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「お前等、気ぃ抜くなよい!」

マルコの忠告が隊員達に届いた頃には、もう遅かった。

『幻影舞踏(ファントム・ボール)』

クルリと華麗に一回転して見せたニーナは、その瞬間その場から消える。が、次の一瞬でその姿は少し離れた場所に現れた。しかも、その背後では何人もの隊員が宙に舞ってる状態で。

「まだまだ!」

トンッ、と跳ね上がり、ニーナはマストから垂れるロープを掴む。

「う、撃て!」

宙へ浮かび上がったその姿に、途端に発砲音が響く。が、ロープを使ってマストの間を縦横無尽に飛び回るニーナはとても捕まらない。どころか、楽しそうに笑みすら浮かべられ躱されてしまった。


「僕が行くよ!」
「ハルタ隊長!」

終わらない銃声に、隊員では敵わないと判断したのか。それともただ単に戦いを楽しみたいが為か、甲板を横切る影。
剣を抜き向かって来る相手を確認したニーナの笑みが、僅かに挑発的なものに変わった。



ガキッ、と派手な音と同時に衝撃が辺りを走る。その中心に居たのは、ハルタの一撃を蹴りで受け止めたニーナ。

「これはこれは、12番隊隊長さん。こんなに早く隊長格に出て来てもらえるなんて。ちょっと予想外かな」
「へえ、やるね」

とはいうものの、表情は楽しげだ。一歩下がったハルタが、再び剣を振り上げてニーナに襲い掛かる。
が、それもヒラリヒラリと躱された。

「この、舐めるな!」
「隙あり!」

ハルタが大きく振りかぶったその瞬間、フワリと宙に躍り出たニーナが、そのまま体を飛び越える。

「なっ?」
「でりゃあ!」

背に走る強烈な一撃。重力を感じさせない柔軟な動きは予測していなかったのか。まともに背後を取られ食らった一撃にハルタは吹き飛んだ。

「ウグッ!」

弾かれたまま勢いを殺せず、船縁近くでハルタが宙へ踊り出てしまった。

「あ、しまった!!」

ニーナの、あっという声が響く間にも、その身体は遮るものの無いまま海へと落下していく。

「ハルタ!」

それまで見守っていたマルコが咄嗟に走り出すが、その横を瞬息の間に走り抜ける影。

一瞬の間に甲板から飛び出したのはニーナで、その手には何時の間にか握られたロープ。そのまま瞬時に降下する。

「よし、捉えた!」

宙に飛び出したニーナが、海面ぎりぎりで追い付いた相手を身体ごと巻き取れば、ピンッと張ったそれに助けられ落下を免れたハルタ。

が同時に、身体がロープに拘束され動けなくなる。それには構わず、なんとハルタを足場にしてニーナは甲板に飛び移ってしまった。
船縁に着地すると、そのまま下に向かって微笑むニーナが声を張り上げる。

「いやあ、ゴメンなさい!大丈夫?」
「こ、このォ。降りて来い!勝負しろォ」

宙吊りになったハルタが歯を剥くが、ニーナは素知らぬ風だ。

あくまでこの海賊団に対する害意は無く、ただ純粋に白ひげとの面談を望んでいるらしい。ニーナの行動でそう理解したマルコだが、まだ認める訳にはいかない。
そこでマルコは視線を横へずらす。

「イゾウ」
「あいよ。まあ、何処まで足止めになるかねえ」

指名を受けた男がその得物を構え、地を蹴った。


チャキッと聞こえた音にニーナは咄嗟に振り返る。が、その前に聞こえた派手な銃声にその身体を衝撃が襲った。

ぐっ、と押し殺した声と同時に後方へ飛んだニーナだが、それを追った更に数発の銃声。

「イゾウ隊長!」
「やったか?」

漸く、この得体の知れない少女を捉えたか、と隊員達が見守る中、ダンッ、とニーナが着地しその場で踏ん張る。その途端、プハッと拍子抜けさせる様に明るく息を吐く声。

「びっくりしたぁ」
「……チッ」

銃を構えたままだったイゾウの舌打ちを聞きながら、ニーナは再びニコリと笑って、その手に掴んだものを目の前に持ってきた。

「最初の一発は目眩まし。二発目から弾の素材を変えて速度を微妙にズラしてくるとは。しかも最後の弾は形に細工して弾道が違う。流石、16番隊隊長」

フムフムと手で受け止めた弾丸を観察するニーナは、そのまま驚いた表情のイゾウの前まで移動する。

「どうぞ、お返しします。ケチれなくても、貴重な弾でしょう」
「……ほぉ、分かるかい。まあ、ありがたいが、弾を返してもらったのは始めてだな」

弾丸を手渡したニーナは、また白ひげへ向かって甲板を駆けていく。その姿を追うことはせず、イゾウは手を挙げて背を向けた。

「おい、イゾウ!」
「まあそう言うな。あれは見てる方が面白い」

イゾウはそのまま甲板より一段高い所へ移り、観戦を決め込んでしまった。こうなってはもう動かすことは出来ない。

「どいつもこいつも…… お前等、全員下がれよい!」

ついに見ていられなくなったのか、副船長とも言える1番隊隊長、マルコが声を張り上げた。
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