時は限りなく | ナノ


26

ニーナたちは順調にアラバスタへの航路を進んでいた。
ナミの容態もすっかり安定し、もうトラブルなど早々起こらないだろう、と思っていたのだが。

「いやいやもうほんと。なんも知らねェからおれはっ」

口笛を吹いて顔の前で手をひらひらと振る仕草。思い切り逸らされた目を見なくとも、ワザとらしいの言葉が出るだろう。
ルフィに詰め寄るサンジ曰く、食料が何者かに食べつくされたというのだ。

食材の確保が難しい海の上において、つまみ食いは非常に重い罪だろう。
それはそうと、犯人を締め上げているサンジの横で、ビビが今後のことを説明すべくアラバスタの状況とクロコダイルという男の地位を語りだした。

「英雄?クロコダイルはアラバスタの英雄なの?」
「“王下七武海”っていうのはつまり、世界政府に雇われた海賊達のこと。“七武海”が財宝目当てに海賊を潰すのも、“海軍”が正義のために海賊を潰すのも。国の人達にとってのありがたさは変わらないってわけ……そうよねニーナさん」

王下七武海の地位を確認してくるビビに、ニーナも苦笑で返した。

「残念ながら、まあそうね。でもクロコダイルの場合、英雄扱いを敢えて狙ってると思うけど。きっと政府や国民の目を欺くために」
「ええ。私もそう思うの」

ニーナの言葉にビビも頷く。国の乗っ取りを企むクロコダイルは周到な男だ。海賊潰しの海賊、という市民が持つ英雄のイメージを、巧みに利用しているのだろう。

その後も続くビビのバロック・ワークス社の説明を要約すれば。クロコダイルから直接指令を受けるオフィサー・エージェントとフロンティア・エージェント。そしてその配下にあるビリオンズ200人とミリオンズ1800人。オフィサー・エージェントは重要任務に就き、ビビが所属していたフロンティア・エージェントは資金集めを担当。
そしてアラバスタ王国乗っ取りの期が近い今、重要任務をこなすオフィサー・エージェント達は、アラバスタへ集結する筈。

「そ〜か、じゃあクロコダイルをよ!ブッ飛ばしたらいいんだろ!?」

正しいが、色々と重要な所を端折った感じが否めないルフィの一言に、ニーナもまた苦笑を漏らした。



***


ドラムを出港後五日目、メリー号では食料不足が深刻な問題になってきた。ついには釣りの為の魚のエサまで食べてしまったルフィが、エサの代用としてカルーを糸に括り付けて釣りに挑んでいる。

けれどそれによって釣れたのは、魚ではなくオカマだった。



「いやーホントにスワンスワン」

ホットスポットに入ってしまい、立ち込める蒸気に視界を奪われている間に、目の前のオカマも見えないままカルーにぶら下がっていて船からはぐれてしまったらしい。

白鳥の飾りの付いたマントに、バレリーナのような格好。派手なメイクと特徴的な喋り方は、どこかの監獄のオカマ女王を彷彿とさせる。

「お前泳げねェんだなー」

カルーから手を離し海へ落ちてしまったオカマは、カナヅチだったらしく、自力では上がってこれなかった。

「そうよう。あちしは悪魔の実を食べたのよう」
「へー!どんな実なんだ?」
「そうねい。じゃああちしの迎えの船が来るまで、慌てても何だしい。余興代わりに見せてあげるわ」

そう言って立ち上がったオカマが、いきなりルフィの顔を殴り飛ばした。

「っ!?」

何の積もりか。敵意が感じられなかったために反応が遅れてしまったニーナも、思わず拳を構える。
が、笑顔で待て待てと手を振るオカマは、オカマでは無かった。

「ジョ〜〜〜ダンじゃなーいわよーう!!」

ルフィの顔。ルフィの声。ルフィの体格でそう言った彼。マネマネの実の能力に、ニーナも思わず口を開けてしまう。
ポンポンと余興に皆の顔を触っていくオカマが、その右手でニーナの顔にも触る。
右手で触れれば、相手をマネ。左手で触れれば元通り。なんとも妙な能力だ。

その後もルフィ達におだてられ、能力を披露していくオカマ。妙な友情が芽生え出した頃、オカマを迎えに来た船に飛び移り、涙を輝かせて笑顔で去っていった。

しかしその去り際に、とんでもない発言を残していく。

「友情ってヤツァ、付き合った時間とは関係ナッスィング…… さァ行くのよ、お前達っ!」
「ハッ!Mr.2・ボン・クレー様!」

「!!?」

当然だが、その言葉に麦わらの一味全員が反応する。

「Mr.2!!!」
「あいつが……Mr.2・ボン・クレー!」

顔は知らなかったというビビが、青い顔で震える。彼が先ほど披露した能力で、アラバスタ国王、ネフェルタリ・コブラの真似まで見せたというのだ。だとすれば、相当厄介なことになる可能性が高い。

敵に回せば嫌な能力だ、と頭を抱えそうになったが、ゾロがそこで不敵に笑ってみせる。
むしろ、敵の能力を知れてラッキーだというのだ。能力が分かれば、対策も取れる。

「……なるほど。これを確認すれば仲間を疑わずに済むわね」

左腕に巻きつけられた包帯。全員に共通の印をつけておけば、いざという時に確認が取れる。
確かに、そう考えればここでMr.2の能力を知れたのはラッキーだったと言えるだろう。

「よし!とにかく、これから何が起こっても左腕のこれが、仲間の印だ」

ルフィの力強い声に揃えて、全員が左腕を突き出す。アラバスタが視界に入った今、その決意を胸に上陸を決める。

「仲間の印……か」

視線を落とせば、胸に湧く複雑な思い。けれどその中に、僅かな喜びを自覚してしまいニーナは戸惑う。仲間という言葉に喜びを感じることを、素直に嬉しいと受け止められない。

ふと視線を上げれば、左腕の包帯に右手を添えながら笑うビビと目が合った。
純粋に仲間の言葉に喜べる彼女を、ほんの少しだけ羨ましいと思ってしまう。

「……頑張ろうね」
「ええ。ありがとう、ニーナさん」

自分の気持ちを誤魔化すための言葉に、ビビが頬を綻ばせて答えるものだから、ニーナの胸に走る感情に僅かな罪悪感が増えた。


すぐ側まで迫った大国。見える岸は砂の色を見せ、照りつける太陽は強い。視界に映るアラバスタ王国を、麦わらの一味がまっすぐ目指す。
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