09

部屋に戻りふうっと一息吐いたニーナは、落ち着こうとしても我慢が出来ず、嬉しそうにその場を飛び跳ねてみた。

「よかったね。鎖だけでも取れて」
「はい。クザン、ありがとう」

素直に喜ぶその姿に、思わずクザンも頬が緩んだ。だから何時の間にか忘れてしまいそうになる。彼女は決して味方ではないのだということを。

ぼんやりとクザンがニーナの様子を見ていれば、部屋に響き渡るノックの音。

「来てやったよ…… まったく、何だい。この悪趣味な部屋は」
「つる中将。ありがとうございます。こればっかりはちょっと我が侭言いたくて」
「我が侭の内に入らないだろう。ほらクザン。アンタは出てっておくれ」

いきなりつるに出て行けと言われ首を傾げたクザンだが、ニーナからもお願いと言われては逆らえない。

「さて。まずはサイズを測ろうかね。育ち盛りだ。また合わなくなったらお言い」
「はい。すみません。大参謀のつる中将の手を煩わせてしまって」


***


そんな会話をしたつるがそれじゃあ後でまた来るよ、と出て行けば、ニーナもそれを笑顔で見送る。

パタンと扉を閉じて取り残された少女の部屋から別の場所を目指せば、そわそわとした様子のクザンが廊下で待ち構えていた。

「なんだいクザン」
「ああ、いやその…… まあ、気になっちゃってね。何頼まれたんですか?」
「お前達が大馬鹿だってことさ」

フンと言って通り過ぎるつるの後を、それじゃあ解らないとクザンが追う。

「ねえねえ、教えて下さいよ。一応、俺監視役でしょ」
「まったく。じゃあ言うけどね、男には理解出来ないのかもしれないけど、女の下着は一つじゃないんだよ」
「はっ?」
「胸の下着さね。まったく。この数週間何も着けずに過ごしたなんて、女にとっては拷問だよ」
「ええええっ!」

何を想像したのか、思わず頬を赤らめるクザンにつるが冷めた視線を向ける。

「男だと相談されても困るだろうから、女の世話役が来た時に頼もうと思っていたそうだよ。それから、月のさわりもそろそろだそうだ。本当に、監禁するならそれなりの必需品を渡すのは当然だろう」

つるの言葉に、クザンは絶句する他ない。まさか、そんなことだとはまるで考えていなかった。まあ、あの少女から直接相談されても、確かに困っただろうが。

「センゴクにも聞かれたから言ってやったら、同じように絶句してたよ。本当に………… どうしようかね」
「…………」
「あの子を拘束する理由は、抵抗されない為だ。でも、こうも素直だとその理由が無くなるよ。牢獄に入れたらそれで、兵器の情報は知れないままだ。抵抗も見せない、暴れもしない娘を、意味もなくこの先何年と本部の部屋で監視し続けるのは、双方神経に悪いよ」

そう。あれだけ従順で健気だと、鎖に繋いで窓一つ無い部屋に拘束したまま、というのは難しいのだ。今はクザンが監視しているが、何時迄もずっとという訳にもいかない。遠征だってあるし、仕事も一応ある。

「どう思います?つるさん。ニーナちゃん。本当に、受け入れてるんでしょうか」
「さあね。でも、こっちに今すぐ復讐しようとは、思ってないね。少なくとも十五の小娘の嘘を見抜けない程、衰えてはいない積もりさ」
「そうなんすよねぇ」
「…………本当に、最初はまるで人形みたいだったとは思えないよ」
「はい?どういう意味っすか、それ」

クザンが食いついたその言葉に、つるはチラリと見遣って話した。

「あの部屋に入れられてから、監視用の電々虫を置いといたんだけどね。何をするでもなく、人形の様な目で身動き一つしなかったよ。二日間。ずっとね」
「……ニーナちゃんが?」
「ああ。それが、三日目からコロリと変わってね。監視の海兵と明るく会話する様になったのさ。それを状況を受け入れたって言っていいのか解らないよ」

解らない。今のニーナからは想像もつかない様子だ。けれど嘘を付く理由もないので、つるの言葉は本当なのだろう。

「まあ少しの間様子を見ようね。あの部屋からも出れるよう、センゴクを説得しておくよ。何かを企んでるなら、あの子の出方も気になるし。それに、このマリンフォードからは逃げられやしないよ」

そう言い切って去って行くつるを、クザンは難しい顔で見送ると、ポリポリと頭を掻きながら深いため息を吐き出した。
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