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一喝した後、少し離れた場所を走るニーナに狙いを定め、マルコは強く甲板を蹴る。

その一瞬の移動には気配を読みきれなかったのか、すぐ背後に迫った拳を、ニーナは避けきれず食らってしまった。

「アグッ!」
「あまり白ひげの象徴(マーク)を舐めるなよい」

船縁に激突したニーナの前で、ポキリと拳を鳴らすマルコ。それにニーナはニッと笑った。

「これはこれは、1番隊隊長様がお出ましとは」
「怪我したくなかったら、とっとと帰りなお嬢ちゃん。俺は、加減が苦手なんだよい」
「大丈夫ですよ。私は手加減、得意だから」
「………」

ガキッ、と甲板の一部が破壊される。すんでの所で躱した蹴りにニーナがタラリと冷や汗を流せば、再び迫る気配。
けれどニーナとて黙って防御に徹する積もりは無い。迫った拳に己の拳を叩き付ける。が、流石1番隊隊長というべきか、力負けしたのはニーナで、遥か後方に吹っ飛ばされてしまった。

「あ、イッタタタ」
「分かっただろい。舐めてると痛い目みるってな」

船尾の縁に激突したニーナが打った頭を押さえれば、目の前にまたマルコが立ちはだかる。

「確かに、ちょっと考えが甘かったですね」

立ち上がりながらそう呟き、自分の指に収まるそれを見遣る。とはいえ、体術にもそれなりに自信があった為、僅かにショックではあるが。

改良して貰ったそれは、つけていても能力を奪う以外は普段と殆ど変わりはない。しかし、しぶとく這い寄るほんの僅かな脱力感は否めないのも事実。
生活には支障無いだろうが、強敵相手ではその僅かが命取りだ。

「白ひげ海賊団相手に……」

スルリとボルサリーノの指輪を外せば、それまで感じていた身体の僅かな重みが取れる。

「ハンデをつけたまま、というのは」

途端、ドンッと派手な音と共に、マルコの身体を強風が襲った。全くの予想外の出来事に、対応が遅れたマルコは抗えずに吹き飛ばされる。

「なっ!?なんだ?」

隊員達が目を見開く間に、ニーナの手から放物線を描いてある人物の元へと投げられる。

「それ、大切なものなんで。持ってて下さい」

飛んで来たそれを思わず受け止めた二番隊隊長・ジョズは、瞬間襲った僅かな倦怠感に目を見開いた。

「マルコ。気をつけろ!」
「な、なんだよい。あの女……」
「その娘、今の今まで……」

フワリとニーナの身体が浮き上がる。そして気付けば逆巻いている、周りの空気。

「海楼石を着けていやがった!」
「エヘヘ。それじゃあ、遠慮無く」

「ガハッ!?」

ジョズの言葉の意味を推し量る前に、目の前で聞こえた風を切る様な音。瞬間、ドガンッと甲板に叩き付けられたマルコが、苦しげな声を漏らした。

海桜石。それは全ての能力者の共通の弱点である。そんなものを好んで身に付ける能力者など居る筈がなく。着けるものが居るとすれば、対能力者用の護身としてか、物好きな金持ち。とにかく、普通の人間だ。

が、今目の前で身体の半分が空気に溶け、人外の力を発揮し始めた少女は、間違いなく能力者。

「お前、自然系(ロギア)かよい」
「はい。タツタツの実の竜巻人間。どうぞ宜しく」
「ふざけた真似するよい」
「そんな積もりじゃないのに。ただ、私の船長の教育方針に一致するし、一応修行の積もりで付けてただけで…… っと」

生み出した旋風を投げ付ければ、目に見えない筈の風の渦を感じたのか、躱される。その途端、ニーナも両腕に青い炎を纏ったマルコの蹴りを、右腕で受け流した。
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