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ニーナが二ヶ月ぶりに海軍本部へ戻ったのと同時期、すぐ近くの聖地マリージョアへ七武海が招集されていた。
時折行われる定例の会議の為だ。

敵船拿捕による収穫の納付状況や、最近名を上げてきた海賊の情報。今後の同行予定の報告など、彼等をあくまで管理下に置いて居るというスタンスを保つ役割を持つこの招集。

とはいえ、相手は海賊。時に「政府の狗」などと揶揄されようと、言いなりに出来る相手ではない。今回も殆ど招集になど応じる者は居ないだろう。


ここにも一人、海軍の命令を拒む者が居た。

「イ、イヤ…… です?」
「却下だ」
「どうしてですか!」

悲痛な声で叫ぶニーナは、目の前の軍艦に乗れと言われて必死に拒否していた。
まあ、それはそうだろう。いくら友好関係を示してるとはいえ、政府の中枢。聖地と呼ばれる場所に、必要も無いのに行きたくなどない。

そう。七武海と同じ権限を持つとはいえ、ニーナは基本的に公表されない存在。七武海と政府の囲む円卓に着く意味を持たないのだ。

けれどニーナは今、センゴクに首根っこを掴まれていた。
その理由は、今頃マリージョアへ向かっているだろう軍艦一隻に乗る男にある。

『フッフッフ。お人形ちゃんに会えるんだから楽しみだぜ』

ゾッとする様な声でその言葉。迎えの船に同行していたモモンガの眉間にピシリと筋が入る。

ピンク色のコートを纏った男が使うその呼称に覚えがあり、ニーナは不参加であると告げれば、とても嫌な笑みを向けたその男。

『なら、行き先変更だな。どうせマリンフォードには居るんだろう』

そんな言葉を即刻海軍本部へ報告したモモンガの判断は、吉と出るのか凶と出るのか。

そうしてセンゴクの下した判断。ニーナもマリージョアへ連れて行くという結論は、仕方ないと言えるものだろう。
なにせ、相手はあのドフラミンゴだ。自分達がマリージョアに居る間に、本当に海軍本部へ来られ、しかもニーナと揉め事を起こされてはたまったものではない。

ならば、せめて目の届く場所で。というのが結論だった。

が、そんなこと知りもしないニーナはセンゴクの理不尽に見える命令に、ええっと口をへの字に曲げたのだった。


***


抵抗虚しく連行っされてしまったニーナは仕方ない、と肩を落とす。

そのまま足を進め、聖地マリージョアへ入った。
そうして、待機している様にと与えられた部屋のソファで、膝を抱えて時が過ぎるのを待つ。が、何時までもそうしているのは退屈以外の何ものでもない。

そして、海賊とは退屈を最も嫌う種族である。

ニーナの入室から僅か30分。大きな窓を軽く開けそよぐ風を感じながら、その身をフワリと空へ踊り出させた。


そうして脱出を成功させたニーナは、港の周りに降り立ち軽く辺りを散策しはじめる。七武海の招集の為か、海兵が忙しなく動き回っているのが見れた。

「でも、何で私がここに連れて来られたんだろう」

ポツリと漏らした疑問に、答える者など居ない筈だった。のだが……

「フッフッフ。そりゃ、俺に会う為だろ。お人形チャン」
「ひぅっ!?」

首筋を柔らかく撫で上げられ、背筋に走った悪寒。バッと離れて振り返れば、予想通り、そして期待を裏切り、ピンクのコート。七武海が一角、ドンキホーテ・ドフラミンゴの姿がそこにあった。

「な、何するのよ!」
「おいおい、久し振りの再会じゃねえか。そう怖い顔をするな」
「出会い頭に変な事されれば、誰だって怒るでしょ」
「まだ何もしちゃいねェだろ。変な事っていうのは、こういうコトをいうのさ」

途端に背後を取られ、耳元に寄せられる唇。そこからそっと息を吹き掛けられれば、悲鳴の一つも上げたくなる。

「ギャアアアア!」
「色気のねえ声だなァ」
「こんのぉ、変態!」

首まで赤くしながらニーナが振り向きざまに渾身の回し蹴りを見舞う。が、それはお見通しだったようで、それを防いだ腕の向こうにギラつくサングラスが見えた。

「フッフッフ。相変わらず、ヤンチャするじゃねえか」
「誰の所為よ。誰の!」

ガキン、ガキン、とお互いの攻撃がぶつかり合う度に走る衝撃波。その騒ぎを聞きつけたのか、海兵達がその場へ集まり出す。

「ニーナ!何をしている!」
「ドーベルマンさん!」
「部屋での待機命令があった筈だぞ!」

味方が現れた、と安堵したのは一瞬。その怒りがどうやら自分に向いているという状況に、ニーナは頬を引き攣らせた。

「わ、私が悪いんですか!?」
「フッフッフ。当然だろう。俺を誰だと思ってるんだ、お前は?」

確かに、海軍中将が七武海の、しかも相当な曲者のこの男を責める事などできやしない。しかも、確かに部屋で大人しくしていろとの命令を無視したのは自分だ。
そして、それがバレただけでなく、乱闘騒ぎまで起こしてしまった。そして、見つかった相手は融通の効かないドーベルマン。

相手が悪かった。と自分の不利を悟ったニーナは、サッと踵を返し走り出した。
が……

「待て、ニーナ!!」
「私、悪くないぃぃ……」

これは、センゴクに突き出す積もりだ。見なくても解る。ドーベルマンの、あの怖い顔が迫ってくる様子が。

ニーナは恐怖で後ろを振り返ることも出来ず、ただ我武者羅に足を動かした。

「フフフフフ。追いかけっこを楽しむといいサ。お人形チャン」

全て計算していたのだろう。憎たらしい男に、言い返してやる暇は無かった。
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