25

「ホント、ごめんねニーナちゃん」
「お仕事ですもん。仕方ないですよ。気にしないで下さい。また今度、楽しみにしてます」
「いやあ、センゴクさんから帰れって怒鳴られなきゃ、このままちょっと気晴らしって思ってたのに」
「フフフ。私はモモンガさんの船で帰るんで。気をつけて帰って下さいね」
「ああ、うん。まあ…… あんまり暴れんなよ」

そういってキコキコとクザンの漕いだ自転車が海の上を滑るように消えて行った。

ふぅっ、と短く息をついて、クザンを見送った島の港でニーナは踵を返す。
駐屯所の海兵達からの被害報告や、打ち取った海賊とその船の引き上げ作業。その他諸々の処理に動いているモモンガ達を、遠巻きに見詰める。

本当なら、久しぶりの島を楽しみたかったのだが、将校の目の届かない場所へは行かないというセンゴクとの約束を破る訳にはいかない。かといって、忙しそうにするモモンガに頼める事でもなく。

「……仕方ない、か」

諦めて軍艦に戻っているか、と足を向ける。その前に、一言モモンガに言っておこうと、未だ忙しなく指示を飛ばす彼を呼び止めた。

「モモンガさん。私、先に船へ戻ってますね」
「ああ、そうか」
「はい。それじゃあ」
「……おい待て」

踵を返したニーナは、モモンガに呼び止められ首を傾げながら振り向く。それに、一瞬躊躇したように唸ったモモンガだが、意を決した様に一つ咳払いを漏らした。

「もうすぐ一通り終わる。その後、街の視察に行くつもりだが…… 来るか?」
「いいんですか?ありがとう、モモンガさん!」

途端にそれまで何処か寂しそうだった様子が飛び上がって喜ぶニーナの姿に、眉間を片手で押さえ呆れた顔をしながらも頬が若干緩んでいるモモンガ。

だものだから、その様子を遠巻きに見ていた海兵が揃いも揃って、吹き出しそうになりながら肩を震わせているのに、気付かなかったのか。




***



うわあ、と瞳を輝かせるニーナ。すぐに駆け出そうとするその襟首を掴まれ、モモンガの怒鳴り声に止められた。

「勝手に動くな!いいか、あくまで視察なんだ…… って、解っとるのか?」
「クス、はい!解ってます。モモンガさん、ありがとう」

モモンガはそう言っているが、部下も連れずたった一人で視察も何も無いと、ニーナにも解っている。気を使わせてしまったか、と多少後ろめたい部分もあるが、折角なのだから、と思い切り楽しむ事にした。



そのままショーウィンドウに張り付いたり、屋台を覗いたりと繰り返すニーナに、モモンガは呆れながらも素直に付いて歩いた。

「わあ、この服可愛い!」
「お客さん。こっちの色もお似合いですよ」

ニーナが手にした赤のワンピースに、同じ形のオレンジ色を勧める店員。その様子に、モモンガはうっ、と思わず手にしそうになった黄色のワンピースから視線を外した。

こちらの色の方が似合うとは思ったが、それを言い出す機会を見出せない。というより、そんな事言う必要無い、と思い直した。

うーん、と唸り始めるモモンガの様子には気付かず、ニーナは店の服を物色し続ける。

そうして暫くするとニーナは満足したのか、何も買わずに店を出た。

「いいのか?」
「はい?」
「気に入ったんだろう」
「うーん、ちょっと見たかっただけなんで。またにします」
「……そうか」

その会話内容に、部下が居たならビシッと一言、彼女が金銭を気にしている為と突っ込めたのだろうが。
あいにくと、以前ボルサリーノに奢らせる結果になったのを心苦しく思っている為、今度こそ失敗するまい、と警戒しているニーナの言葉に、モモンガは疑う事なく店を後にした。
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