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海賊が縄張りとした島の海域に入り、モモンガが海兵達に警戒体制を言い渡した。バタバタと走り回る海兵達を見守りながら、ニーナはどうしようかと悩む。
邪魔をするのもどうかと思うが、討伐に参加しないのなら、完全にお荷物なだけだ。とはいえ、勝手に出しゃばるのもあれである。
が、先程からピリピリしているモモンガだ。自分が討伐すると言えば、それこそ胃に穴が空くかもしれない。
なので、どうしようか。とニーナは頭を悩ませていたのだ。
そんなことを考えていれば、海兵の一人がモモンガに駆け寄る。
「モモンガ中将!例の海賊ですが島からの連絡で、今しがた出航してまったとのことです」
「まだこの海域内には居るはずだ。探せ」
「はっ!」
そんな報告が聞こえてきたものだから、ニーナは思わず座っていたデッキチェアから立ち上がる。
すると途端に隣から上がる声。
「あらら、何考えてるの?」
「んん。ちょっと行ってこようかな、なんて」
「あんまり無茶しなくていいよ。どうせ出番無いし、ダラダラこうやって昼寝でもしてれば」
「今は遠慮したいかな、と。というより、クザンこそ、ちょっとは働くとか」
「俺はいいわ、折角サボれるんだから。終わったら起こしてよ」
腕を頭の後ろで組んで本格的に寝てしまうクザンに苦笑いが漏れる。恐らく、彼のこういう部分はセンゴクやサカズキの怒りが幾ら飛んでも、絶対治らないのだろう。
そうしてニーナがさてどうしようか、と考えていると海兵の一人の声が耳に届く。
「居ました!ここから10時の方角。敵船三隻視認!間違いありません。例の海賊です」
「そうか。なら全員、戦闘体制に…… おい!なんの積もりだ?」
「この距離だと逃げられちゃいそうなんで。私が行ってちょっと先制攻撃を仕掛けようかと」
「おい!仮にも億越えの賞金首だぞ。しかも人数も多い。幾らお前でも……」
「いってきまーす」
モモンガが引き止める声も聞かず、ニーナはその体を甲板の外へ放り出す。途端にフワリと浮き上がったニーナの身体は、まるで羽でも付いているかのように一直線に海賊船へ向かって飛んだ。
***
海軍本部軍艦の出撃を聞いて慌てて出航した海賊達が、いきなり飛びながら向かってきた影に驚く。なんだ、と構える海賊達の真ん中にスタン、と軽やかに降り立ったニーナは周りを見回した。
「こんにちは。投降、もしくは降伏を申し出るなら今の内ですよ、と提案しに来ました」
「なっ!?だ、誰だ貴様!海兵か!?」
「まあ似たようなものというか、全く違うというか…… それよりも、降伏して下さると話しが早いんですけど」
「舐めたこと言ってんじゃねェぞ!たった一人で何が出来る?」
まあそういう反応だろうな、とは予想していただけにニーナは仕方がないか、と次の行動に移る。
必要最低限の降伏勧告はしたので、もういいだろう。
ダンと飛び上がり空中に浮き上がると、ニーナは空を切るように一度足を振り下ろした。途端、その足先から伸びた風が刃の様に大きなガレオン船を二つに両断する。
「なっ!!」
その衝撃で、高い水柱が派手に上がった。
「私の個人的な事情により、ちゃっちゃと済ませますよ」
***
遠く目でも確認出来た水柱と、真っ二つになった敵船。それにクザンは頭をポリポリと掻いた。
「あんまり言いたか無いけどさ。こりゃ、危険視する理由が例の兵器だけには止まらないかもしらねえぞ」
「………はい」
モモンガが多少手こずるか、と考えていた敵艦隊が、10分もせずに沈んでいる。しかも、終わりました、と全員が縛られ大きな板切れの上で一つに纏められた状態で差し出されれば、頭も抱えたくなる。
もしかしたら、自分はこの少女の力を見誤っていたのでは。とモモンガは眉間に皺を寄せた。
そんなことまるで気付いていないニーナは、甲板から声援を飛ばす呑気な海兵達に、明るく手を振って見せるのだった。