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波に揺れる甲板の上、出航間際に突然押し入って来たニーナの存在に、モモンガは若干頭を抱えていた。

マリンフォードが見えなくなった辺りで、海だ海だと騒いでいたニーナが振り返る。

「大丈夫ですよ。逃げたりしませんって」
「今更、お前が逃げるとは思ってない。しかしだな、いきなり乗船して来たかと思えば、討伐に同行など」
「……すみません、ご迷惑でしたか?」
「いっ!?いや、迷惑、とまでは言わんが」

シュンと沈んだ雰囲気になったニーナに、途端にしどろもどろになるモモンガ。心無しか、その頬に僅かに赤みが挿しているのを、突っ込めるほど度胸の座った海兵は他に乗船していない。

……筈だったのだが。


「あらら、ニーナちゃんの上目にメロッと来ちゃった?」
「なっ!?あ、青キジ殿!!」

ヌッと顔を出したクザンに、モモンガは飛び上がる。

「あれ?クザン、どうしてここに」
「いやね、あれだ…… えっと、なんて言ったっけ。そうだ、うん。心配?っていうか、まあ、ちょっと気になったというか。ほら、久しぶりの海でしょ。折角だからさ、俺のチャリ漕いで、仕事帰りにどっか寄りたいところでもと」
「わあ!嬉しい。本当に?」

クザンがうん、と頷いたのをニーナがやったぁと喜ぶ。その光景に、一瞬だけ眉を潜めたのはモモンガだ。
それが青キジの登場で、ニーナの見張りを信用されていないと感じたからなのか、ニーナの関心を自分よりも引きつける存在が現れたからなのか。

「モモンガさんも、ごめんなさい。ちょっと嬉しくって。子供っぽい行動だったと、反省してます」
「……いや。取り敢えず、部屋を用意させる」

クルリと向きを変えてしまったモモンガ。そのニーナの関心をクザンにごっそり奪われた男としては、どことなく情けない様子に、こっそり覗いていた部下からああ、と落胆のため息が漏れた。





***



「それで、今回は何処まで行くんですか?」

ニーナが甲板で働く海兵達を見守るモモンガにそんな事を聞いた。すると当然、ニーナから目を離さない様にしているクザンが、設けたデッキチェアの上でアイマスクをずらす。

「遠征とはいえ、まあ明日には戻れる。賞金が億越えの海賊で、島民から被害に対する通報と、それを抑えようとした支部の救援でな」

「モモンガ中将、青キジ大将」

パタパタと駆け寄った海兵が、敬礼の姿勢を取った。

「実は、向かい風の影響で、渡航が少し遅れるかもしれない、との事です」
「……仕方あるまい。とはいえ、救援要請が出ている。出来るだけ急げ」
「はっ!」

そう言って駈けて行く海兵の背を見送るなり、ニーナがちょいちょいとモモンガの袖を引く。

「モモンガさん」
「どうした?」
「急いだ方が良いんですよね?島民に被害が出ているんなら尚更」
「まあそうだが、天候は支配出来ない」
「………フフ。じゃあ、ちょっと失礼します。あ、これ持ってて下さい」

ニーナが笑うとその指から指輪を外す。それが何なのか解っていないモモンガは、首を傾げたが、差し出されたそれを咄嗟に受け取ってしまった。

すると、ニーナが大きく飛躍し、しかもその身体を不自然な風が押し上げる。

「なっ!?」
「うーん、やっぱり海はいい」

メインマストの裏へ飛び少し離れた位置でその身体が止まる。ニーナは大きく息を吸い込むとそれをそのままマストへ向かって一気に吹きかけた。

本来なら、そんなもの船を動かすには話にならない様な風だっただろう。ニーナが、タツタツの実の能力者であることを除けば。

「全員、しっかり掴まってぇ!」
「はぁ?……… なっ、うっ!」

唐突に吹いた強風。それはマストにしっかりと受け止められ、大きな軍艦は恐ろしい速さで前進し始めた。

「わ、わっ!あの、ニーナ嬢!1時!1時の方角で、お願いします!」
「はーい!」

咄嗟に声を張り上げた海兵達に軽く手を振ると、言われた通りに船を進めた。

その様子に、モモンガは額に手を当てて唸り、クザンは短く息を吐き出してアイマスクを戻した。
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