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ニーナを護送する為に海軍本部から来た迎えの船。その到着と共に、ニーナは釈放となった。

リフトで地上まで上がるニーナの前で、ハンニャバルが不満そうな声を漏らす。

「まったく。お前がもっと問題を起こしてくれれば署長責任に出来たものを」
「フフフ。それは、期待に添えずすみませんでした」

昨日一日、医療練で手当を受けたおかげでニーナの傷は幾分か回復していた。その手厚い治療がマゼランの指示だと聞いた時に礼を述べたのだが、何故だか焦った声で否定された上部屋に閉じこもってしまったとか。

「本当なら署長も見送りに来てもいいんだが、相変わらずトイレに籠っててな。しかも昨日からほとんど姿を表さない」
「それは、ちょっと心配ですね。どうかしたんでしょうか」
「……もしかして何か悪い毒に食あたりでもしたのだろうか。普段から心を閉ざしたいとかバカな事を言ってても、きちんと職務は果たしていたのに。それとも、何か病気にでも…… いや、あの署長に限って」

ブツブツと言いながら落ち込み出したハンニャバル。なんだかんだ言ってても、どうやら彼のマゼランに対する憧れや尊敬は本物なのだ。

ズズッと暗い顔をするハンニャバルをどう励まそうかニーナは悩むが、見送りに来ていたもう一人。ドミノがすっぱりと割って入った。

「ご心配なく。署長はきちんと職務分の書類は整理されています。部屋からお出にならないのは何時ものことですから。それに、署長は地上へは滅多に行かれません。副署長のそれは、まったくの勘違いです」
「そ、そうか?うーん…… そうかもしれないな。よしっ!署長め。まったく。私も早く署長になりたい!」

辛辣なドミノの言葉に、ハンニャバルは復活した。どうやらマゼランの不調はハンニャバルの杞憂のようだ。とニーナも思わず頬が緩む。

そんなやり取りをしている間に地上に到着したようで、目の前で開いた扉から久しぶりの陽光が照りつけた。

目を焼く様な光に漸く慣れたころ一歩進み出れば、迎えの任務を背負った数人の中将。

「あれ?モモンガさん達が来たんですか?」
「………不満か?」
「いえ、そんなことは。ただまたクザンが来るのかな、って思ってたので」

思わずポロリと出た言葉に、モモンガの表情に一瞬不機嫌さが走る。その横を見れば、ヤマカジ、ストロベリー等、本部の中将が五人も並んでいた。

「……もしかして私、バスターコールの標的にされた、とか?」
「そんな訳あるか。護送も万全の対策で、との政府からの要請だ」
「ああ、そうですか。ご迷惑お掛けします」

ペコリとニーナが頭を下げる。そこで振り返り、地獄と外を隔てる扉の向こうで見送るハンニャバル達に手を振った。

「それじゃあハンニャバルさん。ドミノさんも、お世話になりました。マゼランさんとサルデス君にも宜しくお伝え下さい。今度来る時は、またお願いします」

手を振るニーナに、ハンニャバルは手を振り返して応えているが、その他の全員は渋い顔をした。

((また、ここに来る積もりか……?))

ハアッ、と深いため息がその場に響いた。



***



一隻の軍艦を中心に、その四方をグルリと囲むという万全の陣を組んで進む軍艦五隻。自分の護送一つに随分と手間を掛けたものだ、とニーナは甲板で潮風を感じながらしみじみと思った。

来る時と同じ様に、船首近くで軍艦の進む方向を眺めながら立っていれば、背後で聞こえた靴音。

「クスッ、別に見張ってなくても、逃げたりしませんよ」
「……そういう訳ではない」

冗談の積もりで茶化す様に言えば、振り向いた先のモモンガがまた不機嫌そうな顔を作る。
何か用事だろうか、とニーナが首を傾げていれば、その腕や足を覆う包帯にモモンガは視線を移した。

「……怪我は、酷いのか?」
「ああ、これですか。別にそこまでじゃないですよ。昨日治療も受けましたし。結構平気です。ほらっ!」

トンッ、と軽やかに舞い上がったニーナが軍艦を縦横無尽に駆け回る。挙げ句の果てには、マストの上から隣の軍艦へ飛び移った少女に、モモンガは深くため息を漏らした。

「わ、わああ、ニーナ嬢!なにこっちに来てるんですかぁ!?」
「エヘへ。こんにちは」

その姿を眺めながら、思ったよりも元気そうなその姿に、渋い顔の裏で中将達は胸を撫で下ろしていた。
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