83

海軍本部へ到着した軍艦から、ニーナは中将達に周りを囲まれながらタラップを降りた。
そのまま歩くニーナ達の横に、ビシッと列を作って出迎えるべく並んだ海兵達。

『ニーナ嬢!お帰りなさいませ!』

そんな風な敬礼を受けてしまったものだから、ニーナからまたもや苦笑が漏れる。周りの中将達も微妙な顔だ。

けれどそんな海兵達の列も、本部内へ近付けば流石に治まる。今は普段通り、チラホラとすれ違うか、遠巻きな視線を感じるかだけだ。

「体調は思っていた程深刻そうではないな。なら、このまま元帥殿の部屋へ行く」

先頭を歩いていたモモンガがそう指示する。けれどニーナはキョロキョロと視線を彷徨わせるばかりで、反応を示さない。
それを不審に思ったのか、チラリと方々の中将達が視線を寄せれば。

「………やっぱり我慢出来ない!」
「はぁっ!?」
「と、いうことで。センゴクさんの所は後で」
「なっ!?待て!」

はっとした途端にモモンガの腕が伸びてくる。その意思を汲み取ったのか、横を歩いていたストロベリーとモザンビアも手を伸ばすが遅い。
四方からの捕縛の手が届く寸前、頭上に飛び上がったニーナはそのまま少し先でこちらを振り向いたヤマカジの頭に手で着地する。

「貴様、ニーナ!」
「すぐに行きますよ。それじゃあ、どうか追わないで下さい」

そのまま一瞬の内に消えたその姿に、ギリリと歯ぎしりをする音と、ブチリと血管が切れる音。

「と、捕らえろぉぉぉ!!」

使命を帯びた咆哮と共に、正義のコートが翻った。



***


「行き先は解ってる!食堂へ!!」

後ろの方で聞こえた声の通り、ニーナがまっすぐと向かったのは海軍本部内にある食堂だ。そこでは、訓練の課題に手こずったり、仕事が片付かなかったりと、それぞれの理由で昼食が遅くなってしまった海兵が集っていた。

そんな場所に、ガシャン、と廊下から派手な破壊音と同時に、神速で食堂に舞い込んで来た影が一つ。

「バニラとチョコとストロベリーのアイス、トリプル。大急ぎでお願いします!」

朗らかな声が響くのと、食堂内の海兵達が昼食を吹き出すのとは同時だった。
ブハッ、と所々で噎せ返る海兵達にニコリと笑顔を向けながら、ニーナは食堂の配膳カウンターへ勢いのまま飛びかかった。

「お願いします。はやくはやく!」

配膳係の職員が顔を引き攣らせるが、ここでの彼等の仕事は望まれた料理を用意し渡すことだ。『は、はい!』と慌てて注文分を手渡せば、ニッコリと嬉しそうな笑顔が輝く。

ああ、こうやって喜ばれるために仕事をしているのだ。と職員は仕事のやりがいを改めて噛み締めるが、次の瞬間、廊下からまたしても聞こえた破壊音と飛び込んで来た中将達の顔を見て後悔を覚えた。

「こらァ、ニーナ!!」
「ヤバッ!来た来た」

そう言ってカップを受け取ったニーナは一口分を口に放り込むとそのまま飛び上がった。
フワリと浮き上がった身体はそのまま恐ろしい程の速度で食堂内を飛び回る。

「貴様!さっさと元帥殿の部屋へ行かないか!」
「だってずっと我慢してたんですよ。もう無理、限界です。たった一杯じゃないですか!」

食堂の壁を蹴って投げつけられた刀を躱したニーナは、熱り立つ中将の間をすり抜けた。

「後でちゃんと顔だしますから。そういうことでお願いします!」
「何が、お願いします、だ!待てっ、貴様ぁぁ!」

手加減無しで思い切り振り下ろされた剣を飛び越え、ニーナは食堂の窓から外へ躍り出た。
その際、窓へ駆け寄りながら覗いたモモンガ達の顔に、ニコリと手を振るのも忘れない。当然の如く、中将達の怒りは頂点に達するのだが。


***


「くまなく探せ!必ずこの辺りに居る筈だ」
「見つけ次第砲撃しろ。決して逃がすな!」
「食堂方面に人員を周せ!今度きたら容赦せん」
「目撃情報は入ってこんのか!庇い立てする奴がいたら減俸するぞ!」
「あと一時間以内に見つけろ!見つからん場合は全員訓練場100周だ!!」

下の方から聞こえる怒声の数々に、海軍本部要塞の屋根の淵に座っていたニーナはタラリと冷や汗を流す。どうやら相当お怒りのようだ。
別にアイスの一つや二つ、大目に見てくれても良いではないか。

と、若干意固地になりながら、ニーナはパクリとアイスを堪能していたのだが……

「あらら、こんな所にいた」

唐突に後ろから響いた声に、ニーナは思い切り肩を震わせる。

「ゲッ、クザン!」
「あららら、つれない声出すじゃない。こっちは心配で夜も眠れなかったってのに」

僅かに警戒を強めニーナがクザンの動向を伺っていると、ポリポリと頭を掻く当人は自分の隣で腰を下ろした。どうやら、いきなりセンゴクの部屋へ突き出す、ということはしないらしい。
まあ、そもそもあのクザンがそこまでするとは思えないが。

そこでニーナは安心してまた一口アイスを頬張った。

「アハハ。随分騒ぎになってますね。皆さんが罰受ける前に戻らないと」
「まあ、そうした方がいいだろうな。んで、どう?怪我とかはあるのか?」
「そこまで酷くはないですよ。まあ、だからってなんともないって訳でもないんですけどね。体調の状態はちゃんと記録されてましたから、それを見る限りちゃんとお仕置きになってましたよ。政府へ提出する際も問題は無いと思います」
「……そういうこと聞いたんじゃないんだけどな。まあ、いいや」

ポンポンとニーナの頭を撫でるクザンは、相変わらず可愛くない発言ばかりをする少女に短くため息を漏らした。

加減を考慮しながらも、ニーナの仕置きになる程度の罰を与えた、という状態が今回の望ましい形だ。反抗的な態度を見せたニーナだが、まだ根本的な所ではその存在を掌握していると、政府に印象付ける為にも。

だが、クザンが聞きたかったのはそういうことではない。のだが、その横顔を確認する限りそこまで酷い状態ではなさそうだ。

「……まあ、あんまり遅くならない内に戻りなさいね」

軽く手を振ってクザンはその場を後にした。その背後からまた、ニーナを探す怒号を聞きながら。
[しおりを挟む]
[ 83/117 ] |

[back to novel]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -