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クザンと腕試しという名の大乱闘を繰り広げた後、センゴクから物凄い剣幕のお叱りを受けた。

何故、と若干理不尽に思いながらも一応大人しく聞いておく。確かに、少しやり過ぎたかもしれないが。

「クザン!貴様、海軍最高戦力がなんという醜態だ」
「まあまあセンゴクさん。別に本当に負けた訳じゃないし。実際本気のやり合いだったらまた違った結果だったって」

だらけた姿勢でソファに座るクザンに、センゴクが更に青筋を立てる。


「お前もお前だ。本部広場を破損させていいと誰が言った!?」
「あ、アハハ。それは、えっと。ちょっと久しぶりで調子に乗ってしまったというか…… ごめんなさい」

ペコリと頭を下げるが、恐らく反省はしていない。ニーナの攻撃で広場には皹が入り、海軍本部の一角が破壊されてしまった。

報告を聞くなりセンゴクの額に入った青筋。ただでさえ、ニーナの実力に胃痛がするというのに、こうもやんちゃとなると。

「ぶわっははは!そう怒るなセンゴク。若い海兵達にも良い刺激になったようじゃぞ。目の前であんな派手な戦闘を繰り広げられれば、な」

わはは、と笑うガープがセンゴクの残りの怒りを引き受けてくれたのは、言うまでもない。





***




場所は少し変わって海軍本部の一角。廊下の影に隠れて、後ろ暗い取引が行われていた。
ひっそりと設けられた台の上に、商品が並んでいる。上官に見付からぬ様にとコソコソとする海兵達が、新商品を一目見ようと集まったようだ。

正義を掲げる筈の海兵達だが、この後ろ暗い取引を、殆どの将校は黙認している。


「は〜い、買った買った。戦うニーナ嬢シリーズ “青キジ大将との決闘” 特別アングルの写真三枚で二百ベリーだ。怒れるヒナ嬢シリーズも新しいのが入ってるよ。こっちは五枚セットね」

バシッとハリセンで台を叩いた男に、海兵達から一斉に声が掛かった。

「可愛い、ニーナ嬢!俺、買った!」
「おいこれ、この間の稽古の奴が入ってるじゃないか!服が違う」
「ああ、このスカートのめくれ具合がまた……」
「おれたしぎ曹長の練習中の奴、まだ揃えてねえんだ。残ってるか?」

写真に映る本人達が知れば途端に血が舞うだろう光景。しかも最悪なのは、そうして写真を懐に入れる男達の中に、上位将校まで混じっている事だ。

海軍のカメラマン・アタッチ、通称炎のアタっちゃんによる作品達が、次々と海軍コートの中へと消えて行く。



普段はひっそりと行われるこの取引だが。運の悪い日というのもたまにある。
本日も、たまたま通ったのがモモンガとステンレスだった。海兵が何を騒いでいるのかと覗いてみれば。

「貴様等、何をやっている!」
「げっ!?ちゅ、ちゅ、中将殿?」

彼等の手の中の写真に笑顔で映る少女を見た途端、熱り立つモモンガ。同じようにステンレスも若干目を吊り上げている。

「海軍ともあろうものが、こんな隠し撮りなど……」

と、モモンガの肩にポン、と手が乗る。誰かと振り返れば、事の元凶とも言えるカメラマン、アタッチ。

それがスッと、言葉も無くそれぞれモモンガとステンレスに一枚の写真を手渡す。
そこに映るものを見て二人とも息を飲んだ。

「……っ!?」

ステンレスに渡された方には、以前食堂でニーナと出くわした時の光景が映っている。向こうが挨拶をしてきたからそれに返しただけのやり取りだったが、絶妙なアングルと技術で、ちょっと良い雰囲気を匂わせる。
ニーナがにっこりと微笑む少し先にステンレスの顔。


モモンガには、いつかの組み手の時の光景だ。モモンガの上に馬乗りになったニーナが、ぐっと距離を詰めている。それが何処か色を漂わせるものだから。


しかも、流石炎のアタっちゃん。どちらも微妙な角度の調整で、お互いの距離が本来よりもずっと近く見える。

暫くの沈黙の後。ゴクリと生唾を飲んで海兵達が見守る中、その写真がスッとそれぞれ中将のコートに忍んだ。

これで、また黙認する将校が増えた訳である。それにグッと海兵達が親指を立てたのを、二人は知る由も無い。
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