日、甲板はかなりの大騒ぎであった。
なにせエースが漸くその心を開き、“白ひげ海賊団”の一員になるというのだから。

まだ昼間だと言うのに、新たな仲間を迎え入れるべく、モビー・ディックの船からは騒ぎ回る声が聞こえていた。

今までエースの奇襲を心配半分、面白半分で見守っていた輩が、先ほどからしきりにエースを囲んで杯を呷っている。それに答えるようにエースも盛られた御馳走を胃に詰め込んで行った。

「まったく、世話の焼ける奴やい」
「フフフ。でもマルコさんも嬉しそうですね」
「ああ。まあ…… オヤジが認めた奴だからな」

多少歯切れが悪くなるのは、照れを隠しているのか。逸らされた表情は先ほどから変わらず、微笑んでいる。

そんなマルコと宴会の様子を見守っていれば、同じように宴会の場を眺めている白ひげと目が合った。

甲板の定位置となっている椅子にどっかりと腰掛け、相変わらず酒を片手に息子達を優しげな視線で見守る白ひげ。
その温かな視線で射抜かれると、それに甘えたいという気持ちが顔を出してくる。けれど、未だ心に区切りはつかないまま。

けれど、それすらも彼にはお見通しなのだろう。ニーナが後ろめたさに少し眉を下げれば、グララと温かな笑いが響いた。




暫くの間はそうやって宴会を見守っていたニーナだが、まだ陽がある内に、と離脱を決めた。

気掛りだったエースも落ち着いたし、これ以上の長居は出来ない。何より、そろそろマリンフォードに顔を出した方がいい頃合いだ。

甲板で未だ騒ぐエース達に、若干水を差す様で悪いが、別れを告げる。
途端……

「えっ!?もう行くのかよ」
「ええ。でもまたすぐに顔を出すから」
「………そうか」

眉尻を下げたエースに、ニーナは僅かに苦笑を漏らした。
先ほどから見ていて思ったが、彼は出会った当初の刃物の様に気を張った状態で無い時は、それより幾分か年相応に感情表現が素直だ。
まあ、あの頃も怒りだとか苛立ちを隠す様子もなく荒れていたのだから、素直と言っても良いかもしれないが。

「色々世話になったな。また来いよ!」

けれど表情はコロコロと良く変わる。今も若干寂しそうな顔から、太陽の様な満面の笑みに早変わりしていた。

「ええ…… いいですか?白ひげさん」

首を逸らして椅子に座ったまま甲板を見守る彼等の“父”に訪ねれば、ニヤリと三日月形の髭の下の口端が弧を描く。

「グララララ。海賊は自由だろう」

その言葉だけでニーナは十分、ここから離れる事を惜しむ気持ちを、次回また訪れる時への楽しみに変えることが出来た。

またな、と手を振るエース達に笑顔を向けながら、ニーナは自分の小舟に飛び移った。


***


ニーナが消えて行った方角を眺めながら、船縁に肘を立てて頬杖を付くエース。
だが、数分とせずにバシッ!とその背は叩かれる。

「痛ってェ!!」
「おい!何主役がこんな所でぼんやりしてんだよ。ほら食え!」

既に酒が回っているのか、若干顔を赤くさせたサッチがそう言って大きな骨付き肉をエースの口へ突っ込む。
突然口を塞がれたエースは目を見開くが、途端に口内に肉汁が広がる。香ばしいその塊をゴクリと喉を鳴らして胃に押し込んだ。

その様子にサッチは満足したようで、陽気に笑いながらまた別の人間へとちょっかいをかけに行ってしまった。
それを笑顔で迎える男達も、やはり多少酔いが回っているようだ。

「おいエース!お前も来いよ!」
「そうだぞエース。主役が居なきゃ飲めねェだろう」
「お前はもう飲んでるだろうが」
「違ェねえ!」

大口を開けて笑う新たな仲間達に、エースは口端が上がって行くのを抑えられなかった。
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